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108 カネコ、足止めを喰らう。
しおりを挟む六、五、四階層と進むほどに増えていくダンジョンイーター。手当たり次第に喰い散らかすもので、ダンジョン内が虫食い状態になりつつある。
これを討伐しようと群がっていたのは、ダンジョン側が派遣した魔獣たち。
あちこちにて衝突しては騒動が勃発している。
破壊と混乱の渦中を突っ切るカネコモービル、それをしつこく追い続けているメンチキ。
ダンジョンそのものの崩壊も始まっており、現場はカオスと化していた。
極力戦闘を回避したおかげで、ワガハイたちは早や三階層目に到達した。
地上まではあと少し……
ブロロン、アクセルを回し直線通路を抜けた先は、ひらけた場所。
だが、ここでワガハイたちを待ち受けていたのは驚愕の光景である。
ダンジョンイーター五体とダンジョンのボスキャラ五体がくんずほぐれつ、大乱闘をくり広げていた。
金棒を振り回す一つ目の巨人は、四層のボス部屋にいたカナブン。
ドロドロの大きなオオカミは、五層のボス部屋にいたブーシャン。
宝箱に擬態し合体変形するのは、七層の隠し部屋にいたシェイプシフター。
巨大な鎌を持つカマキリみたいなのは、六層のボス部屋にいたトウシロウ。
三首の大トカゲで地水火の三種の強烈なブレスを吐くのは、七層のボス部屋にいたトゥリアライモス。
各階層のボス部屋を任されていた猛者たち。
一度倒したら、数日はリポップ(※再出現すること)しないはずなのに、もう復活している!
ダンジョン側はいよいよなりふり構わなくなってきた模様。
どいつもこいつもひと筋縄ではいかない相手だ。
それを前にして一歩も退かないどころか、互角にやり合っているダンジョンイーターらも、いままで目にしてきた個体とは明らかに姿形が異なっている。
これまでに遭遇したのは、たんなるのっぺりとした巨大なミミズに不気味な口がくっついただけであったのに、ここにいるのは肌が青銅色だったり、黒銀や真っ赤だったり。体表もゴツゴツしており、まるで甲冑でも身につけているかのよう。
どうやらダンジョンを喰らうことで、成長して体が変化した連中のようである。
それすなわち、強いということ!
怪獣大決戦の図――
そんなところにのこのこやってきたワガハイたちは、当然のごとく巻き込まれた。
こりゃたまらんと、すぐに逃げ出そうとするも、そうは問屋が卸さない。
出口が瓦礫に埋もれていた。これでは進めない。
だからいったん戻って迂回しようとするも、そのタイミングでダンジョンイーターにまたがったメンチキが追いついてきてしまう。
目敏いメンチキは、こちらが立ち往生をしている理由にすぐに気がつき「コケーッ」とひと鳴き、いましがた自分たちが通ってきた道を戦斧にて崩してしまう。
退路を断たれて、閉じ込められてしまった!
「うんにゃー! いよいよ進退きわまったのにゃあ~」
「ちくしょう、どうすんだよコレ!」
「こうなったら全部まとめてぶっ飛ばすか?」
「いや~、さすがにそれはちょっと厳しいかと」
「ならば隙をついて逃げるしかあるまい」
「とはいえ、肝心の通路がアレでは……」
「ちっ、めんどうだが瓦礫をどかして、通れるようにするしかねえ」
そうしている間にもメンチキが脇目も振らず、こちらに突進してくる。
のんびり相談している時間はない。
一行は二手に分かれて、片方が通路の復旧を担当し、もう片方がこれを守ることになった。
復旧組は、ギルド長、魔法使い、賢者。
守備組は、女騎士、聖女、勇者、ワガハイ。
というわけで、ワガハイたちはすぐさま前へと出て配置につく。
〇
ダンジョンイーターにまたがったメンチキ、襲来!
「にゃーっ!」
ワガハイは地魔法を発動。頑丈な岩の壁を突出させては盾とし、ヤツの突進を受け止めた。
すかさず岩壁の両サイドから駆け出したのは女騎士と勇者だ。
左右からの挟み撃ち。
しかし勇者の攻撃は不発、ダンジョンイーターの長い尾によりペシンとはたかれてしまう。
一方で女騎士の斬撃も、メンチキの戦斧によって防がれてしまった。
人馬一体のごとき華麗な手綱さばき。
どうやらメンチキは、ここまで来る間にダンジョンイーターを完全に乗りこなすことに成功したようだ。
機動力を手に入れたメンチキは、最深部で対したときよりもずっともっと手強くなっている。
ギリギリギリギリ……
女騎士とメンチキが鍔迫り合い――からの激しい打ち合いを始めた。
「うぉおぉぉぉぉぉっ」
「コケェエェェェェェーッ」
共に雄叫びをあげては、剣と斧を幾度も交える。
凄まじい剣戟。
女騎士はすでに魔眼を発動している。
なのに攻め切れない。
ということは、それだけいまのメンチキに隙がないということ。
それどころかメンキチの方が、じりじりと押し始めているではないか!?
どうやらダンジョンイーターという馬上の優位性が、はやくもあらわれたようである。
「くっ」
負けじと女騎士も踏ん張っているが、このままでは……
だが、ここで聖女が動く。
「聖貫光殺砲!」
ひと差し指同士を合わせたキュートなズッキュンポーズにて、聖女の指先よりペカーと放たれたのは赤い色をした光線。
真っ直ぐにのびた赤い光が当たったのは、メンチキの左目にて。
とたんにメンチキが「ぎゃっ」とうめいて顔をそらした。
「おぉ、光魔法による攻撃かにゃあ」
ワガハイが驚いていると、聖女は首を振った。
「いいえ、ちがいます。ただの目くらましです」
とどのつまり、赤い光はレーザーポインターみたいなもの。
なんでも資料の重要な箇所を指して強調できるので、会議やプレゼンのときにとても重宝しているそうな。(※良い子のみんなにお報せです。レーザーポインターは失明や火傷の恐れがあるので、絶対にヒトの目に向けないように注意しましょう)
「……ダメなのに、アレはいいのかにゃあ」
「かまいません。だってアレは魔獣だもの。そんなことよりもワガハイさん、いまのうちです。彼女に加勢してあげてください」
向こうが人馬一体ならば、こちらも対抗すべし。
女騎士と寄宿生物カネコ。
異色コンビを再結成せよとのご下命を受けて、ワガハイはすぐに女騎士のもとへと向かった。
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