寄宿生物カネコ!

月芝

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106 カネコ、みつどもえ。

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 ドォオォォォォォォーン。

 落ちた通路の天井。
 噴き出した大量の埃とともに、出口からこけつまろびつ。
 危機一髪のところであった。
 ワガハイはギリギリ虎口を逃れて脱出に成功する。

「ふぃ~、やれやれだにゃん」

 厭な汗をかいたもので毛がしっとりへにょり。
 全身埃まみれにて鼻がムズムズ。

「ぺぷしっ」

 くしゃみをしたところで、ワガハイはようやくボス部屋の異変に気がついた。
 シーンと静まり返っている。
 さりとて戦闘が終了したのかといえば、そうではない。
 なぜならボスのメンチキはいまだ健在だからだ。
 仲間たちがやられたのかといえば、それもちがう。
 みんな武器をかまえたままで固まっている。なのに目だけはキョロキョロ、忙しなく動かしてはしきりに警戒している。
 いったい何を気にしているのかとおもえば……

「っ! 何にゃんアレは!?」

 部屋の壁の一角が崩れて、そこからにょろにょろ。
 顔を出していたのは巨大ミミズみたいなバケモノ。
 赤茶けた色をした長くうねる体、のっぺりした頭部にあるのは口のみ。
 ヒトと同じような歯があって、妙に白くて歯並びがいい。だがそれだけではなくて、口腔内の奥にはびっちりとノコギリの歯のようなものが大量に生えては螺旋を描いている。固い物から柔らかい物まで、なんでもかじっては咀嚼し呑み込んでしまいそう。

「……ダンジョンイーター」

 ワガハイは自分でも気づかぬうちに、その名を口にしていた。
 そして遅まきながら現状を把握した。

 メンチキと勇者一行とダンジョンイーターと。
 互いが互いを牽制しており、うかつに身動きが取れない。
 みつどもえに陥っていたのである。
 場をさらにややこしくしているのが、コアを盗まれてすっかりお冠となっているダンジョンそのもの。さっきからプルプルと鳴動が続いており、どんどんと強まっている。
 待ったなしの状況下、三者はにらみ合い、緊張感だけがピリピリと高まっていく。

 まるでパンパンに膨らんだ風船のようだ。
 下手につついたら、たちまちパンっとはじけるだろう。
 はてさてどうしたものかと、ワガハイは苦慮する。
 するとそんなワガハイにギルド長が目で合図を送ってきた。
 ワガハイはコクンとうなづき、あらかじめ決めておいた手筈通りに動く。

 くりんと身を丸めては、ゆらゆらしている三本のしっぽのうちの一本をくわえて、ブチッと引き千切った。
 切れたしっぽはカネコボムになる。
 でも、すぐには投げない。
 その前にスゥハァ、大きく深呼吸をしてからの――

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~ん!」

 カネコボイス発動。
 説明しよう。カネコボイスとは聞く者の耳にキーンと響く、ただの大声である。
 いきなり聞かされたらとてもびっくりして、頭がくらくらする。
 なお「ごろにゃん」と魅惑のネコ撫で声により対象を魅了する別バージョンもある。

 突然の大声におもわずこっちを向いたメンチキとダンジョンイーター。
 注目が集まる。
 ワガハイは仲間たちがちゃんと顔を伏せているのを確認してから、「えいっ」と千切ったしっぽを投げた。
 宙にてウネウネする物体に、メンチキとダンジョンイーターが首をかしげたところで――ピカピカッ、どっか~ん!

 閃光とともに爆発が生じた。

 これをまともに見てしまったメンチキとダンジョンイーターが「ぐぅおぉぉぉぉ」「キシャアァァァァ」と苦しそうに身をよじる。

「いまだっ!」

 ギルド長の合図に応じて、仲間たちが一斉に撤退を開始した。
 もちろんワガハイも逃げ出した。

  〇

 最後尾にいたワガハイが扉の隙間から飛び出したところで、先にボス部屋を抜けていた女騎士がドアストッパーを破壊し、ギルド長がすかさず「おらっ」とウオーハンマーで扉を叩いて閉めた。
 さらには魔法使いが簡単には開けられないようにと、地魔法で杭を打ち込む。
 見事な連携にて封印完了。
 続けて、ワガハイたちは逃走準備に移行する。
 あらかじめ決めていた手順その五に従って、ちゃちゃっと用意する。

 ワガハイはカネコモービルを取り出しては、マシンの点検をする。
 パカッと駆動部分のフタを開ければ、なかにいる小さなゴーレムたちが「まかせとけ」とばかりに、グッと拳を突きあげて見せた。
 ひさしぶりの出番にみんな張り切っている。
 愛いヤツらめ。無事に帰還できたらご褒美に、内臓している魔晶石を新調してメンテナンスがてらパワーアップをしてやろうと、ワガハイは決めた。

 他のメンバーらはスノーボードの板を装着し、マシンと自分たちを繋ぐロープの状態を確認する。
 でも、モブ顔勇者のみがちょっとモタモタしていた。
 どうやらまた死んで復活したらしく、ちょっとぼーっとしている。
 これを見かねた聖女が「もう、しょうがありませんね」と世話を焼いている。
 甲斐甲斐しいことで、なんだかんだでふたりはお似合いなのかもしれない。

 などと考えながら、着々と準備を整えていた時のことである。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 ボス部屋の扉を内側から叩く音がした。
 音はどんどん大きくなっては、激しさを増すばかり。
 あわよくばメンチキとダンジョンイーターが潰し合ってくれればと期待していたのだけれども、それはかなわなかったらしい。
 それどころか両者は協力して扉を強引に突破しようとしているっぽい。

 ――ビキリ。

 扉に亀裂が入った。もうモタない。
 だからワガハイたちはすぐに出発する。
 ブロロロロ……
 アクセル全開にてカネコモービルが走り出し、ロープに繋がれたみんなも滑り出した。
 それと入れ替わるようにして、扉が倒壊し、奥からメンチキとダンジョンイーターが躍り出てきた。


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