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104 カネコ、ラスボスに挑まない。
しおりを挟む「……行きましょう」
勇者パーティーの実質的なリーダーである聖女のツルのひと声で、一行は十階層に挑むことになった。
えっ、モブ顔勇者さま? あんなものはただの飾りです。
せっかくここまで来たのに手ぶらでは帰れない。
みすみすダンジョンイーターなるトンビに、横からひょいと油揚げをさらわれるのも口惜しい。
だから、ササッとコアをいただいてシュタタと逃げることにする。
というわけで、GO!
ワガハイたちはやや駆け足で、最下層へと通じる階段を降りていく。
〇
さいわいなことに、生えたばかりの十階層はまだ十分な広さに育っておらず、うろついている魔獣の数も少なく、構造も複雑じゃない。
おかげでわりとすぐにボス部屋の前まで到達できた。
でも向かっている途中から、これまで聞こえなかった不気味な地鳴りが断続的に起きていた。どうやら上の方でダンジョンイーターとダンジョンが丁々発止を始めたらしい。ぐずぐずしていたら、いずれこちらにも争乱が波及するだろう。急がなければ……
ワガハイたちはボス部屋突入前に、準備を整えがてら段取りの最終確認をする。
戦闘準備よし!
なおコア奪取の手筈はこうだ。
手順その一。
扉を開けるのと同時に飛び込み、勇者パーティーとギルド長はラスボスへ。様子見はしない。ラッシュ攻撃をかける。可能ならば速攻で仕留める。
なおその際に扉が閉まらないように、地魔法で造ったドアストッパーをかまして退路を確保しておく。
手順その二。
戦闘が始まったところで、どさくさにまぎれてワガハイはこそっと侵入する。
カネコインビジブルで姿を隠しては差し足忍び足、向かうはダンジョンコアのところだ。
手順その三。
警備の目を掻い潜りお宝をアイテムボックスに放り込んだら、シメシメ。
あとは「あばよ、とっつぁん」との捨て台詞にて逃げる。
手順その四。
逃亡する際に、仲間たちとラスボスがなおも戦闘中であれば介入する。
ブチッと千切った尻尾を投げ込む。ワガハイの尻尾はカネコテイルボムなる武器にて、爆発と閃光を生じる。これを目くらましに使う。
で、ボス部屋より離脱する。
手順その五。
怒って追ってくるであろうラスボス。
だからドアストッパーをはずして扉を閉める。ついでに杭でも打ち込んで、開けられないようにする。
それと平行してワガハイはカネコモービルをスタンバイ。
仲間たちも急ぎスノーボードの板を装着する。
あとはカネコモービルと繋いだロープをみんながしっかり掴んだところで、ブルルンとアクセル全開にて地上へ向けて、ひたすら突っ走る。
ようは、かつて古代遺跡の大冒険でやった作戦の二番煎じである。
ちがう点は、急遽だったので足下がローラースケートじゃなくて、ボードになったこと。もちろんよく滑るように底面はツルツルに加工済みだ。
細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ。
というわけで、作戦スタート!
〇
仲間たちがボス部屋に突入し、戦闘がはじまった。
ワガハイは開いた扉の隙間から、こっそりなかの様子を盗み見る。
「うげ~、あのラスボス、キモいのにゃあ」
ラスボスはマッチョな鳥男だった。
全身ムッキムキで首から上がニワトリでコケコッコー。
あとで教えてもらったところによると、メンチキという名前らしい。
見た目通りの剛力にて、巨大な戦斧をブンブン振り回している。
それと正面切ってはガンガン打ち合っているギルド長が、なんとも頼もしくも恐ろしい。
で、その隙に他のメンバーらが左右の側面に回っては、同時攻撃を仕掛けようとするも、その時のことであった。
メンチキがギルド長の一撃を打ち払った勢いのままに、戦斧をぶん投げた。
ギュルギュル回転して飛ぶ戦斧が向かったのは、魔法使いと賢者がいるところ。
彼女たちはあわてて逃げて回避する。
だが、それで終わりではなかった。
飛んでいったはずの戦斧がいつのまにやらメンチキの手元に戻っており、間髪入れずに今度は勇者と聖女がいる方へと投げつけられる。
まさかの二連投に、こちらは対応できず。
とっさに勇者が聖剣で直撃こそは防いだものの、踏ん張り切れず。背後に庇っていた聖女ごとまとめて「うわっ」「きゃーっ」と吹き飛ばされてしまった。
ならばとこの隙に打ちかかるギルド長であったが、渾身のウォーハンマーは、またもや手元に戻ってきた戦斧によってはじかれてしまう。
どうやらメンチキの戦斧は、手放しても自在に戻ってくる機能が備わっているようだ。
このやっかいな武器を十全に使いこなしているメンチキ。高い身体能力と剛力が合わさり、ラスボスにふさわしい強さ。
「これは……そうそうに決着をつけるのはムズカシそうにゃんねえ。どれ、ではワガハイもそろそろ動くとするかにゃあ」
カネコインビジブルを発動する。
とたんにワガハイの姿は周囲の景色に溶けて見えなくなった。
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