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096 カネコ、二択に泣く。
しおりを挟むダンジョン六層目をクリアし、七層目へと突入する。
この辺りにまでくると、内部の景色はずいぶんと様変わり。
浅い階層は岩肌にて足下もちょっとデコボコしていたのに、中層では総石造りの迷宮然とした姿になっている。
足下も平らにて道幅もあり、歩きやすく戦いやすい。
ゆえに進行スピードはあがっているけど、そのわりに攻略はやや停滞気味。
原因は潜るほどにダンジョンがじょじょに規模を大きくしているから。
あちこち動きやすい反面、探索範囲も広がるので、実質的な労力は増えている。かつ出現する魔獣も手強くなっているので、そう都合よくはいかない。
あとは中だるみも少々……
陽の光の届かない地下の穴倉にずっと籠っているのは、おもいのほかこたえるのだ。
もしかしたらダンジョンに吸い取られているのは魔力や生命力だけでなく、精神もなのかもしれない。
ムリをしてもいいことはない。
だから二日目のダンジョンアタックを、そろそろ終いにしようかとした矢先のことであった。
ふわりと髭をなでるものを感じる。
「うにゃ、ここからかすかに風が吹いているのにゃあ」
壁からの隙間風に気づいたのはワガハイである。
一見するとただの壁だけどムムム、なにやら怪しい。かつて古代遺跡で見た隠し扉っぽい気がする。
だから念のために調べてみたら、やはりそうであった!
小柄だけと力持ちなギルド長が「ふんっ」と押せば、壁の一部がガコンとへこんで、ゆっくりと横へスライドしていく。
あらわれた隠し通路。
奥からブワッと冷たい空気があふれてくる。
照明は設置されておらず、真っ暗だ。
大人ひとりがやや背を丸めれば、どうにか通れらる程度の幅と高さしかない。
ぽっかり開いている姿は、まるで巨獣の口のようで不気味だ。
いつもならば我先にと突入するであろう勇者さまも、これには二の足を踏んでいる。
そしていまさらながらにワガハイはあることに気がついた。
この一行に斥候職が随行していないことに。
だからとて、いきなり全員で未知の通路に乗り込むのは、いくらなんでも無謀というもの。
そこで……
「「「「「「「じゃ~んけん、ぽん! あいこでしょ、あいこでしょ」」」」」」」
誰が負けても恨みっこなしよ。
じゃんけん大会にて、公平に人身御供もとい斥候役を選出することにする。
言い出しっぺは賢者だった。
なぜだかギルド長とワガハイも参加となった。
で、最後まで残ったのは……
〇
真っ暗な中を慎重に進む。
カネコアイは優秀なので、ジト目になれば暗闇でもばっちり見える。
ちょっとカビ臭い。鼻がむずむずしたもので、ワガハイは「ペプシッ」とくしゃみした。
じゃんけん勝負。
最後まで残ったのはワガハイと勇者にて、不覚にも弱点を見抜かれてしまい、ワガハイは敗北を喫する。
なにせワガハイはネコ手なもので。
うにゃーっ、チョキが出せない!
使えるのはグーとパーのみ。
すべてはヤツの策略であった。
どうやらワガハイは賢者にハメられたらしい。その称号は伊達ではなかった。おそるべし、賢者!
いやおうなしに二択を迫られるワガハイ。
だが、それだけではない。じつはさらなるハンデをも負っていたのだ。
それはトラばりの手と肉球ゆえに、ググっと拳を握る動作が丸見えになっちゃうこと。
じゃんけんのさなか、秒にも満たぬ刹那の刻、冷静に見極められると初動がモロバレ!
後出しギリギリを狙うチキンレースに競り負け、後の先をとられてしまうという結果に……ぐぬぬ。
賢者とギルド長はすぐにこれに気がつき、そろっていち抜け。
続いて抜け目のない聖女が、やや遅れて魔法使いにもバレてしまう。
ついにポンコツ勇者にまで……なんたる屈辱。
ワガハイは心のなかで血の涙を流し慟哭した。
そしていつの日にか、かならずこの恥辱をそそいでやろうと誓った。
ぷつぷつ文句を言いながら進んでいると、前方に光が見えてきた。
進んだ先に待っていたのはひらけた空間で、そこには五つの祭壇があって各々に大きな宝箱がデデンと置かれてあった。
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