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094 カネコ、回復の泉で一服する。
しおりを挟むダンジョン五層目、ボス部屋近くの安全地帯にて――
初日の行程はここまで。
いちおう予定通りではある。
なんだかんだで、わりとサクサク進んだのは事前に他の冒険者たちによって、ザコが狩られていたから。加えて勇者以外のパーティーメンバーらの実力もさることながら、難易度自体も軽めだったから。
このダンジョンはまだ若い。
ダンジョンの狩り時は十五層前後になったあたり。
なのに充分に育つ前に討伐しようとしている勇者らへの風当りは、じつはけっこう強かったりする。
冒険者たちはみな表向きギルドの決定に従ってこそいるが、裏では「もったいねえ」「余計なことしやがって」「くたばれ!」などとボロクソ文句を言っている。
そのためいっしょに行動している、ワガハイまで非難の目向けられ、居心地が悪いったらありゃしない! とんだとばっちりである。
「せっかくコツコツ積み上げてきた好感度がダダ下がりだにゃん! 責任をとって、ワガハイを冒険者ギルドのトライミング支部の公式マスコットキャラクターにするのにゃあ~」
どさくさにまぎれてダメ元でお願いしてみたら、意外にも「考えてやらんこともない」とギルド長はアゴに手を当てフムとうなづく。「ただし、今回の依頼をちゃんと達成したらな」
この言葉にワガハイは俄然やる気となったのは言うまでもない。
だがしかし、明日以降はこうはいかないだろう。
ここまでは序の口、本番はこれからだ。
というわけで、今夜はゆっくり心身を休めて、明日以降の攻略に備えることになっている。
ワガハイはアイテムボックスから、預かっていた野営道具一式と食べ物などの物資をポンポン出す。
テントの設営はギルド長がやってくれるそうなので、ワガハイは食事の準備だ。
なお勇者一行のテントはもちろん男女別である。
同衾なんぞはもってのほか。
勇者は独り寝用の小さなテントに寝袋という組み合わせ。
女性陣のテントは見た目こそは勇者のモノと似ているけれども、機能がまるでちがう。一歩なかへと入れば、二十畳ほどもの広々としたスペースになっており、四人分のふかふかのベッドに鏡台、洗面所、クローゼット、テーブルにソファーなどなど。一式が揃った快適空間が整っている。
そう、女性陣のテントは激レア超高級魔道具なのだ。それもアロセラ教団が所有するとっておきの。
ぶっちゃけ、女性陣たちのテントをアイテムボックス代わりにすれば、ワガハイなんていらないのでは?
とおもわなくもないけれど、余計なことを言ったら何十倍にもなって跳ね返ってくるので、ワガハイは口をつぐんでおく。
食事の準備といっても、やることは具材たっぷりのスープが入った大鍋を火にかけるぐらい。なにせワガハイのアイテムボックスは時間停止機能付き。だから、作りたてを収納すれば、いつでも熱々が食べられる。
が、せっかくのキャンプなのに「出して、ハイおしまい」では、いささか情緒がない。
だからわざわざ地魔法で窯を造っては、鍋を火にかけかき回し、それっぽい雰囲気を演出する。
するとそんなワガハイを横合いから興味深げに眺めていたのは賢者さま。
かわいい娘さんからジーっと見つめられて、ワガハイちょっとモジモジ照れちゃう。
「器用なモノですね。ただのシシガシラもどきかとおもいきや、たいしたものです。寄宿生物カネコですか……じつに面白い。興味深いです。ぜひとも解剖したい」
ポロっとトンデモナイことを口走る賢者さまに、ワガハイはビクゥ!
わりとまともかとおもいきや、さにあらず。
しょせんは彼女も勇者パーティーのメンバーであった。
(こいつら、もうヤダ……)
ワガハイがげんなりしていると、視界の隅では回復の泉でバシャバシャ顔を洗っている勇者の姿が映る。
「にゃーっ! あのバカたれ。あれは飲んだら元気になるご利益のある泉なのに、何をやっているのにゃあ」
とんだマナー違反にて、ワガハイが注意しようとするも、その時のことであった。
尻尾をギュッと掴んで止めたのはギルド長である。
「ん? どうして邪魔するのにゃ。ばっちいのにゃあ」
口を尖らせるワガハイに、ギルド長は口にひと差し指を当て黙ってろのポーズ。
「まぁまぁ、じきに面白いもんが見れるから」
「面白もの?」
ワガハイが首をひねっていると、ほどなくして回復の泉に異変が生じる。
ペカーと水面が光りだして、ぷくぷく浮かんできたのは謎の金髪ロン毛の男か女かわからない中性的な麗人。
「にゃっ、あれは泉の精霊!」
見た目に惑わされて騙された者は数知れず。
欲深い者をおちょくってはほくそ笑む、イタズラな精霊さん。
じつは毎年、新人が何人か痛い目に合ってる。
トライミングの冒険者ギルド支部あるあるで、名物みたいなもの。
かくいうワガハイもおちょくられたことがある。
よもやの再登場、でもどうしてここに?
驚いているワガハイにギルド長が言った。
「なんだ、知らなかったのか? アレはトライミング周辺の泉なら、気まぐれにどこにでもあらわれるぞ」
神出鬼没とは、さすが精霊である。
でもってそんな泉の精霊さまが、勇者を相手にささやいている。
これを受けてモブ顔勇者さまは、大切な聖剣やら財布などを次々に泉にぽちゃんと投げ入れたものだから、ギルド長は腹を抱えて爆笑し、ワガハイは「あちゃあ~」
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