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092 カネコ、ダンジョンアタック!
しおりを挟む行く先々でトラブルを起こす勇者一行。
より正しくは、かんちがい野郎のモブ顔勇者がだけど。
他の四人がちゃんとしているだけに、彼の奇行が目立つ。
本当になんやかやとあった。
けど、あんまりにも多すぎるからいちいち語るまい。詳細はざっくり割愛する。
いろいろすっ飛ばして、やってきましたダンジョン!
「よーし、やってやるぜぇ」
と勇ましく、周囲の制止を振り切り猛然とダンジョンに突撃するモブ顔勇者さま。
パーティーのメンバーおよび同行者らは苦笑いにて、おっちらそれに続く。
ちなみに同行者にはワガハイのみならずギルド長も含まれている。
ギルド長は当初、ワガハイとギルドの腕利きを数名派遣して、自分は高見の見物をするつもりであった。しかし対面時の勇者の暴走を目の当たりにして「こりゃダメだ。王都で会ったときよりもこじらせている。どうにも不安だから自分もついて行こう」と言い出したという次第。
現在、ダンジョンは九階層までスクスク育っている。
この成長ペースだと、勇者一行が最深部に到達する頃には、十階層になっているかもしれない。
ダンジョンの内部の造りは広めの洞穴といった感じ。
これが下へと進むほど、じょじょに変化していき、石造りの神殿のごとき立派な迷宮になるという。
特筆すべきは照明の存在だ。
明るすぎず暗すぎず。床近くの壁に等間隔に埋め込まれた石が、ぼんやり青白く光ることでライトアップ、絶妙に暗がりを残しつつムーディーな雰囲気を醸しだしている。
高まるワクワク感、くすぐられる冒険心、いやがうえにも探索が盛り上がるというもの。
「これは……冒険者たちがこぞって潜りたがるのも納得にゃんねえ」
「まぁな、もっともそれがダンジョン側の狙いなんだが」
ワガハイは「へぇ、ほぅ」とキョロキョロしつつ、ギルド長と並んで歩く。
ここはまだ一階層目にて入り口近くだから、警戒する必要もないからのんびりしたもの。
……のはずだったのだけれども。
「ぎぃやぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ」
突如として聞こえてきた悲鳴が、安閑な空気を切り裂く。
声はこの先の角を曲がった奥からしていた。
一行はすぐに戦闘態勢を整えつつ向かうも、待っていたのは……
〇
「あぁあぁぁぁぁぁぁーっ」
モブ勇者がシュワシュワ泡を立てながら、がぼがぼ悶えていた。
ぷよんぽよんとした黄色い半透明なゲル状の魔獣。その体内に取り込まれ、なかでジタバタ足掻いている。
はた目にはゼリーのなかで遊んでいるようにしか見えないけど。
「あれは何にゃん?」
「スーラだ。にしても少しデカいな。いくつかの個体が合体したか」
ギルド長によれば、ダンジョンではよく見かける魔獣で、別名・迷宮の掃除屋。
ダンジョンの食べ残しやらゴミを片づけ、ヨゴレなんかをキレイに落とすそうな。
いわばワガハイの闇魔法のクリーン・黒のベトベトさんみたいなもの。
スーラは基本的には人畜無害で、こちらからちょっかいを出さなければ何もしてこない。
「そのわりには、ガッツリ呑み込まれているのにゃあ~」
「…………」
ワガハイたちがくっちゃべっている間にも、シュワシュワは続いていた。
いったいさっきからスーラは、熱心に何をモグモグシュワシュワしているのかとおもいきや、正体は衣服であった。
モブ顔勇者さま……、鎧などの防具類を引っぺがされて服だけ溶かされている。
まるでエロゲーのワンシーンのような猥らな光景。
だが、対象がモブ顔勇者では、いったい誰が得をするというのか?
せめて女騎士さんならば、あの伝説の『くっ、殺せ』な名場面を再現できるというのに。
にしても、何やってんの勇者さま?
一同呆れてドン引きである。
とはいえ、さすがにこのまま放っておくわけにもいかないので、しぶしぶ聖女さんが動いた。
聖女は懐から干し肉を一枚取り出し、「ねえ、そこのスーラさん。これとソレ、交換しませんか?」と持ちかけた。
するとスーラは「カーッ、ペッ」
靴下のみ残すというマニアックな姿となった裸の勇者と装備類を吐き出し、干し肉を受け取る。
黄色のスーラはモソモソ、通路の奥へと消えていった。
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