寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
92 / 280

092 カネコ、ダンジョンアタック!

しおりを挟む
 
 行く先々でトラブルを起こす勇者一行。
 より正しくは、かんちがい野郎のモブ顔勇者がだけど。
 他の四人がちゃんとしているだけに、彼の奇行が目立つ。
 本当になんやかやとあった。
 けど、あんまりにも多すぎるからいちいち語るまい。詳細はざっくり割愛する。

 いろいろすっ飛ばして、やってきましたダンジョン!

「よーし、やってやるぜぇ」

 と勇ましく、周囲の制止を振り切り猛然とダンジョンに突撃するモブ顔勇者さま。
 パーティーのメンバーおよび同行者らは苦笑いにて、おっちらそれに続く。
 ちなみに同行者にはワガハイのみならずギルド長も含まれている。
 ギルド長は当初、ワガハイとギルドの腕利きを数名派遣して、自分は高見の見物をするつもりであった。しかし対面時の勇者の暴走を目の当たりにして「こりゃダメだ。王都で会ったときよりもこじらせている。どうにも不安だから自分もついて行こう」と言い出したという次第。

 現在、ダンジョンは九階層までスクスク育っている。
 この成長ペースだと、勇者一行が最深部に到達する頃には、十階層になっているかもしれない。

 ダンジョンの内部の造りは広めの洞穴といった感じ。
 これが下へと進むほど、じょじょに変化していき、石造りの神殿のごとき立派な迷宮になるという。
 特筆すべきは照明の存在だ。
 明るすぎず暗すぎず。床近くの壁に等間隔に埋め込まれた石が、ぼんやり青白く光ることでライトアップ、絶妙に暗がりを残しつつムーディーな雰囲気を醸しだしている。
 高まるワクワク感、くすぐられる冒険心、いやがうえにも探索が盛り上がるというもの。

「これは……冒険者たちがこぞって潜りたがるのも納得にゃんねえ」
「まぁな、もっともそれがダンジョン側の狙いなんだが」

 ワガハイは「へぇ、ほぅ」とキョロキョロしつつ、ギルド長と並んで歩く。
 ここはまだ一階層目にて入り口近くだから、警戒する必要もないからのんびりしたもの。
 ……のはずだったのだけれども。

「ぎぃやぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ」

 突如として聞こえてきた悲鳴が、安閑な空気を切り裂く。
 声はこの先の角を曲がった奥からしていた。
 一行はすぐに戦闘態勢を整えつつ向かうも、待っていたのは……

  〇

「あぁあぁぁぁぁぁぁーっ」

 モブ勇者がシュワシュワ泡を立てながら、がぼがぼ悶えていた。
 ぷよんぽよんとした黄色い半透明なゲル状の魔獣。その体内に取り込まれ、なかでジタバタ足掻いている。
 はた目にはゼリーのなかで遊んでいるようにしか見えないけど。

「あれは何にゃん?」
「スーラだ。にしても少しデカいな。いくつかの個体が合体したか」

 ギルド長によれば、ダンジョンではよく見かける魔獣で、別名・迷宮の掃除屋。
 ダンジョンの食べ残しやらゴミを片づけ、ヨゴレなんかをキレイに落とすそうな。
 いわばワガハイの闇魔法のクリーン・黒のベトベトさんみたいなもの。
 スーラは基本的には人畜無害で、こちらからちょっかいを出さなければ何もしてこない。

「そのわりには、ガッツリ呑み込まれているのにゃあ~」
「…………」

 ワガハイたちがくっちゃべっている間にも、シュワシュワは続いていた。
 いったいさっきからスーラは、熱心に何をモグモグシュワシュワしているのかとおもいきや、正体は衣服であった。
 モブ顔勇者さま……、鎧などの防具類を引っぺがされて服だけ溶かされている。
 まるでエロゲーのワンシーンのような猥らな光景。
 だが、対象がモブ顔勇者では、いったい誰が得をするというのか?
 せめて女騎士さんならば、あの伝説の『くっ、殺せ』な名場面を再現できるというのに。

 にしても、何やってんの勇者さま?
 一同呆れてドン引きである。
 とはいえ、さすがにこのまま放っておくわけにもいかないので、しぶしぶ聖女さんが動いた。
 聖女は懐から干し肉を一枚取り出し、「ねえ、そこのスーラさん。これとソレ、交換しませんか?」と持ちかけた。
 するとスーラは「カーッ、ペッ」
 靴下のみ残すというマニアックな姿となった裸の勇者と装備類を吐き出し、干し肉を受け取る。
 黄色のスーラはモソモソ、通路の奥へと消えていった。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...