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089 カネコ、圧迫面接を受ける。
しおりを挟むドワーフっぽい見た目の山人、その成人女性は小柄な方が多い。
さりとて子どもっぽいかといえば、そんなことはない。
たしかに幼顔にて背こそ低いが、いろいろ立派だ。あと男女ともに力持ちだったりもする。
そして豪放磊落な酒飲み男が多い種族特性ゆえか、山人の女性は世話焼き女房タイプが多い。
……と聞いていたのだけれども、少なくとも目の前の女性には当てはまりそうにない。
ゆるふわピンク髪のギルド長。
せっかくの愛らしいご尊顔も眉間に刻まれたシワで台無し。
ムスっとしかめっ面にて、社長イスに座っては、足をドカっと机の上に投げ出している。
ギルド長は機嫌だけでなく、お行儀もたいそう悪かった。
「きたか……」
書類の束を片手にギルド長はそうつぶやき、ジロリとこちらをひとにらみ。
が、挨拶もなく、すぐに書類に目を戻す。
そのくせ圧だけがヒシヒシと。
強制的に呼びつけておいて、これいかに?
ワガハイはどうしていいのかわからず、オロオロする。
「あ~、もしかしてこれがウワサにきく圧迫面接というやつなのかにゃあ?」
圧迫面接とは、威圧的な態度を取る面接方法のこと。パワハラ全開にて、わざとイジワルしてはプレッシャーをかけ、相手の反応をみる。
隣で付き添っている受付のおっさんに、ワガハイはひそひそ。
でも受付のおっさんは否定した。
「ちがう。たんに虫の居所が悪いだけだ。いま、少々やっかいな問題が起こっていてな。そのせいで戻られてからずっとあんな調子だ。
もっともふだんから怒りっぽいし、口よりもまず先に手が出るが……」
受付のおっさんは、そう言ってちらり。
視線の先にあったのは、部屋の片隅にて逆さに立てかけられている武器。
大きなカナヅチ――戦槌、ウォーハンマーというやつなのだが、明らかにサイズがおかしい。
なにコレ? 柄頭のところがドラム缶ほどもあるんですけど。
見るからに超重量級にてヤバそうなブツだ。しかも歴戦の戦士然とした貫禄ある風格からして、もの凄く使い込まれており、けっして飾りなんぞではないことは一目瞭然である。
こんなものでぶん殴られたら、一発でぺちゃんこにされてしまうだろう。
えっ! 口より先に手が出るって……まさかコレでガツンと殴られちゃうの?
ワガハイはおもわずウォーハンマーを二度見せずにはいられない。
それから受付のおっさんの方を見て「マジか?」と目で問えば、おっさんは「マジだ」と目でうなづいた。
――うちのギルド長、超やべえ!
ワガハイはすぐにピンと背筋をのばしては居ずまいを正した。ちょこなんとお座りの姿勢にて、ギルド長よりお言葉を拝領するのをじっと待つ。
〇
ひとしきり書類に目を通し終えたところで、ようやくギルド長が顔をあげ開口一番。
「おまえにはダンジョンに行ってもらう」
有無を言わせぬとは、まさにこのこと!
にしても、どうしてワガハイが?
ワケがわからず首をかしげていたら、ギルド長は続けてこう言った。
「近いうちにクソガキ――チッ、勇者がくる。おまえにはそれに同行してもらう」
いまクソガキって言った? あと舌打ちもしたよね?
にしても勇者か……
そういえばグランシャリオという国が、周辺諸国の反対を押し切って『勇者召喚の儀』を強行したとか、うんぬんかんぬん。ちなみに彼の国にはアロセラ教団の総本山がある。たしか儀式を主導したのも連中だったはず。
ギルド長は、その対応を協議するために王都へと出張していたのだ。
急ぎ戻ったのは、勇者ご一行を出迎えるための準備をするためであったっぽい。
もっとも、そのわりには歓迎ムードは一切なく、むしろものすご~くイヤがっているように見えるのは、けっして気のせいなんぞではない。
まぁ、それはともかく。
「勇者さまのお供をワガハイが? にゃんで?」
ワガハイは寄宿生物カネコである。
超ハイスペックなイケメンだ。けれども冒険者としては、まだまだ未熟な若輩者。
そこそこ実績は積んでいるけど、主にこなした依頼は掃除と害獣駆除ばかり。都市内ではそれなりに知名度は高まっているが、それ以外の地域ではさっぱりなのが現状である。
だから、わざわざ指名をされる理由がわからない。
というか、ダンジョンとか心底行きたくないんですけど……
ワガハイが露骨にイヤそうな顔をしたら、ギルド長も負けず劣らずイヤそうな顔をする。
「お供じゃない。クソガキのお守りは他の者がする。おまえに手伝ってもらいたいのはコアの回収だ」
ギルド長はサラっとトンデモないことを口にした。
勇者ご一行が城塞都市トライミングに来訪する目的は、もちろんダンジョン攻略である。
誰の入れ知恵か知らないけれど、話題沸騰中のダンジョンをやっつけて、己が存在を周囲に知らしめ箔をつけようとの魂胆だ。
だが、たんに攻略したのではつまらない。
そこでダンジョンコアを持ち帰ることにしたんだとか。
成功すれば世界でも三例目。
実績としては充分過ぎてお釣りがくるだろう。まちがいなく名声は高まる。一躍時の人だ。
ただし、成功すれば――の話であるが。
ダンジョンコア回収の難易度はべらぼうに高いのだ。
そしてワガハイが指名を受けたのは、大容量のアイテムボックス持ちだからであった。
ようは荷物持ちである。
「うにゃあ、めんどうくさいのにゃん。丁重にお断りしたいのにゃあ~」
「おまえに拒否権はない、あきらめろ。あ~、それからもしも機会があったら、ついでにクソガキを始末してきてくれ。
なぁにダンジョン内での不幸な事故として、ちゃんと処理してやるから安心しろ」
ギルド長はにへらとの笑みにて、さらにトンデモないことを口にしたもので、ワガハイはぎょっ!
てっきり冗談かとおもいきや、目の奥がちっとも笑ってない。
あらヤダ、勇者ってばめっちゃ嫌われている。
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