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088 カネコ、投網をかけられる。
しおりを挟む冒険者ギルドの先遣隊がダンジョンに向けて出立した。
この連中の仕事はダンジョン入り口の管理および監視、現地での縄張りである。
どこにギルドの出張所を設置するのか、メイン通りの選定、商人たちの出店場所、冒険者らが寝起きするテント村、水場の確保、辻馬車の停留所、ゴミや排泄物の処理などなど。
考えるべきことは多岐に渡る。
ある程度仕切ってやらないと、たちまちごちゃごちゃになりかねない。
これが最初にビシっと決まるかどうかが、ダンジョン攻略の成否のカギを握るといっても過言ではないのだ。
そして受け入れ態勢が確保されたところで第一陣が出発する。
第二陣も三日遅れで向かうことになっており、さらに第三、第四と続く予定だ。
なおダンジョンアタックは事前に登録制となっている。
トライミングの冒険者ギルド支部に申し込む必要がある。
これは個々が好き勝手をしたら、我先にと突入して収拾がつかなくなるから。管理するのは冒険者同士のいざこざを減らす目的もある。迷宮内にて刃傷沙汰とか、ダンジョンにエサを与えるだけなので、ぶっちゃけ人死は迷惑なのだ。
すでに第二陣までの予約はいっぱい。
第三陣も残り枠はわずかにて、それもじきに埋まるだろう。
おかげで一時のことをおもえば、ずいぶんと落ちつきを取り戻しているギルドなのだけれども……
入り口のウエスタンドアを潜ったとたんに、ワガハイのお髭がピーンとなった。
なにやらゾワゾワして、毛が逆立つ。
(うにゃにゃ? これは森の奥でヤバいのと遭遇した時と同じ反応だにゃん。もしかしてダンジョンのウワサを聞きつけて、とんでもない腕利き冒険者が来訪しているとか)
ワガハイは頭をさげ、背中を高くして丸める。耳もピンと張ったイカ耳にて、無意識のうちに警戒態勢をとっていた。
素早く視線を動かし、屋内の様子を探る。
が、それらしい人物は見当たらない。
よくも悪くもモブばかり。
「はて? 気のせい……じゃないのにゃん! たしかにビリビリ感じるのにゃあ」
気配はすれども姿は見えず。
ほんにおまえは屁のような――って、気配じゃなくて声だったっけか。
なんにせよ不可解な状況である。ワガハイが首をかしげていたら、ちょいちょいと手招きするのは受付のおっさんだ。
いつになく真剣な表情にて、これはきっとロクな用件じゃないと判断したワガハイは、気づかぬフリにて口笛ピュウピュウ。
そのまま引き返そうとするも、次の瞬間のことであった。
ガシャン!
勢いよく降りてきたのは鉄格子。
ギルド入り口が内側より封鎖された。
これには居合わせた冒険者たちも驚き「なんだ?」「どうした?」とザワつく。
くっ、ぬかった。こんな設備があったとは……これでは逃げられない!
だがまだだ。ワガハイはすぐさま併設する酒場の方へと向かった。そちらからも外に出られる。
しかし、そちらもあと少しというところで、同じく鉄格子にて封鎖されてしまった。
「コレはいったい何のマネだにゃん」
ことと次第によっては、ワガハイにも考えがある。
と凄もうとした矢先に、バサリ。
上からかけられたのは網。
見事な投網の技を披露したのは、酒場のマスターだった。
よもやこんな特技を隠し持っていたとは……不覚!
かくしてあっさり囚われの身となったワガハイは、受付のおっさんに引きずられていった。
〇
運ばれた先はギルド五階にある部屋。
一時期、ギルドの簡易宿泊室にお世話になっていたので、ある程度はギルド内の構造を把握しているワガハイも、ここには入ったことがない。
なぜならここはギルド長の執務室だからだ。
重厚な扉の向こうから、ヤバい気配がだだ洩れ。
「あっ、もしかしてギルド長が帰ってきたのかにゃあ?」
ワガハイがこの都市に来るのと入れ違うようにして、王都へと出張に向かったギルド長。
それがようやく帰還した。おそらくはダンジョンの件もあったので急ぎ戻ったのだろう。
「そうだ。で、さっそく問題児と会いたいから連れてこいとのお達しがあった。あと、先に言っておくが、いまギルド長はめちゃくちゃ機嫌が悪い。くれぐれも粗相のないようにな」
もしも怒らせたら頭を握り潰されるぞ。
真剣な面持ちで受付のおっさんから脅されて、ワガハイは震えあがった。
だがしかし、扉を開けておずおず入室したところで、三つの目が点になった。
なぜなら、社長イスにてふんぞり返っていたのは、ゆるふわピンク髪をした山人の女の子であったから。
――これがトライミング支部のギルド長!?
放っている気配と容姿とのあまりのギャップに、ワガハイは困惑する。
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