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083 カネコ、石頭のこんこんちき。
しおりを挟むエマージェンシー! トラブル発生!
社会科見学へと赴いた先で、ワガハイは魚ドロボウの濡れ衣を着せられてしまった。
「ワガハイは無実にゃん」
「はいはい、犯人はみんなそう言うんだよねえ」
よってたかって拘束された。
漁具などを保管する倉庫へと引っ立てられて、隅っこに吊るされてしまう。
ミノムシのごとくぷらぷらしているワガハイ。
囲む男たちから向けられる目はとても冷ややかだ。どうやら何度も魚を盗られており、かなり頭にきているらしい。怒りのあまり「とっとと刻んで魚のエサにしちまえ!」なんて物騒なことを言い出す者までいる。
ピリピリした空気。
サンドバックにされかねない雰囲気にて、さしものワガハイも「このままではマズイのにゃあ」と冷や汗ダラダラ。
そのときのことであった。
人垣が割れて、姿をみせたのは何やら見覚えのある人物にて……
「アーッ! 石頭のこんこんちきだにゃあ~」
「誰が石頭のこんこんちきだっ! というか、こんこんちきって何?」
あらわれたのは官吏の制服をビシっと着こなしている取り調べ官。
かつて城塞都市トライミングを震撼させた『怪奇! 教会が黒いベトベトさんに覆われて大パニック事件』のおりに、被疑者として連行されたワガハイの事情聴取を担当した人物である。
なにゆえ、そんな人物をワガハイが『石頭のこんこんちき』と呼んだのかといえば、そのままの意味である。
この男……
じつはかなり思い込みが激しく、主観的で、他人の話をちっとも聞きやしない。
前回、取り調べ室にて対峙したときには、このワガハイをスぺリエンスの工作員呼ばわりするという、迷推理まで披露している。
ちなみに『こんこんちき』の言葉そのものに深い意味はない。強調のニュアンスをあらわしている飾りみたいなもの。
今回の場合だと『ものの見方,考え方に柔軟性がなく,融通がきかない、すっげえ頭が堅い野郎』となる。
でも、妙である。
ここは衛士隊の詰所でもなければ留置所でもない。
そんな場所に、どうして取り調べ官がいるのか?
「あっ、もしかしてあんまりにもトンチンカン過ぎて、ついに左遷されたのかにゃん」
不要な人材を排除するための、出向という形の追い出し。
う~ん、宮仕えはつらいよ。
「ち、ちがうぞ! 私は今回の窃盗事件を解決すべく、派遣されてきたのだ」
石頭の取り調べ官は否定するけど、ちょっと動揺したってことは、自分でも少し疑っていたよね?
それを隠すかのように「え~、こほん」
石頭はわざとらしく咳払いをしたのちに言った。
「もっとも、事件はすでに解決したがな。それにしても、まさか真昼の大胆な犯行だったとは、盲点であった」
ほらね?
案の定である。はなからワガハイを犯人だと決めてかかっている。
こいつはそういうヤツなのだ。
そして冤罪なんぞは、断じて否である。
だからワガハイは自分の潔白を証明すべく、弁論する。
「あー、それまちがってるのにゃあ。とりえず屋台街に行って、ヒマそうにしている焼き魚の屋台の店主に話を聞いてくるのにゃん」
そうすれば誤解は一発で解けるはず。
なにせ店主に教えてもらうまで、ワガハイは都市内で魚を養殖していたことすら知らなかったのだから。あと、捕縛された現場で魚のニオイをさせていた理由も明らかとなるだろう。
〇
はい、ちょっとモタついたけど解放されました。
ヒマな屋台の店主の証言もさることながら、取り調べを受けているうちに新たな窃盗が発生したもので。アリバイ成立である。
それでも取り調べ官はかたくなにて「はっ! もしや単独犯じゃなくて仲間がいるのか」とか言い出し、なかなかワガハイのことを信じてはくれなかったけど。
ばかりか「二度あることは三度あるというからな、せいぜい気をつけることだ」なんぞと不吉な捨て台詞を吐きやがった。
役所の人間じゃなかったら、とっくに殴ってるぞ、この野郎。
しかしどうにも腹の虫がおさまらない。
そこでワガハイは決めた。
こうなったらワガハイの手で真犯人をとっ捕まえて、石頭の鼻を明かしてやろうと。
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