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082 お魚くわえたカネコ。
しおりを挟むお肉もいいけど、たまにはちがうモノが食べたくなる。
そんなときにワガハイが向かうのは、焼き魚を売っている屋台だ。
炭火でじっくり焼かれた魚は、皮はパリッ、白身はふわっふわ。かぶりつけば、じゅわっとあふれる魚の油には旨味が濃縮されている。
味つけはシンプルに塩のみ。
でも、だからこそ焼き手の腕の差が如実に味にあらわれる。
客も心得たものにて、優れた焼き手がいるところには行列ができている。日によっては売り切れることもあるから油断ならない。
「今日は買えてよかったのにゃあ」
お気に入りの屋台で買った焼き魚をくわえて「にゃんにゃん」
ご機嫌なワガハイであったが、ふと疑問におもった。
「モグモグモグ……そういえばこの魚ってば、どこから仕入れているのかにゃあ」
城塞都市トライミングはメテオリト大森林近くの内地にある。辺境といっても差しつかえのない地域だ。近くに大きな川や湖はない。生活水は魔法と井戸に頼っている。
都市の食卓をまかなえる量の魚が捕れそうな場所がない。
なのに屋台から魚の姿が消えたことはない。値段もわりとお手頃だ。
ということは……
「安定して魚を供給する手段が確立されている、ということかにゃあ」
そこのところ、いったいどうなってるの?
教えて、あんまり焼くのが上手じゃなくて、いつもヒマそうにしている――そこの屋台の人。
ワガハイが訊ねたら、ヒマな屋台の人は「うるせー」としかめっ面をしつつも、なんだかんだで教えてくれた。
「大部分は養殖だな。城のお堀とか溜め池とか、あとは地底湖の方でも育ててる。天然モノもたまに入荷するが、それは森にある湖や沼とかから釣ってきたもんだ。値段がべらぼうに高いから、まず屋台には並ばねえよ」
「へー、そうだったのかにゃん」
ワガハイは感心する。
都市内で農業と畜産業をやっているのは知っていたけど、漁業も行っていたとは知らんかった。
後学のために、ちょいと漁業の現場をのぞいてみようと思い立つ。
するとヒマな屋台の人が言った。
「見学するのはいいが、まちがってもつまみ食いとかするなよ? あれは行政府の管轄で、都市みんなの共有財産扱いだからな。手をだしたらよくて追放処分、最悪コレだからな」
自分の首を絞める仕草をしてみせるヒマな屋台の人。
「いくらワガハイでも、そこまで食いしん坊じゃないのにゃあ」
と、笑って別れたのだけれども。
よもや直後にあんな事件に巻き込まれてしまうとは、この時のワガハイは夢にもおもわなかった。
〇
お堀のふちからひょいと首をのばし、水のなかを覗き込む。
すると、いるいる。
お魚たちがスイスイ泳いでいる。
というかビチビチ、うじゃうじゃ、ワガハイの方へと群がってきた。
まるでエサをねだるコイのように、水面に顔を出しては口をパクパク。
よくよく見てみたら、魚たちの口のなかにはノコギリみたいな小さな歯が生えている。
さすがは辺境産、ただの魚とはちがうようだ。どうやら調理の際には取り除いてくれていたらしい。
ワガハイはなんとなく、噛まれたら痛そうとか考えていたのだけれども――
パシャン!
群がっているうちの一匹が勢いよく跳ねたとおもったら、いきなりガブリ!
噛みついたのはワガハイの鼻である。
ヤツは鼻の穴と穴の真ん中という、絶妙なポジションに食らいつく。
噛まれたカネコはコテンとひっくり返っては、ジタバタ。
「痛いのにゃーっ!」
するとこの騒ぎを聞きつけて駆けつけたのは、お堀の管理をしている係員たち。
やれやれ、これで助かるとほっとしたのもつかのまのこと。
かけられた言葉は「大丈夫か?」「ケガはないか?」などのこちらの身を案じるものではなくて、「ようやく捕まえたぞ、この魚ドロボウめ!」という不当な叱責であった。
まったく身に覚えのないワガハイは「ごかいにゃあ~」と懸命に訴えるも「ウソつけ! 食べた魚のニオイをぷんぷんさせているじゃないか」と言われて、問答無用でふん縛られては漁業組合の事務所に連行されてしまった。にゃーっ。
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