寄宿生物カネコ!

月芝

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081 カネコ、ちくちくする。

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 ごわっとした抜け毛の塊を、にょきとのばした爪の先でちくちくちくちく……

 時刻は昼下がり、ところは公園、天気は快晴にて。
 ワガハイはいまベンチにて背を丸め、羊毛フェルトならぬカネコ毛フェルトにチャレンジ中である。
 せっせとハンドメイドをしているのは、もちろんワガハイのキャラクターグッズの試作のためだ。悔しいがこの方面において、ワガハイはライバルたちの後塵を拝している。この状況を打破すべくがんばっている。

 やることは単純だ。ひたすらちくちくするだけ。
 フェルト細工に高価な道具や材料は必要ない。
 作業場所はカネコの肉球ほどのスペースでこと足りる。
 いつでも中断でき、すぐに再開できるのも大きなメリットだ。
 初心者でも簡単に始められる。かかる初期費用の安さ、敷居の低さ、中毒性などなど。女性陣から絶大な支持を得ているのも納得である。

 まずは毛をほぐしてから、ふんわりした毛玉をこさえて、転がしてはまん丸にする。
 あとはひたすらギュッギュッと外から突いて、突いて、突きまくる。
 全体の硬さはしっかり目にて。これは型崩れを嫌ってのこと。
 とりあえず手の平サイズの人形を作っている。
 完成品のクオリティは、受付のおっさんのワイフがこさえたのを目指す。
 人形のモデルはもちろんカネコである。自分をデフォルメするのは、なんとも面映ゆい。ワガハイ照れちゃう。

 ワガハイには前世にて鍛えた造形技術がある。オリジナルフィギュア造りに比べたら、ママさんらのお遊戯なんぞは、ちょちょいのちょいだ。
 ゆくゆくはカリスマ作家となって、カネコフェルト教室を開講し、生徒を集めるのもアリかもしれない。
 さすれば受講料と素材販売でウハウハ。
 表紙にワガハイが微笑んでいる『今日から始めるカネコの楽しいフェルト生活』なる実用書も出版され、さらにウハウハ。
 さらにさらに女性たちのハートをがっちりワシ掴み、各地を巡ってイベントを開催すればどこも大盛況にて、サイン会には長蛇の列が。
 かくしてワガハイは盤石となり無敵となろう。

 ……な~んてことを妄想し、フェルト細工なんぞは「しょせんは女子どもの戯事」と舐めていた、浅はかな自分をワガハイはいまモーレツに恥じている。

「む、むずかしいのにゃあ」

 そのお手軽さに反して、成形にたいそう手こずっている。
 原因は素材特有のふわふわ、適当につついてもおもうような形にならない。
 ようやくそれっぽくなったとおもったら、ほんのひと刺しでバランスを崩し台無しになっちゃうことも。
 パーツごとの結合もむずかしい。芯となる部分をしっかり作っておかないと、組み上げたところで「ん?」となる。
 繊維の向きとかで柄や色の風合いが変わるし、意図的に模様をつけようとすれば、より細やかな作業が必要となる。センスも如実に反映される。
 あと、おもいのほか目にくる。首と肩もバキバキになるし、腰はちょっとヤバいかも。

 間口は広く入りやすく、誰でもウェルカム。
 けど「じゃまするよ~」と気軽にのれんを潜ったら、めちゃくちゃ奥が深かった。
 どれだけ目を凝らしてみても、果てが見えない。
 それがフェルトの世界であった。

  〇

「ハァ、細かい作業は目がしょぼしょぼするのにゃあ」

 いくつか試作を重ねたところで、ワガハイは嘆息する。
 すると「これ、なぁに?」「ねえねえ、さっきからなにをやってるのぉ」「ワガハイ、遊んで~」と群がってきたのは、お子さまたちである。
 いまは昼間にて、公園には子どもたちが集まっている。
 昼と夜とで住み分けてはいるが、こいつらはいわば同じ公園仲間みたいなもの。
 ゆえに夜の公園の帝王たるワガハイは、ときおり子どもたちの相手をしてやっている。

「これかにゃあ、これはフェルト細工だにゃん」

 ワガハイはいま忙しい。だから遊んでやれない、また今度ね。
 との意を暗に含ませ、ちょっとつっけんどんな物言いをしてみたのでけれども、そんな大人の配慮なんぞはおかまいなしに、子どもたちはグイグイくる。

「きゃはは、へんなの~」
「ちっともかわいくない」
「のろいのにんぎょう?」
「わたし、コレ知ってる。うちのお母さんも家でぶつぶつ言いながらブスブスやってたよ~」
「なんだこれ、シシガシラのちっこい人形か?」
「ふむふむ、このゆがみぐあい。シシガシラのおそろしさがヒシヒシとつたわってきます」

 子どもたちは素直だ。そして残酷で容赦がない。
 おもいついたことをそのままポンポン口にする。
 賢しらな子どもは深読みまでしてくるし。歪みで不気味さを表現とかしてないから!
 あと家でお母さんがやってたのって、フェルト細工だよね?
 けっして呪いの類とかじゃないよね?

 ワガハイがドキドキしていたら、子どもたちのうちのひとりが試作品にイタズラをしていたもので「かってに触っちゃダメ」と叱るも、その手元を見てワガハイは大きく目を見張った。
 そこには見事なシシガシラのフェルト人形がいたからである。
 落ちていた細い枝の先で、サクっと作成。
 この子は天才か? この短時間であの出来損ないを、ほぼ完璧に仕上げてしまうだなんて。
 愕然としているワガハイに、天才っ子は言った。

「ワガハイは体も手も大きいよね? なのにいきなりそんな小さいのはムリだとおもう。とりあえず、もう少し大きなのからやってみたら」

 ごもっともにて、ワガハイは潔く兜(かぶと)を脱いで「弟子にして欲しいのにゃあ。もしくは製造を委託したい」と懇願する。
 すると天才っ子は「せいぞう? いたく? むずかしくてよくわかんない」と小首をコテンとかしげて、さっさとブランコの方に行ってしまった。


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