寄宿生物カネコ!

月芝

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080 カネコ、驚愕の事実を知る。

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 毎度お馴染み、朝のピーク時を過ぎて閑散としている冒険者ギルドのカウンターにて――

「くっくっくっ、そいつはとんだ災難だったな。あそこの泉の精霊は性悪で有名なんだよ」

 森の泉での出来事を話したら、受付のおっさんはそう言って肩を振るわせた。
 じつは毎年、新人が何人か痛い目に合ってるんだと。
 トライミングの冒険者ギルド支部あるあるで、名物みたいなもの。
 なのにそのまま放置しているのは、べつに命まで取られるわけじゃないのと、アレはアレでそれなりにいい勉強になるから。

『世の中そんなに甘くない。ウマい話には裏がある』

 という教訓。
 目の前にぶら下げられた美味そうなエサに飛びつくな。
 それを安心? 安全? に学べる機会は、ありそうでなさそうで。
 だから、ちょいとムダに鼻っ柱の強い新人とかがいたら、先輩たちはわざと泉の精霊のことを教えて、「せっかくだから、ひと稼ぎしてこいよ」とそそのかし、痛い目をみせたりするのだ。これもまた愛のムチである。

「というか、精霊って本当にいたにゃんねえ」

 この世界にて幅を利かせている宗教は三つ。
 ひとつはこの城塞都市トライミングが所属する、多民族国家エスカリオや他の地域でも広く信仰を集めているスミテルア教。
 スミテルア教は「万物のすべてに神は宿る」という考えで、精霊信仰に近い多神教である。
 自分たちの暮らしは、いろんなものたちによって支えられており、日々それを感謝して心穏やかに、みんな仲良く過ごしましょう。
 といった風の教義にて、とてもフランクだ。
 ワガハイとしても好ましい宗教ではあるが、よもや本当に精霊が実在するとはおもわなかった。ビックリである。

 いまひとつはビッチ女神を信仰しているアロセラ教団。
 これについては、いまさらなので詳細は割愛する。

 で、残るひとつをエアラ教という。
 知を司る神を信仰し、書と学問を愛し、虚飾にまみれた箱物を否定している。
 だから教会みたいな施設をかまえていない。代わりに信者たちは各々祠や神棚などを祀っている。
 清貧を尊び、聖職者はひとところにとどまらず。流れのない水はたちまち濁ると、あちこち移動しては布教と知識の吸収と普及に励んでいる。
 そのため教育者や学者、研究者、技術者に職人などを中心にして信仰を集めている。
 だがしかし、ただの頭でっかちなんぞではない。
 もしも知をあなどりバカにしようものならば、たちまち腕まくりにて。

「上等だ! おら、かかってこい。やってやんよ」

 平和主義だが非暴力ではない。
 売られたケンカは買う。
 ちなみにワガハイをこちらの世界に転生させた神さまは、コレだったりする。
 でもってエアラ教とアロセラ教団は、めちゃくちゃ仲が悪かったりもする。

 そして宗教同士のいがみあいがとき戦争にまで発展するのは、こちらの世界でも同じなようで、ワガハイは「なんだかな~」

 まぁ、それはさておき。
 目下、ワガハイには解決すべき問題がある。
 それは……

「このままだと置いてけぼりだにゃあ。何かいいアイデアないかにゃあ」

 受付のおっさんに「にゃあにゃあ」泣きついていたのは、キャラクターグッズ展開について。
 現在、ワガハイはツバッキーくんと女神フロディアに大きく水をあけられている。
 とくに女神陣営の怒涛の追い上げはヤバい。
 実用性に重きを置くラインナップのツバッキー側に対して、女神側は全力で趣味に走っているのだが、その突き抜けっぷりが半端ない。

 一見するとムダなモノに金をかける。
 損得勘定を越えた先にある秘めた感情を刺激し、揺り起こされた情動は恐るべき爆発力を持つ。
 それはかつてオタクと呼ばれた連中が歴史のなかで証明している。
 あなどってはならない。
 ときに『好き』や『萌え』『推し』が世界経済をも動かすほどの、強い影響力を発揮することさえあるのだ。

「このままだと暫定二位の地位も危ういのにゃあ」
「いや、危ういもなにも、そもそも誰が、いつ、二位になったんだよ」
「そんな細かいことはどうでもいいのにゃん。それよりもなにかお手軽で、若い娘たちがキャアキャア悶えそうなグッズを考えるのにゃあ」
「……と言われてもなぁ」

 面倒臭そうにチラッとワガハイの方をみたおっさんは、嘆息にて「あー、だったらアレなんてどうだ?」と勧めたのは、フェルト工作であった。
 毛玉をひたすら、ちくちくちくちく……
 つついて押し固めて、いろんな形にするハンドメイドの定番。

「じつはうちのかみさんが趣味でやっていてな。これがけっこう上手いんだよ」

 照れながらおっさんが見せてくれたのは、手の平サイズのフェルト人形。デフォルメされたバトラコスが愛らしい。ちなみにバトラコスは大きなトノサマガエルの魔獣である。
 ほうほう、たしかにいいデキである。
 これならばワガハイの抜け毛で作れそう。
 だがそれはいったん脇へとうっちゃっておき――

「はぁあぁぁぁぁーっ!? おっさんってば結婚していたのかにゃん! そんなバカな……」

 驚愕の事実が発覚した。
 信じられない。
 これを受け入れるとか、あまりにも器が大きすぎる。
 ひょっとしてこの世界には精霊の他にも、菩薩(ぼさつ)とかいるのか?
 ワガハイが三つの目を見開き全身の毛を逆立て驚いていると、おっさんは「やかましい!」とプイっと顔をそらした。
 やだ、おっさんてば照れちゃって、かわい――くはないな。うん、やっぱり。


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