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079 カネコ、のるかそるか。
しおりを挟む泉の精霊との心理戦。
緊迫の駆け引き。
のるか、そるか。
悩んだ末に、ワガハイが出した答えは――
「ちがうのにゃん。というか、そんなもん喰えないのにゃあ」
ここはセオリー通りにいく。
金銭欲と食欲の狭間で、ワガハイが選んだのは食欲のほうであった。
正直者がむくわれる。そんな優しい世界であって欲しい。
との、ささやかな願いもあった。
だがしかし、現実は残酷だった。
「そうですか……わかりました。でしたら、こちらの『水のなかに落ちて、びちゃびちゃのぐちゃぐちゃになった、ふつうのおむすび』ですね。
さぁ、受け取りなさい。そして存分におめしあがりください。
あぁ、すみません。私としたことがうっかりしておりました。
このままだとさすがに食べづらいですよね?
わかりました。今回は特別にこの花の絵付けがされたかわいいエサ皿に入れてさしあげましょう。
これでもう大丈夫。さぁさぁ、遠慮は無用です。飢えたケダモノのごとく、夢中になってむさぼり喰らうがよいですよ」
プ~ンと生臭い水でしゃばしゃばになった元塩おむすび。
すっかり変わり果てたソレの入った皿をズイと差し出し、泉の精霊はにっこり満面の笑みを浮かべた。
「こ、こいつ……めちゃくちゃいい性格をしていやがるのにゃん!」
ワガハイは皿を前にして顔をヒクつかせる。
プライドを捨てて、がんばれば喰えないことはない。
だが……ん? ちょっと待てよ。
もしも完食したとて、それがいったい何だというのか?
そもそもの話、泉の精霊は「食べきったら、金と銀のおむすびをプレゼントしちゃう」とか言ってない!
なによりコイツは正直者をおちょくるような輩である。
きっとロクなヤツじゃない。危うくキレイな見た目にダマされるところであった。
だったら……
「ありがとうだにゃん。でも、ひとりの食事は味気ないので、ごいっしょするのにゃあ~」
ワガハイは地魔法にて皿とスプーンをチャチャっと用意し、取り分け「はい、どうぞ」と差し出してやった。
ずずずいっとね。断る暇なんて与えてやらない。
形勢逆転である。
受け取らざるをえない状況、追い込まれた泉の精霊は片頬をピクリとさせ表情を硬くするも、それもほんの一瞬のこと。すぐに柔和な笑みに戻る。
――さぁ、どうする?
相手の出方をワガハイがうかがっていると、あろうことかヤツはとんだ禁じ手を打ちやがった。
お裾分けの入った皿を受け取ろうとしたところで、「あぁ、これはうっかり」と言いながら、皿をポロリして泉にぽちゃり。
コイツ、わざと落としやがった!
あげくのはてには「ああん、私ってば本当にドジなんだから。ごめんなさいね、テヘペロ」なんぞとヌケヌケと臆面もなくほざきやがった! 信じられない!
だがしかし、ヤツはここでひとつ重大なミスを犯したことに、まだ気がついていない。
ゆえにワガハイはすかさずそこを突いての追撃を放つ。
「落としても大丈夫だにゃあ。だって泉のなかなら、また拾えばいいのにゃあ。精霊さんなら楽勝にゃんよねえ?」
水に落ちたモノを拾うのは、泉の精霊の十八番(おはこ)である。
まさかデキないとは言わせない。
そう。ヤツは間違えたのだ。
ポロリするのならば地面の上にすべきであった。そうすれば、土まみれにてさすがに喰えない。
泉の精霊と寄宿生物カネコ。
互いににへらと性悪な笑みを浮かべながら、にらみ合うことしばし。
先に目をそらしたのは泉の精霊であった。
――勝った!
「フッ、なかなかやりますね。今回は潔く敗北を認めましょう。ですが次は負けませんよ」
捨て台詞を残し、泉の精霊はブクブクと沈んでいった。
いつの間にか、エサ皿が返却されていた。なかのしゃばしゃばが消えており、代わりに金と銀のおむすびがちょこなんと置かれているではないか。
おそらくこれは戦利品なのだろう。
でも……
「にゃんだこれ? 金と銀のアルミでくるんだ泥団子だにゃん」
異世界にアルミホイルがあることにビックリ。おおかた転生者か召喚された者が持ち込んだのだろうけど。
手の込んだしょうもないイタズラに、ワガハイはぎゃふん。
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