寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
77 / 280

077 カネコ、おむすびコロコロ。

しおりを挟む
 
 商業ギルドの公式マスコットキャラクター・ツバッキーくん。
 アロセラ教団の女神フロディア。
 寄宿生物カネコのワガハイ。

 城塞都市トライミングのナンバーワンアイドルの座を巡る戦いは、ここにきて三強時代に突入しようとしていた。
 このなかで頭ふたつほど抜けているのは、ツバッキーくんだ。
 なんといっても後援会が強いし、先行しているアドバンテージも大きい。商業がらみのイベントでは必ず登場し、着ぐるみパフォーマンスでステージを盛りあげる。なかの人の実力も侮れない。強敵だ。

 次点はワガハイ――と言いたいところだが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。
 よもや女神フロディアを推すアロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』が、すでに都市内にてグッズ専門店をオープンさせていただなんて……
 数多あるグッズのなかでも、とくに危険なのは女神さまフィギュアシリーズだ。
 卓越した造形技術、華やかさ、かわいさ、表情、ポージング、細部にまで宿るこだわり、萌え度、あらゆるニーズに対応する多様性……などなど。
 おもわず「ムムム」
 うなる出来映えと充実のラインナップは、ワガハイがもといた世界の品と比べても遜色のないほど。
 アレは麻薬みたいなもの。一度でも手を出したら終わりだ。抜け出せなくなって、次々と欲しては、散財することになるだろう。
 あとアレきっかけで転ぶ者が続出しそう。
 布教活動と同時に資金集めをも行うとは、じつに恐ろしい戦略である。

 キャラクターグッズといえば、ツバッキーくんもひと揃え存在している。もっともこちらは実用性に比重を置いた品が多いけど。
 比べて、この分野では完全に遅れをとっているのがワガハイだ。
 あるのは抜け毛でこさえた御守りとタワシのみ。ちなみに販売実績は御守り<タワシだ。
 これはひじょうにマズイ状況である。
 可及的すみやかに対策を考えなければ……

 まぁ、そんなことはさておき。
 ワガハイはいまメテオリト大森林の第一層に来ている。
 もちろんお仕事でだ。
 依頼の内容は調理用の香草の採取である。
 報酬は安い。なのに出不精のワガハイがこの採取依頼を受けたのは、依頼主が顔見知りの屋台のオヤジだったから。
 焼きおにぎりの屋台を営んでいるオヤジ、その味を支える大切な香草、ギュッと絞るとポタポタと出汁醤油っぽいのが滴る。
 べつに珍しいものではない。ぶっちゃけ都市の周辺にも生えている。
 いや、生えていたというべきか。
 じつは近頃、その数がめっきり減ってしまったのである。

 原因は、例の南からの流民たち。
 人が増えた分だけ消費量も増えた結果、手当たり次第に刈り尽くされてしまったのだ。さいわいなことにたくましい草なので、放っておいたらまたポコポコ生えてくるのだが、さすがにしばらく時間がかかる。
 さりとて屋台の営業は待ったナシ。
 薄利多売のこの商売、休めば客をとられて、たちまちおまんまの食いあげだ。
 じつはワガハイ、ここの屋台の常連客で焼きおにぎりがお気に入り。
 それが食べられなくなるとあっては、とてもではないが黙ってはいられなかった。

  〇

 とある泉のほとりにて――

 お目当ての香草を大量にゲットできた。
 ついでにライガービットも数羽仕留めてお肉も手に入れた。
 ワガハイはホクホク顔にて、お弁当の塩おむすびを頬張る。
 もぐもぐもぐ。
 モチっとしっかりしているのに、はらりとほどける絶妙なにぎり具合。お米のひと粒ひと粒がちゃんと立っている。噛めば噛むほどに甘味が口のなかに広がる。塩がいいアクセントになっており、気づけば手になかからおむすびが消えている。あっという間にペロリだ。
 出汁醤油を塗って焼いてはいないけど「これはこれでウマいのにゃん!」

 ただ惜しむらくは、これを握っているのがガチムチのおっさんだということ。
 あのたくましい二の腕、ゴツゴツした武骨な指先から、どうしてこんな繊細な味が産み出せるのか。ワガハイは不思議でしょうがない。
 などと考えつつ、ふたつめのおむすびに手をのばしたところで――ガサガサガサ。
 近くの繁みが揺れたもので、ワガハイは身構えた。
 浅い層とはいえ、ここはメテオリト大森林だ。何が飛び出すかわかったもんじゃない。

 が、とくに何も起きなかった。
 おおかた小動物でも潜んでいたのであろう。
 だからワガハイは警戒を解いたのだけれども……

「にゃにゃにゃ、おむすびが無いのにゃん」

 いったいどこにいったのかとおもいきや。
 おむすびコロコロ、手から零れて泉の方へと向かっているではないか。

「あー、もったいないのにゃあ~。いや、まだ三十秒ルール適応内、諦めるには早いのにゃーっ!」

 ワガハイはすぐさま転がるおむすびを追った。
 ちなみに三十秒ルールとは『地面に落ちたけど、三秒以内なら大丈夫だよね』のカネコ版である。なにせカネコは超生命体、その胃腸もまた強靭にて拾い喰いぐらい屁でもない。
 とはいえ、そこはそれ。
 ゆくゆくは都市の看板を背負う身としては、あまりイメージがよろしくないので、自分縛りで三十秒の時間制限を設けた。

 だが、ざんねん!
 あと少しというところで、おむすびは泉にぽちゃんと落ちてしまった。

「にゃーっ!」

 嘆くワガハイ。
 でも、その時のことである。
 水面が急にぷくぷく泡立ち、浮かんできたのは謎の金髪ロン毛の男か女かわからない中性的な麗人。
 その麗人が涼やかな目でこちらを見つめながら言った。

「私は泉の精霊です。あなたが落としたのはこの『金のおむすび』ですか、それともこの『銀のおむすび』ですか」

 またぞろヘンテコなのがあらわれた!


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...