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077 カネコ、おむすびコロコロ。
しおりを挟む商業ギルドの公式マスコットキャラクター・ツバッキーくん。
アロセラ教団の女神フロディア。
寄宿生物カネコのワガハイ。
城塞都市トライミングのナンバーワンアイドルの座を巡る戦いは、ここにきて三強時代に突入しようとしていた。
このなかで頭ふたつほど抜けているのは、ツバッキーくんだ。
なんといっても後援会が強いし、先行しているアドバンテージも大きい。商業がらみのイベントでは必ず登場し、着ぐるみパフォーマンスでステージを盛りあげる。なかの人の実力も侮れない。強敵だ。
次点はワガハイ――と言いたいところだが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。
よもや女神フロディアを推すアロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』が、すでに都市内にてグッズ専門店をオープンさせていただなんて……
数多あるグッズのなかでも、とくに危険なのは女神さまフィギュアシリーズだ。
卓越した造形技術、華やかさ、かわいさ、表情、ポージング、細部にまで宿るこだわり、萌え度、あらゆるニーズに対応する多様性……などなど。
おもわず「ムムム」
うなる出来映えと充実のラインナップは、ワガハイがもといた世界の品と比べても遜色のないほど。
アレは麻薬みたいなもの。一度でも手を出したら終わりだ。抜け出せなくなって、次々と欲しては、散財することになるだろう。
あとアレきっかけで転ぶ者が続出しそう。
布教活動と同時に資金集めをも行うとは、じつに恐ろしい戦略である。
キャラクターグッズといえば、ツバッキーくんもひと揃え存在している。もっともこちらは実用性に比重を置いた品が多いけど。
比べて、この分野では完全に遅れをとっているのがワガハイだ。
あるのは抜け毛でこさえた御守りとタワシのみ。ちなみに販売実績は御守り<タワシだ。
これはひじょうにマズイ状況である。
可及的すみやかに対策を考えなければ……
まぁ、そんなことはさておき。
ワガハイはいまメテオリト大森林の第一層に来ている。
もちろんお仕事でだ。
依頼の内容は調理用の香草の採取である。
報酬は安い。なのに出不精のワガハイがこの採取依頼を受けたのは、依頼主が顔見知りの屋台のオヤジだったから。
焼きおにぎりの屋台を営んでいるオヤジ、その味を支える大切な香草、ギュッと絞るとポタポタと出汁醤油っぽいのが滴る。
べつに珍しいものではない。ぶっちゃけ都市の周辺にも生えている。
いや、生えていたというべきか。
じつは近頃、その数がめっきり減ってしまったのである。
原因は、例の南からの流民たち。
人が増えた分だけ消費量も増えた結果、手当たり次第に刈り尽くされてしまったのだ。さいわいなことにたくましい草なので、放っておいたらまたポコポコ生えてくるのだが、さすがにしばらく時間がかかる。
さりとて屋台の営業は待ったナシ。
薄利多売のこの商売、休めば客をとられて、たちまちおまんまの食いあげだ。
じつはワガハイ、ここの屋台の常連客で焼きおにぎりがお気に入り。
それが食べられなくなるとあっては、とてもではないが黙ってはいられなかった。
〇
とある泉のほとりにて――
お目当ての香草を大量にゲットできた。
ついでにライガービットも数羽仕留めてお肉も手に入れた。
ワガハイはホクホク顔にて、お弁当の塩おむすびを頬張る。
もぐもぐもぐ。
モチっとしっかりしているのに、はらりとほどける絶妙なにぎり具合。お米のひと粒ひと粒がちゃんと立っている。噛めば噛むほどに甘味が口のなかに広がる。塩がいいアクセントになっており、気づけば手になかからおむすびが消えている。あっという間にペロリだ。
出汁醤油を塗って焼いてはいないけど「これはこれでウマいのにゃん!」
ただ惜しむらくは、これを握っているのがガチムチのおっさんだということ。
あのたくましい二の腕、ゴツゴツした武骨な指先から、どうしてこんな繊細な味が産み出せるのか。ワガハイは不思議でしょうがない。
などと考えつつ、ふたつめのおむすびに手をのばしたところで――ガサガサガサ。
近くの繁みが揺れたもので、ワガハイは身構えた。
浅い層とはいえ、ここはメテオリト大森林だ。何が飛び出すかわかったもんじゃない。
が、とくに何も起きなかった。
おおかた小動物でも潜んでいたのであろう。
だからワガハイは警戒を解いたのだけれども……
「にゃにゃにゃ、おむすびが無いのにゃん」
いったいどこにいったのかとおもいきや。
おむすびコロコロ、手から零れて泉の方へと向かっているではないか。
「あー、もったいないのにゃあ~。いや、まだ三十秒ルール適応内、諦めるには早いのにゃーっ!」
ワガハイはすぐさま転がるおむすびを追った。
ちなみに三十秒ルールとは『地面に落ちたけど、三秒以内なら大丈夫だよね』のカネコ版である。なにせカネコは超生命体、その胃腸もまた強靭にて拾い喰いぐらい屁でもない。
とはいえ、そこはそれ。
ゆくゆくは都市の看板を背負う身としては、あまりイメージがよろしくないので、自分縛りで三十秒の時間制限を設けた。
だが、ざんねん!
あと少しというところで、おむすびは泉にぽちゃんと落ちてしまった。
「にゃーっ!」
嘆くワガハイ。
でも、その時のことである。
水面が急にぷくぷく泡立ち、浮かんできたのは謎の金髪ロン毛の男か女かわからない中性的な麗人。
その麗人が涼やかな目でこちらを見つめながら言った。
「私は泉の精霊です。あなたが落としたのはこの『金のおむすび』ですか、それともこの『銀のおむすび』ですか」
またぞろヘンテコなのがあらわれた!
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