寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
73 / 254

073 カネコと刺客。

しおりを挟む
 
 夜更けに自警団の事務所が焼き討ちを受けた。
 轟っ、焔が立ち昇り、火の粉が爆ぜる。
 熱風が頬をひりつかせ、黒い煙が喉を痛めつける。
 騒然となる現場。
 さなかに放たれた一矢。
 矢にはこちらを混乱させる姑息な仕掛けが施されていた。
 うかつにもそれを発動させてしまい、涙目にてふらつく。
 そんなワガハイに、ふたつの敵影が迫る。
 だがしかし――

 左右からほぼ同時に突き込まれた槍と剣の切っ先。
 これをワガハイはひょいとかわした。
 狙いすました一撃、まさかよけられるとはおもっていなかったようで、襲撃者らは「なんだとっ!」
 それを可能にしたのはワガハイの第三の目である。
 額にあるコレ、ふだんは閉じている。いや、周囲がザワつくからね。とくに小さなお子さまからのウケが悪い。なかには泣き出す子もいる。あとつむってないと、うっかり「へぶしっ」とクシャミとかしたひょうしにカネコビームとか漏れそうになるので。
 ゆくゆくは都市のマスコットキャラの地位を担う者としては、看過できない問題である。そこで日常生活ではたいてい閉じている。
 でも今回はそのおかげで助かった。

 無事な第三の目で状況を確認する。
 夜勤の団員らと争っている集団のなかに、ワガハイがぶっ飛ばした悪漢どもが混じっていた。借金のカタに少女を連れて行こうとしていた、あのスカポンタンども。どうやら今夜の襲撃は人身売買組織からの報復のようだ。
 そしてワガハイを直接襲ってきたのもまた、見覚えがある人物たち。
 誰かとおもえば、人混みのど真ん中で乱闘騒ぎを起こしたあの迷惑男たち。スネに傷を持つがゆえに都市に入れないヤツら。

「ま~たおまえたちかにゃん! 連中にいくらで雇われたのかにゃあ?」

 と問えば、「「ちがう」」と声をそろえるふたり。この前は武器を手にいがみ合っていたわりには、ずいぶんと仲がいいこって。

「んん? だったら逆恨みかにゃあ」

 とさらに問えば、これまた「「ちがう」」とふたりは返事をする。
 本当に息ぴったり。じつはケンカするほど仲がいいとかなのかしらん。
 でも、その時のことである。ワガハイは男たちの襟元にキラリと光る小さなピンバッジの存在に気がついた。
 じっと目を凝らして見てみれば――女性の横顔のシルエットが描かれたバッジ。
 ふたりがまったく同じモノを身につけている。
 ということは……

「あーっ! もしかしてふたりははじめからグルだったのかにゃん」
「くくく、その通り」
「前回は余計な邪魔が入ったが、こんどこそキサマの首をもらい受ける」

 この前のケンカ騒ぎはわざと。パトロール中のワガハイを狙ってのひと芝居。まんまと仲裁に入ったところをブスリと殺るつもりだったのだ。
 とどのつまり今夜の襲撃、刺客たちの本命はワガハイで、人身売買組織の連中はこのふたりに利用されて囮に使われたということ。
 だがそこまでして狙われる覚えがない。ワガハイは困惑を隠せない。

「どうしてワガハイを狙うのにゃあ~。はっ! もしかして……」

 ワガハイに恋する深窓のご令嬢がいて、そのご令嬢にホの字の男もいて。
 男が意を決してご令嬢に告白したら「ほほほ、ごめんあそばせ。わたくしにはすでに心に決めた素敵な御方がいるのです」と振られてしまった。
 男はがっくし肩を落とすも、それと同時にグツグツと煮え立つは激しいジェラシー。

「おのれ、ワガハイめ。ちょっと強くて、カッコ良くて、頭がよくて、ダンディでトレンディだからって調子に乗りやがって。許さん、復讐してやる!」

 かくして醜い嫉妬にとり憑かれた男は、刺客を差し向け…………えっ、ぜんぜんちがう。そうなの?
 刺客たちはそろって首を横にふり「「んなわけねーだろ」」と言った。
 そしてご丁寧にも自分からべらべらと真相を告白してくれた。

「ふっ、バレちゃあしょうがねえ。冥途のみやげに教えてやろう」
「我らは『女神フロディア普及委員会』のメンバーだ」

 襟元のピンバッジを誇示する男たち。
 女神フロディア普及委員会。
 それは女神フロディアさまの美しさ、その教えの素晴らしさを世に広く知らしめ、人生という不毛な荒野をさすらっている愚民どもを、安寧の地へと導いてやることを目的とした組織である。

 ――それってアロセラ教団のことじゃないの?

 ちがう。
 あちらは正規の団体、こちらは非正規の団体。
 同志が集っては日夜せっせと推し活に勤しんでいる。
 ようは敷居の低いファンクラブみたいなものである。

 男たちの所属する組織については明らかとなった。
 が、どうしてワガハイが狙われるのかがとんとわからない。
 ワガハイはコテンと首をかしげるばかり。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

処理中です...