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073 カネコと刺客。
しおりを挟む夜更けに自警団の事務所が焼き討ちを受けた。
轟っ、焔が立ち昇り、火の粉が爆ぜる。
熱風が頬をひりつかせ、黒い煙が喉を痛めつける。
騒然となる現場。
さなかに放たれた一矢。
矢にはこちらを混乱させる姑息な仕掛けが施されていた。
うかつにもそれを発動させてしまい、涙目にてふらつく。
そんなワガハイに、ふたつの敵影が迫る。
だがしかし――
左右からほぼ同時に突き込まれた槍と剣の切っ先。
これをワガハイはひょいとかわした。
狙いすました一撃、まさかよけられるとはおもっていなかったようで、襲撃者らは「なんだとっ!」
それを可能にしたのはワガハイの第三の目である。
額にあるコレ、ふだんは閉じている。いや、周囲がザワつくからね。とくに小さなお子さまからのウケが悪い。なかには泣き出す子もいる。あとつむってないと、うっかり「へぶしっ」とクシャミとかしたひょうしにカネコビームとか漏れそうになるので。
ゆくゆくは都市のマスコットキャラの地位を担う者としては、看過できない問題である。そこで日常生活ではたいてい閉じている。
でも今回はそのおかげで助かった。
無事な第三の目で状況を確認する。
夜勤の団員らと争っている集団のなかに、ワガハイがぶっ飛ばした悪漢どもが混じっていた。借金のカタに少女を連れて行こうとしていた、あのスカポンタンども。どうやら今夜の襲撃は人身売買組織からの報復のようだ。
そしてワガハイを直接襲ってきたのもまた、見覚えがある人物たち。
誰かとおもえば、人混みのど真ん中で乱闘騒ぎを起こしたあの迷惑男たち。スネに傷を持つがゆえに都市に入れないヤツら。
「ま~たおまえたちかにゃん! 連中にいくらで雇われたのかにゃあ?」
と問えば、「「ちがう」」と声をそろえるふたり。この前は武器を手にいがみ合っていたわりには、ずいぶんと仲がいいこって。
「んん? だったら逆恨みかにゃあ」
とさらに問えば、これまた「「ちがう」」とふたりは返事をする。
本当に息ぴったり。じつはケンカするほど仲がいいとかなのかしらん。
でも、その時のことである。ワガハイは男たちの襟元にキラリと光る小さなピンバッジの存在に気がついた。
じっと目を凝らして見てみれば――女性の横顔のシルエットが描かれたバッジ。
ふたりがまったく同じモノを身につけている。
ということは……
「あーっ! もしかしてふたりははじめからグルだったのかにゃん」
「くくく、その通り」
「前回は余計な邪魔が入ったが、こんどこそキサマの首をもらい受ける」
この前のケンカ騒ぎはわざと。パトロール中のワガハイを狙ってのひと芝居。まんまと仲裁に入ったところをブスリと殺るつもりだったのだ。
とどのつまり今夜の襲撃、刺客たちの本命はワガハイで、人身売買組織の連中はこのふたりに利用されて囮に使われたということ。
だがそこまでして狙われる覚えがない。ワガハイは困惑を隠せない。
「どうしてワガハイを狙うのにゃあ~。はっ! もしかして……」
ワガハイに恋する深窓のご令嬢がいて、そのご令嬢にホの字の男もいて。
男が意を決してご令嬢に告白したら「ほほほ、ごめんあそばせ。わたくしにはすでに心に決めた素敵な御方がいるのです」と振られてしまった。
男はがっくし肩を落とすも、それと同時にグツグツと煮え立つは激しいジェラシー。
「おのれ、ワガハイめ。ちょっと強くて、カッコ良くて、頭がよくて、ダンディでトレンディだからって調子に乗りやがって。許さん、復讐してやる!」
かくして醜い嫉妬にとり憑かれた男は、刺客を差し向け…………えっ、ぜんぜんちがう。そうなの?
刺客たちはそろって首を横にふり「「んなわけねーだろ」」と言った。
そしてご丁寧にも自分からべらべらと真相を告白してくれた。
「ふっ、バレちゃあしょうがねえ。冥途のみやげに教えてやろう」
「我らは『女神フロディア普及委員会』のメンバーだ」
襟元のピンバッジを誇示する男たち。
女神フロディア普及委員会。
それは女神フロディアさまの美しさ、その教えの素晴らしさを世に広く知らしめ、人生という不毛な荒野をさすらっている愚民どもを、安寧の地へと導いてやることを目的とした組織である。
――それってアロセラ教団のことじゃないの?
ちがう。
あちらは正規の団体、こちらは非正規の団体。
同志が集っては日夜せっせと推し活に勤しんでいる。
ようは敷居の低いファンクラブみたいなものである。
男たちの所属する組織については明らかとなった。
が、どうしてワガハイが狙われるのかがとんとわからない。
ワガハイはコテンと首をかしげるばかり。
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