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070 カネコ、外堀をせっせと埋める。
しおりを挟む「うわ~、ごちゃごちゃだにゃん」
人が増えているのは都市内だけではなかった。
むしろ外の方がずっともっと増えていた。
かといって都市内とはちょっと雰囲気がちがう。こちらは単に景気がいいだけというわけではないっぽい。にぎやかな裏にギスギスしたものが漂っている。
ワガハイは不精ゆえに、めったに壁の外には出ない。
足を運ぶのは古代遺跡の一件以来だ。
しばらく来ないうちにテントの数が倍ぐらいにもなっており、城壁沿いのテント街はもはや第二の都市といっても過言ではないほど。
「あっ、もしかして難民が押し寄せているのかにゃあ」
ワガハイの言葉に「そうなんだよ」と嘆息したのは、城門を守っている衛士隊の隊長さん。
南の隣国が荒廃するほどに難民が発生しては、周辺国へと散らばっている。
そのうちの一部がここ城塞都市トライミングにも流れ着いた。
が、それこそ命からがら逃げてきた者らの懐に余裕なんてあるわけもなく。
都市へ入るには税がかかる。城門のところで入場料として、銀貨二枚を払わなければならない。しかも出るときにも徴収される、計四枚のぼったくり。
冒険者ギルドに登録したり、市民権があればこれが半額になるのだが、それでも痛い出費である。
ならば外のテント街にいた方が、物価も安いので楽に生活できる。
でも、テント街は特殊な場所ゆえに、壁のなかほど安全ではない。ごちゃごちゃしている分、トラブルも多いのだ。
ケンカなんぞは日常茶飯事にて、ときには刃傷沙汰も起こる。弱者を喰い物にする性質の悪いのもいる。
いちおうまとめ役の組合があり、自警団も組織しては治安の維持に務めているのだけれども、ここの闇は相当に根深い。目が行き届いていないのが実情だ。
では、どうしてワガハイがそんな場所へと出向いているのかといえば、ギルドで依頼を受けたからである。
今回の依頼は『自警団に負傷者が多数出たので、その穴埋めのためにしばらく手伝ってほしい』というもの。
ようは自警団のアルバイトである。
でもって大量のケガ人を出した原因は暴動だ。
騒動の発端は、通行人同士の肩がぶつかったのなんのというしょうもないこと。
古参と新参者との間でちょっとしたいさかいが起きた。ポカポカ殴り合いを始めたとおもったら、あっという間に燃え広がって集団同士の争いになってしまったらしい。
自警団はその間に挟まれて、揉みくちゃにされてしまったとのこと。
「まぁ、いろいろたいへんだろうけど、がんばってくれ。何かあったら衛士隊の詰所に連絡をしてくれたらいいから」
「わかったのにゃあ」
隊長さんに見送られて、ワガハイはテント街へと足を踏み入れた。
向かうは自警団の事務所である。
〇
テント街はごちゃごちゃしており、いろんなものがギュッと密集していた。
行き交う人も、露店も、扱われている物、飛び交う言葉、ニオイまでもが雑然としている。
暗い目をしてうつむいている者もいれば、妙に目をキラキラとさせている者もいる。
活気はあるけれど、どんよりとした陰の気が淀んでいる所も点在している。
うかつに暗がりや路地裏とかに入ったらダメな場所だ。
でも、この怪しさが妙にクセになるというか、異国の繁華街みたいで歩いているだけでワクワクしてくる。
ワガハイは人混みを堂々と進む。
というか放っておいても向こうから勝手に避けてくれる。
理由は……
「あっ、シシガシラだ」
「しっ、目を合わせちゃダメよ。呪われるから」
通りすがりに指を差され、ひそひそひそ。
シシガシラとは、体はスフィンクスで顔が厳つい狛犬っぽい容姿をしており、呪言を放つ凶暴な魔獣にて、ワガハイとは似ても似つかない。
なのに、なぜだか世間ではカネコと混同されており、ワガハイは多大な風評被害を一方的にこうむっている。
カネコにとってシシガシラは敵だ。
もしも見かけたら、問答無用で抹殺してやろうとワガハイは心に誓っている。
くっ、どうやらワガハイの知名度もまだまだのようだ。
壁の外にまでは勇名が轟いていないらしい。ゆえにはびこる偏見。
そしてこれこそが、今回、ワガハイに白羽の矢が立った理由でもある。
受付のおっさんいわく。
「おまえさんの容姿なら、そこいらを適当にブラブラするだけで十分に犯罪の抑止力になる」
ワガハイ、はなはだ不本意である。
だがチャンスでもある。
今回の依頼は、マスコットキャラ化計画を推進するための布石となりえる。
ここでの知名度を爆あげして、文字通り外堀を埋めてやるのだ。
くくく、壁の内と外、両方からワガハイの評判をグイグイ押し上げることにより、ますます高まるワガハイの名声。
ゆくゆくは役所も無視できなくなり、そのうち向こうからモミ手にて「ワガハイさま。ぜひ、うちの都市の観光大使に」なんぞと言ってくることであろう。
明るい未来を妄想し、ワガハイはにへら。
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