寄宿生物カネコ!

月芝

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068 カネコ、魔晶石を喰う。

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 いま、城塞都市トライミングは好景気に沸いている。
 理由は、先日の古代遺跡の件だ。
 激闘を制したワガハイたち。
 互いにハイタッチをかわし生き残ったことを喜ぶも、そこはそれやはり冒険者であるからして。
 いただけるものはいただく主義である。
 ツワモノどもが夢の跡には、女王さまや銀アリをはじめとしたフォルミガの骸が、たんと残されてある。
 そしてバカみたいな収納量を誇るアイテムボックス持ちの、ワガハイがいる。
 となればやることは決まってる。

 偵察隊はメンバー総がかりで回収作業に勤しむ。
 だが、あまりのんびりとはしていられない。
 遺跡に巣食っていた脅威が去ったことは、勘のいいヤツならばすぐに気がつく。アリンコどもの骸を狙う輩もゾロゾロと集まるだろう。
 なにせここは弱肉強食の野生の王国、世界三大極地のひとつメテオリト大森林なのだから。

 みんなで協力して片っ端から、アイテムボックスに放り込んでいく。
 自分でも驚いたのだけれども、よもや女王の巨体もまるごといけるとはおもわなかった。
 銀アリはもちろん収納した。黒アリと白アリは合わせて三百ほどゲットした。

 黒アリ――魔晶石はクズ石だがボディは防具のいい素材になる。
 白アリ――魔晶石は並程度で、鎌が武器のいい素材になる。
 銀アリ――全身捨てるところがないほどお宝の山。
 女王アリ――ドラム缶ほどもある赤い魔晶石と、体液が育毛剤と精力剤の素材になる。

 それがごっそり丸ごと持ち込まれたのだ。
 かつてない快挙である。
 冒険者ギルドは「ひゃっほう!」と浮かれ踊り、商業ギルドも「うひょお!」と奇声をあげてはやはり浮かれ踊り、物流関係者らも「キタコレー!」と叫んではこれまた浮かれ踊る。
 でもって都市の行政府は「バンザーイ!」と、この事態を諸手をあげて歓迎した。

 商人たちは目の色を変えて、さっそくこのビッグウェーブに乗ろうと動く。取引のために都市へと来訪する者や、ウワサを聞きつけた冒険者らも集まってくる。
 殺到する依頼に、工房の職人たちも対応に追われて大わらわ。
 宿屋や屋台などの飲食店をはじめとして、恩恵を受ける者多々。
 結果として、都市中がお祭り騒ぎのようなありさまとなっている。

  〇

 公園のジャングルジムの天辺にて――

 町の喧騒をよそに、ワガハイは「ムムム」とひとりしかめっ面。
 ジーっと見つめていたのは、青白い魔晶石である。
 形や大きさはソフトボールぐらい。
 表面はツルツルにて半透明、お陽さまに透かしてみると青が揺らめく。
 氷河とかに潜って下から眺めたら、こんな感じなのかもしれない。

 この魔晶石は、銀アリ――カヴァレイロフォルミガから回収されたモノ。
 あの冒険で得た報酬は、共闘した者らで山分けすることになったのだけれども、これはみんなが「ワガハイが倒したんだから」と譲ってくれた。
 冒険者ギルド側は「是非、売ってほしい」と言っていたけれども、ワガハイは持ち帰ることにする。
 じつはちょっと試してみたいことがあったから。
 それは魔晶石を食べること。
 なんでも世の魔獣たちは他の魔獣を倒して、その血肉と魔晶石を喰らうことでさらなる強さを手に入れているという。
 魔獣の肉ならばワガハイもこれまで散々に食べてきたけれども、石の方は食べてない。
 手持ちの分はあらかたゴーレム錬成でパーッと使ってしまった。

 ところで勘ちがいしてもらっては困るのだが、ワガハイは魔獣ではない。
 よくシシガシラなる輩と間違われるけれども、ワガハイはあんな下等かつお下劣なヤツとはちがう。
 寄宿生物カネコである。
 だから魔獣とはちがう……ちがうはず……ちがうよね? ねっねっ?

 ゆえに魔晶石を食べたとてパワーアップするとは限らない。
 が、試してみる価値はある。
 それに個人的には味も気になる。
 なにせあの魔獣どもがこぞって食べたがるんだもの。
 もしかしたらヘシコやザザムシにチチコみたいな、高級珍味なのかもしれない。
 ちなみにヘシコはサバに塩を振ってぬか漬けにしたものである。若狭地方の伝統料理。
 ザザムシはマゴタロウムシ、アオムシなどの幼虫の佃煮。長野県伊那谷地方の名物。
 チチコはカツオの心臓で、高知以外では「カツオのへそ」と呼ばれているそうな。

 青白い魔晶石を鼻先に近づけ、ワガハイはくんくん。
 フム、ちょっと生臭い。
 とおもったら、それは自分のニオイだった。
 こまめにクリーン魔法をかけているけれども、やはりちゃんとお風呂に入らなければダメなのかもしれない。
 鑑定も試してみたが――食えなくもないと出た。

「いつまでもにらめっこしていてもしょうがないにゃん。とりあえず舐めてみるかにゃあ」

 ペロッと舐めてみる。
 ムッ、ちょっとしょっぱいぞ。
 とおもったら、それは自分の手汗だった。ネコは足の裏の肉球で汗をかく。でもって、カネコも肉球で汗をかく。
 じつはこの汗が、いい滑り止めになるのだ。おかげで足場の悪い高所もへっちゃら。

 おっと、つい話が横道にそれてしまった。
 ワガハイは魔晶石を口に放り込んだ。
 しばし口のなかでアメ玉のように転がしては、もぐもぐする。
 でもいっこうに溶ける気配はない。
 そこで意を決して噛んだのだけれども――

 ガキッとしてギャリっとして、ウゲッとすぐに吐き出した。

「くっそ固いのにゃん! こんなもん喰ったら歯の方が欠けるのにゃあ」

 シティボーイであるワガハイでは歯が立たなかった。
 もしかしたら食べるのにはコツがいるのかもしれないので、とりあえずアイテムボックスに放り込んでおいた。


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