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066 カネコ、油汗だらだら。
しおりを挟む異形の騎士カヴァレイロフォルミガと寄宿生物カネコの戦いも、いよいよ決着を迎えようとしている。
残念ながら勝利の女神は相手に微笑んだようだ。
万事休す!
寄宿生物カネコの冒険――完。
ワガハイはギュッと目を閉じ、その刻が来るのを待つ。
が、いくら待っても来ないではないか。
この期に及んで焦らしプレイとか、あまりいい趣味とはいえない。
だから文句のひとつでも言ってやろうと、まぶたを開けたら「あれ?」
あとほんの少しでワガハイの鼻先に刃が届くかというところで、ピタっと銀アリが動きを止めていた。
というかすっかり固まっている。
いったいどうしたのかとワガハイが首をかしげていたら、聞こえてきたのは男たちの歓声である。
どうやら隊長たちがやってくれたらしい。
司令塔である女王が討ち取られたがゆえに、銀アリは動きを止めたのだ。
間一髪のところで助かったワガハイは、とたんに腰が抜けてしまいへにゃりとなった。
「た、助かったのにゃあ~」
にしても、銀アリは強かった。
個体としての単純な強さだけならば、六層にいる連中とどっこいどっこい。
なのにここまでワガハイが追い詰められたのは、ひとえにヤツの戦闘センスが優れていたから。卓越した恐るべき剣腕の持ち主であった。
一体だけで本当によかった。
もしもこれがあと二三体もいたら、確実にこちらが全滅させられていただろう。
女王を殺されてウンともスンともいわなくなった異形の騎士。
死んでいるわけではない。
けど、そこに生きる意思は微塵も感じられない。
銀アリの役目は女王の護衛であり、仕えるべき主がいなくなれば、もはや自分も生きている意味がないといわんばかりだ。
だからワガハイはそんな彼に敬意を表し、真正面からその首を刎ねた。
かくして銀アリは女王に殉じた。
でも下っ端どもは薄情なもので、大将の首を獲られるやいなや襲撃を止めて、バラバラと散っては逃げていく。
こちらとしては楽でいいんだけれども、ちょっとなんだかなぁ――である。
〇
偵察隊の面々。
みんなズタボロで疲労困憊だけど、なんとか生き残った。
ふ~、やれやれである。
安堵したところで「これにて一件落着にゃんねえ」とワガハイ。
でも隊長さんはうなづかずに「あー、そのことなんだが……遺跡の方の問題はな」と言葉を濁す。
「ガガスメイヤが遺跡の縄張りを放棄したのは、たしかにフォルミガの群れが原因だったんだろうが、ヤツが森の外に出た理由はそれだけじゃなかったみたいだ」
「えっ、そうにゃの?」
「あぁ、じつはここから半日ほど東に向かったところに、奇妙な道が出現していてなぁ。どうやらガガスメイヤはそこを通って、森の外へと向かったみたいなんだよ」
奇妙な道。
それは森の深層から外へと向けて、ズドンとほぼ直線にのびているそうで、樹々は薙ぎ倒され、地面も抉られて、くちゃくちゃ。
まるで巨大な魔獣が暴れながら駆け抜けたかのごとき、ヒドイ惨状なんだとか。
いまはもう旺盛な森の植生により道は消えつつあるが、大きな蛇体を持つガガスメイヤは、これ幸いとその道を通ったようである。
このことを聞いたワガハイは、ギクリ!
いやだって、ほら、何やら身に覚えのあるような話だったから。
「あの道を作った魔獣の正体については、皆目見当がつかんで困ってるんだ。前にナゾの魔獣の目撃情報があって、ギルドがちょっとした騒ぎになったことがあっただろう。
俺としてはそれに関係しているのではないかとにらんでいるんだが……どうおもう?」
意見を求められたワガハイは「さぁ」とついと目をそらした。
その表情や態度から、こちらを疑っての質問ではないらしい。
どうやら隊長さんは、あの件の内情についてギルド側から何も知らされていないようだ。
とどのつまり、今回の騒動。
大元を辿ればワガハイに行きつくということ!
とんだブーメランにて、ワガハイは油汗だらだら。
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