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063 カネコ、ふらふら千鳥足。
しおりを挟む近年稀に見る珍プレーっぷりにて着地に失敗した。
ワガハイが涙目で悶え苦しんでいるところへ、銀アリのさらなる攻撃!
五本の銀閃が縦に横並びしては、まるで巨大な獣の爪のごとく迫る。
「ボサッとするな!」
隊長さんの叱責が聞こえ、ワガハイはいまが戦いのさなかであったことを思い出し、ハッ! あわててシャカシャカ逃げ、どうにか回避する。
そのさいにチラッと見えたのは、叫んだ隊長さんが銀アリの六本ある腕のうちの一本を相手にして奮闘している姿であった。
さっきの攻撃……本来は六本爪であったようだ。
もしも十全の状態で放たれていたら、ワガハイはきっと避けきれなかったことであろう。隊長さんには二重の意味で助けられた。
感謝しつつワガハイは「ふぅ」と息をひとつ吐いてから、キッと銀アリをにらむ。
仕切り直しだ。
「よくもやってくれたにゃあ~。そっちがその気なら、こっちも遠慮はしないのにゃん!」
ワガハイは駆け出し突撃した。
向かいがてら挨拶代わりに地魔法にて石の礫を撃ち出す。
ただし、ただの礫じゃない。
速度と威力を増大させるために、ライフルの銃弾の形に硬化加工を施したのみならず、発射時には火魔法にて小爆発を起こし推進力を得て、かつ風魔法で回転と突進力をプラスした凶悪なモノ。
これにより最強のスナイパーライフルとの呼び声も高かった、バレットM82にも匹敵する高火力を実現した。その破壊力はブロックやコンクリートをたやすくぶち抜き、軽車両の装甲をも貫通する。
にゃははは、見よ。これぞ転生者ならではの魔法チートだ。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
腹の底に響くような発射音がして、放たれた礫弾が戦場の空気を切り裂く。
まばたきする暇もない。
次の瞬間にはもう三つの礫弾は銀アリへと肉迫していた。
狙いはバッチリにて、ヤツは周囲をチョロチョロしている隊長さんに気をとられており、反応が遅れた。
これは当たる! ワガハイはそう確信する。
だがその確信は驚愕によって上書きされる。
一発目は、剣を盾にすることで防がれた。
二発目は、剣ではじかれた。
三発目は、剣で叩き斬られた!
それはもう、見事に真っ二つ。
しかも隊長さんの相手をしながらだ。
信じられないことに、ヤツはこの一瞬でワガハイの魔法チート攻撃を見切りやがったばかりか、完膚なきまでにねじ伏せやがった。
いやはや、さすがはカネコビームをそらすだけのことはある。
でもって、そんなのを相手にして堂々と斬り結んでいる隊長さんも半端ねぇ。
とはいえ二刀流と六刀流なだけじゃなく、ククリ双剣と両手剣とではやはり分が悪いらしく、押され気味だ。
そこでワガハイもジャキンと爪をのばして加勢する。
これで四対六だ。
でも、まだ足りない。腕の数では負けているので、やはりジリジリ押されていく。
苦戦している理由は他にもある。
銀アリってば関節の稼働域がおかしいのだ。
手首や肘とかがね、まるでオモチャの人形みたいに、くりんと360度回転しやがる。
ふつうならば神経やら筋肉とかがネジ切れそうなものなのに、いくらクルクル回ってもへっちゃら。
そんなありえない稼働域のせいで、繰り出される剣撃が多彩に変化する。
振り抜かれた刃が一瞬にして翻り、切っ先が跳ね上がり、剣身が閃く。
しかも礫弾を見切るほどに眼もいいから性質が悪い。
――くっ、強い!
カヴァレイロフォルミガの実力は本物だ。
それもメテオリト大森林の第六層にいてもおかしくないほどの。
群れで最強の称号は伊達じゃない。
隊長さんが健闘してくれているが、ここにきて動きが鈍りつつある。どうやら連闘による疲れがじわじわと出始めているようだ。
ワガハイの背を冷たい汗がツーと流れ落ちる。
このままでは押し負ける。
「ん、そうだにゃん! 手が足りないのにゃらば増やせばいいのにゃあ。というわけで、カモン、黒のベトベトさん」
ふたたび闇のクリーンを発動し、黒のベトベトさんを召喚する。
とはいえ黒のベトベトさんでは、近寄ったはしから斬られまくるので、ここは援護をお願いする。
すると以心伝心、相棒は「まかせとけ」とばかりに手の形に変形したとおもったら、掴んだのは巣に大量にあったアリンコどもの卵。
銀アリへと向けてポイポイ投げつける。
投げつけられた卵を剣でぐしゃり。
とたんに孵化(ふか)前の卵からドロリと零れたのは、半透明な幼虫の成り損ない。
なかにはちょっと動いているのとかもいて、ビジュアル的にはかなりグロかった。
でも黒のベトベトさんのおかげで、腕の数による不利はほぼほぼなくなった。
「よし! 勝負はここからだにゃん」
「おうとも」
ワガハイの掛け声に、隊長さんが威勢よく応じる。
でもその矢先のことであった。
斬っ!
振り下ろされた剣を間一髪避けたワガハイであったが、とたんに視界がぐにゃりと歪んで、足下もふらつく。
「うにゃあ? あれ、何だかワガハイ、ふわふわするのにゃあ」
視界がブレる。急に動きがおかしくなって、体が言うことをきかない。
酩酊状態に陥ったかのよう。
原因は髭だ。
さっきの一撃で、はらりと髭の一部を散らされてしまったらしい。
ネコは髭で空気の流れや天敵の動き、暗がりでも周囲の状況を察知している。
そのためこれを切っちゃうと、とたんに平衡感覚が狂って壁やモノにぶつかりやすくなってしまうのだ。
ネコとは一文字ちがいのカネコ。
どうやらその点は同じだったらしい。
おもわぬところで寄宿生物カネコのキュートな弱点が露呈し、ワガハイはふらふら千鳥足。
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