61 / 280
061 カネコ、地の底へ。
しおりを挟む黒と白のアリどもの襲撃を退け、ときには立ちはだかる敵陣を強引に突破し、一行は駆けに駆けた。
敵勢の猛追をかわし、ついに見えてきました目的地。
この直線を抜けた先に竪穴がある。
しかし、話を聞いて想像していたモノよりもずっと大きい。
野球場が丸ごと入りそうな広さ、絶壁にてストンと垂直に底へと真っ直ぐにのびている。
ぽっかり開いている穴は、まるで地獄にまで通じているかのよう。
……にもかかわらず隊長さんが「かまわん。このまま突っ込め」なんて無茶をおっしゃる。
「にゃあー! もうっ、どうなってもワガハイ知らにゃいよ」
なにやら隊長さんに秘策アリ?
ええぃ、こうなれば毒を喰らわば皿まで!
というわけで、ワガハイは勢いのままに穴へと向かってダイブした。
宙に躍り出たカネコモービル。
一瞬の浮遊感ののち、重力によりずんと引っ張られる。
ガクンと視界が下がって、一同は降下というか落下を開始する。
「ちょ、ちょっと、どうするつもりにゃあ?」
あたふたするワガハイに、隊長さんは「何をあわてている? 魔法があるだろうが。こうすりゃいいんだよ」と言うなり、パッと車体から手を放した。
かとおもったら、手足を広げ大の字となる。
とたんにバサリと衣装の一部がはだけて広がった。
手足に結びつけていた布が風を受けて、隊長さんの体がふわりと浮いたばかりか、スイーと滑空を開始する。
――ムササビの術!
見れば他のメンバーらも同じようにして、各々制空しているではないか。
偵察隊の面々の正体ってば、じつは忍者だったのか?
もしくは忍者ばりに動けるからこその斥候職なのか?
まぁ、それはともかく。
「そんなの聞いてないのにゃあ~~! ワガハイ、パラシュートなんて持ってないにゃん!」
「ん、パラなんとかはよくわからんが、おまえさんにはアレがあるじゃないか」
「?」
「あの黒いのだよ。アレなら充分に代用できるだろう」
「!」
隊長さんが言うアレとは、困ったときの黒のベトベトさんのこと。
たしかに変幻自在な黒のベトベトさんであれば、パラシュート代わりになる。
というわけで、ワガハイはさっそく生活魔法の闇のクリーンを発動した。ついでにカネコモービルはアイテムボックスに収納する。
〇
ふわり、ふわり。
竪穴をゆっくり降りていく一行。
いい具合いに下からびゅうびゅう風が吹いてくれるので、安定して宙に浮いていられる。小休憩がてら魔力を温存できるのはありがたい。
このまま底まで行って、あとは王座にふんぞり返っている女王さまを倒すのみ。
なーんて都合よくはいかなかった。
ぶぅうぅぅぅぅぅぅん。
耳障りな羽音が聞こえたもので、見上げた一同は「げっ」
白アリ――ビヤンフォルミガどもだ。群れをなして追ってくる。
空はヤツらの領域、このままではじきに追いつかれてタコ殴りにされてしまう。
と、その時のこと。
「半分は制空権を確保しつつ、できるかぎり追手を食い止めてくれ。残りとワガハイは俺について来い」
隊長さんの指示により、一行はすぐさま二手に分かれた。
多勢を相手にしての戦力分散は好ましくないが、このままでは全員が白アリの群れに呑み込まれてしまう。やるしかない。
ほどなくして閃光が生じ、穴に爆発音が響き渡り、空中戦が始まった。
ワガハイたちはうしろ髪ひかれつつも先を急ぐ。
〇
バラバラと白アリの残骸が降ってくる。
残ってくれた連中ががんばってくれている。
おかげでようやく底が近づいてきたものの、待っていたのは不気味な光景であった。
青白い楕円型の物体がびっちり、地面を埋め尽くさんばかりの数にて。
すべてアリンコどもの卵。
その奥にひときわ大きな個体がいた。
五階建てのビルほどもある。腹だけが異様に膨れた赤いデカアリ――フォルミガの女王・ヴァシーリサフォルミガ。
倒すべき敵の首魁をついに発見!
ワガハイは迷うことなくカネコビームを発射した。
「獲った! これでゲームセットだにゃん」
額にある第三の眼がカッと開かれ、放たれし怪光線がシュビビビビビビビビ~~~~ン。
毒々しい色味を帯びた光線が女王へと向かって飛んでいく。
第六層に生息するドゥラーケンをも瞬殺する攻撃だ。ワガハイは自分たちの勝ちを確信する。
だがしかし――
いきなり御前に躍り出た者が銀の一閃、カネコビームの軌道をそらす。
まるで女王を守るようにして立つは、銀色をした八本足のアリであった。
20
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる