寄宿生物カネコ!

月芝

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061 カネコ、地の底へ。

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 黒と白のアリどもの襲撃を退け、ときには立ちはだかる敵陣を強引に突破し、一行は駆けに駆けた。
 敵勢の猛追をかわし、ついに見えてきました目的地。
 この直線を抜けた先に竪穴がある。
 しかし、話を聞いて想像していたモノよりもずっと大きい。
 野球場が丸ごと入りそうな広さ、絶壁にてストンと垂直に底へと真っ直ぐにのびている。
 ぽっかり開いている穴は、まるで地獄にまで通じているかのよう。

 ……にもかかわらず隊長さんが「かまわん。このまま突っ込め」なんて無茶をおっしゃる。

「にゃあー! もうっ、どうなってもワガハイ知らにゃいよ」

 なにやら隊長さんに秘策アリ?
 ええぃ、こうなれば毒を喰らわば皿まで!
 というわけで、ワガハイは勢いのままに穴へと向かってダイブした。

 宙に躍り出たカネコモービル。
 一瞬の浮遊感ののち、重力によりずんと引っ張られる。
 ガクンと視界が下がって、一同は降下というか落下を開始する。

「ちょ、ちょっと、どうするつもりにゃあ?」

 あたふたするワガハイに、隊長さんは「何をあわてている? 魔法があるだろうが。こうすりゃいいんだよ」と言うなり、パッと車体から手を放した。
 かとおもったら、手足を広げ大の字となる。
 とたんにバサリと衣装の一部がはだけて広がった。
 手足に結びつけていた布が風を受けて、隊長さんの体がふわりと浮いたばかりか、スイーと滑空を開始する。

 ――ムササビの術!

 見れば他のメンバーらも同じようにして、各々制空しているではないか。
 偵察隊の面々の正体ってば、じつは忍者だったのか?
 もしくは忍者ばりに動けるからこその斥候職なのか?
 まぁ、それはともかく。

「そんなの聞いてないのにゃあ~~! ワガハイ、パラシュートなんて持ってないにゃん!」
「ん、パラなんとかはよくわからんが、おまえさんにはアレがあるじゃないか」
「?」
「あの黒いのだよ。アレなら充分に代用できるだろう」
「!」

 隊長さんが言うアレとは、困ったときの黒のベトベトさんのこと。
 たしかに変幻自在な黒のベトベトさんであれば、パラシュート代わりになる。
 というわけで、ワガハイはさっそく生活魔法の闇のクリーンを発動した。ついでにカネコモービルはアイテムボックスに収納する。

  〇

 ふわり、ふわり。

 竪穴をゆっくり降りていく一行。
 いい具合いに下からびゅうびゅう風が吹いてくれるので、安定して宙に浮いていられる。小休憩がてら魔力を温存できるのはありがたい。
 このまま底まで行って、あとは王座にふんぞり返っている女王さまを倒すのみ。
 なーんて都合よくはいかなかった。

 ぶぅうぅぅぅぅぅぅん。

 耳障りな羽音が聞こえたもので、見上げた一同は「げっ」
 白アリ――ビヤンフォルミガどもだ。群れをなして追ってくる。
 空はヤツらの領域、このままではじきに追いつかれてタコ殴りにされてしまう。
 と、その時のこと。

「半分は制空権を確保しつつ、できるかぎり追手を食い止めてくれ。残りとワガハイは俺について来い」

 隊長さんの指示により、一行はすぐさま二手に分かれた。
 多勢を相手にしての戦力分散は好ましくないが、このままでは全員が白アリの群れに呑み込まれてしまう。やるしかない。
 ほどなくして閃光が生じ、穴に爆発音が響き渡り、空中戦が始まった。
 ワガハイたちはうしろ髪ひかれつつも先を急ぐ。

  〇

 バラバラと白アリの残骸が降ってくる。
 残ってくれた連中ががんばってくれている。
 おかげでようやく底が近づいてきたものの、待っていたのは不気味な光景であった。
 青白い楕円型の物体がびっちり、地面を埋め尽くさんばかりの数にて。
 すべてアリンコどもの卵。
 その奥にひときわ大きな個体がいた。
 五階建てのビルほどもある。腹だけが異様に膨れた赤いデカアリ――フォルミガの女王・ヴァシーリサフォルミガ。

 倒すべき敵の首魁をついに発見!
 ワガハイは迷うことなくカネコビームを発射した。

「獲った! これでゲームセットだにゃん」

 額にある第三の眼がカッと開かれ、放たれし怪光線がシュビビビビビビビビ~~~~ン。
 毒々しい色味を帯びた光線が女王へと向かって飛んでいく。
 第六層に生息するドゥラーケンをも瞬殺する攻撃だ。ワガハイは自分たちの勝ちを確信する。
 だがしかし――

 いきなり御前に躍り出た者が銀の一閃、カネコビームの軌道をそらす。
 まるで女王を守るようにして立つは、銀色をした八本足のアリであった。


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