寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
57 / 280

057 カネコ、ばったり遭遇する。

しおりを挟む
 
 分岐点――三本ある道のうち、真ん中はきっとハズレだ。

 中央の道に残っている引きずられた跡は、たぶんヒッポスのだろう。
 あのゴツイ馬体を組み伏せ連れ去っている、それも一度に複数を。
 敵、もしくは敵勢なのか。現時点では不明だが、相当にヤバい相手なのはたしか。
 そういう意味では真ん中の道は当たりと言えなくもない。
 が、もしも偵察隊のメンバーたちが無事だと仮定すると、わざわざそっちには行かないはず。
 かといって遺跡の出口にも向かえなかったことから、残る左右のどちらかに避難したと考えるのが妥当だろう。

 ざっと見たかぎりでは、どの道もすべて造りは同じ。
 もし進んだ先でも枝分かれしているとしたら、あっという間に迷いかねない。
 とどのつまり、この遺跡は迷路みたいな構造をしているということ。
 ワガハイは壁の方をチラ見する。
 のぼれないほどの高さではない。あそこを歩けばズルできそう。だけど……
 壁の上は目立つ。この遺跡に潜む何者かに、こちらの姿が丸わかりとなる。あまり得策とはおもえない。

「地味にやっかいにゃんねえ。しょうがにゃい……とりあえず左の道を行ってみるかにゃあ」

 すると案の定であった。
 しばらく直進したら丸い分岐地点があらわれた。
 判で押したような造りにて、目印になりそうなものはない。
 しょうがないのでワガハイは爪でガリガリ、壁を引っ掻く。

 迷わないように目印をつけながら慎重に進む。
 これを繰り返すこと九回目のこと。
 ちっとも代り映えのしない景色と単調な道行きに、いい加減うんざりしてきたところで、ワガハイはそいつとばったり遭遇した。

 逆三角形のような頭部、ひょろっとした二本の触覚、小さな目が集まった複眼、牙のある大アゴ。胸部と腹部が歪な串団子のように連なったボディ。
 全身が黒いのだが光沢がない、墨で塗りたくったかのよう。胸部からにょきっと生えている六本の節足もまたひょろ長かった。

 見た目は、まんまアリンコである。
 家の庭先とか校庭の隅でよく見かけるアレだ。
 ただし、大きさがワガハイとタメを張るほどもあったけど……

「ほへ? えっ、えぇーっ! にゃんで?」

 突然の接近遭遇にワガハイは動揺を隠せない。
 なぜならカネコイヤーを常時発動していたのに、事前に足音ひとつ感知できなかったからだ。充分過ぎるほど警戒していたし、魔力探知だってこまめにやっていた。くんかくんかとニオイも嗅いでいた。
 にもかかわらず、これほど接近するまで相手の存在に気づけなかった。
 こんなことは初めてである。
 もしかしてワガハイ、シティボーイ暮らしで感覚がすっかりなまっている?

 ――いや、ちがう。こいつはただのデカいアリなんかじゃない! 黒い体は高性能なステルス機能付きだ!

 気づいたところで、ワガハイはカネコスラッシュを放つ。
 ほぼ同時にヤツも動く。こちらに尻をくいと向け、先端からプーッと霧状の何かを噴出した。
 ワガハイはとっさに横っ飛びにてかわそうとするも回避しきれず、ほんのわずかだがうしろ足にかかってしまった。
 酸性とかだったらヤバい! だがしかし――

「あれ? なんともないにゃん。すんすん……ニオイもしない。というか、濡れたところがすぐに乾いてしまったのにゃあ」

 いったい何がしたかったのやら。
 わけがわからず、ワガハイは首をかしげる。
 一方で、デカいアリの方はどうなったかといえば、とっくに首が胴体とお別れしていた。
 このアリ、隠密能力は凄いけど強さはたいしたことなさそうである。
 結果だけ見れば楽勝。
 だが、その考えが大間違いであることが、先に進んだところで判明した。

 またもや分岐点にて、こんどは三匹アリがいた。
 やはり気配をまったく察知できなかったけど、強さはたいしたことないのでサクサク狩ったまではよかったのだけれども。

 どうにもイヤな予感がしたもので、中央通路の奥をじーっと見てみたら――

 ワラワラワラワラ、ワラワラワラワラ……

 不思議と音はしなかった。
 だが世界から音だけが欠落した状況で蠢く姿が、かえっておぞましい。
 通路の奥より黒アリどもが押し合いへし合いしながら、こっちに向かってくるではないか!
 こりゃいかんと、ワガハイはあわてて右の道へと駆け込むも、しばらく進んだところできびすを返すハメになった。
 こっちからもワラワラワラワラ、大量にあらわれたからだ。
 来た道を戻ろうとするも、そちらにもすでに黒山のアリだかり。
 げっ、退路を断たれた!
 強引に突破しようと試みるも、アリどもはどうやら痛覚の類がないらしく、それどころか感情もないようで、まったく怯みもしない。平然と仲間の屍を越えてくる。
 死兵どころではない。これではまるでアリのゾンビだ。

「うんにゃあ~、こいつらなんか気持ち悪いのにゃあ~」

 残るは左の道のみ。
 幸いこちらの通路には敵影ナシ。
 ワガハイはシュタタタ駆けて、ひたすら逃げに徹する。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...