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057 カネコ、ばったり遭遇する。
しおりを挟む分岐点――三本ある道のうち、真ん中はきっとハズレだ。
中央の道に残っている引きずられた跡は、たぶんヒッポスのだろう。
あのゴツイ馬体を組み伏せ連れ去っている、それも一度に複数を。
敵、もしくは敵勢なのか。現時点では不明だが、相当にヤバい相手なのはたしか。
そういう意味では真ん中の道は当たりと言えなくもない。
が、もしも偵察隊のメンバーたちが無事だと仮定すると、わざわざそっちには行かないはず。
かといって遺跡の出口にも向かえなかったことから、残る左右のどちらかに避難したと考えるのが妥当だろう。
ざっと見たかぎりでは、どの道もすべて造りは同じ。
もし進んだ先でも枝分かれしているとしたら、あっという間に迷いかねない。
とどのつまり、この遺跡は迷路みたいな構造をしているということ。
ワガハイは壁の方をチラ見する。
のぼれないほどの高さではない。あそこを歩けばズルできそう。だけど……
壁の上は目立つ。この遺跡に潜む何者かに、こちらの姿が丸わかりとなる。あまり得策とはおもえない。
「地味にやっかいにゃんねえ。しょうがにゃい……とりあえず左の道を行ってみるかにゃあ」
すると案の定であった。
しばらく直進したら丸い分岐地点があらわれた。
判で押したような造りにて、目印になりそうなものはない。
しょうがないのでワガハイは爪でガリガリ、壁を引っ掻く。
迷わないように目印をつけながら慎重に進む。
これを繰り返すこと九回目のこと。
ちっとも代り映えのしない景色と単調な道行きに、いい加減うんざりしてきたところで、ワガハイはそいつとばったり遭遇した。
逆三角形のような頭部、ひょろっとした二本の触覚、小さな目が集まった複眼、牙のある大アゴ。胸部と腹部が歪な串団子のように連なったボディ。
全身が黒いのだが光沢がない、墨で塗りたくったかのよう。胸部からにょきっと生えている六本の節足もまたひょろ長かった。
見た目は、まんまアリンコである。
家の庭先とか校庭の隅でよく見かけるアレだ。
ただし、大きさがワガハイとタメを張るほどもあったけど……
「ほへ? えっ、えぇーっ! にゃんで?」
突然の接近遭遇にワガハイは動揺を隠せない。
なぜならカネコイヤーを常時発動していたのに、事前に足音ひとつ感知できなかったからだ。充分過ぎるほど警戒していたし、魔力探知だってこまめにやっていた。くんかくんかとニオイも嗅いでいた。
にもかかわらず、これほど接近するまで相手の存在に気づけなかった。
こんなことは初めてである。
もしかしてワガハイ、シティボーイ暮らしで感覚がすっかりなまっている?
――いや、ちがう。こいつはただのデカいアリなんかじゃない! 黒い体は高性能なステルス機能付きだ!
気づいたところで、ワガハイはカネコスラッシュを放つ。
ほぼ同時にヤツも動く。こちらに尻をくいと向け、先端からプーッと霧状の何かを噴出した。
ワガハイはとっさに横っ飛びにてかわそうとするも回避しきれず、ほんのわずかだがうしろ足にかかってしまった。
酸性とかだったらヤバい! だがしかし――
「あれ? なんともないにゃん。すんすん……ニオイもしない。というか、濡れたところがすぐに乾いてしまったのにゃあ」
いったい何がしたかったのやら。
わけがわからず、ワガハイは首をかしげる。
一方で、デカいアリの方はどうなったかといえば、とっくに首が胴体とお別れしていた。
このアリ、隠密能力は凄いけど強さはたいしたことなさそうである。
結果だけ見れば楽勝。
だが、その考えが大間違いであることが、先に進んだところで判明した。
またもや分岐点にて、こんどは三匹アリがいた。
やはり気配をまったく察知できなかったけど、強さはたいしたことないのでサクサク狩ったまではよかったのだけれども。
どうにもイヤな予感がしたもので、中央通路の奥をじーっと見てみたら――
ワラワラワラワラ、ワラワラワラワラ……
不思議と音はしなかった。
だが世界から音だけが欠落した状況で蠢く姿が、かえっておぞましい。
通路の奥より黒アリどもが押し合いへし合いしながら、こっちに向かってくるではないか!
こりゃいかんと、ワガハイはあわてて右の道へと駆け込むも、しばらく進んだところできびすを返すハメになった。
こっちからもワラワラワラワラ、大量にあらわれたからだ。
来た道を戻ろうとするも、そちらにもすでに黒山のアリだかり。
げっ、退路を断たれた!
強引に突破しようと試みるも、アリどもはどうやら痛覚の類がないらしく、それどころか感情もないようで、まったく怯みもしない。平然と仲間の屍を越えてくる。
死兵どころではない。これではまるでアリのゾンビだ。
「うんにゃあ~、こいつらなんか気持ち悪いのにゃあ~」
残るは左の道のみ。
幸いこちらの通路には敵影ナシ。
ワガハイはシュタタタ駆けて、ひたすら逃げに徹する。
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