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056 カネコ、古代遺跡を探検する。
しおりを挟む受付のおっさんに借りた地図を頼りに最短距離を進む。
街道をはずれ、草原を突っ切り、荒れ地を爆走し、野を越え丘を越え、小川や谷をもぴょんと越え。
進路上に立ちはだかる者あらば、カネコモービルで撥ね散らかし、ときにカネコスラッシュやカネコビームで薙ぎ払う。
ずっとフルスロットル。
燃料となる魔力を惜しみなくガンガン注ぎ込み、マシンの限界に挑戦する。
そのため車体は熱を帯び、ずっとギシギシ軋みっぱなし。
動力部をになっている小さなゴーレムたちは「ぎゃあ~」と悲痛な叫び声をあげるも、ワガハイは耳をぺたんと伏せては聞こえないフリをする。
ショートカットしまくりにて、休憩なしで夜通し走り続けた。
そのかいあって夜が明ける頃には、はや目的地に到着した。
〇
森の奥でもいっとう陰影が濃い。
沼の底のように緑が淀んでいる。
青く、濃密な空気がむせ返るほど。
やや窪地になっている地形のせいであろうか。周辺からこの地へと、樹々が吐き出す何かが垂れ流されているかのよう。
そんな場所に、古代の石の都はひっそりとたたずんでいた。
古代マヤ文明の都市、カラクムル遺跡を彷彿とさせる光景は圧巻のひと言。
いまだに全貌は把握されておらず、いかにもお宝が眠っていそう。
これを前にしてワクワクしないやつは冒険者じゃない。冒険野郎どもが散々に苦労をし危険をおかしてまで、こぞって大森林の第四階層まで足を運ぶのも納得である。
たしかにここは冒険者を名乗るのならば、一度は訪れるべき場所だ。
そして一度でもこのロマンあふれる光景を目にしたら、このワクワクを知ってしまったら、きっともう退屈な日常には戻れないだろう。
植物たちの浸蝕を受けて森になかば呑み込まれているものの、古代遺跡はなおも原型を留めていた。
それを可能にしているのは、用いられている技術だ。
石で組まれた壁や床。おそらくは天然石ではあるまい。コンクリートに近い何かにて作成された人工のブロック。
灰に近いアイボリー色をしており、ブロック同士の結合部のなんと見事なことか。隙間がほとんどなく、かつキレイに加工されている。耐久性については言わずもがな。
ちなみにコンクリートの耐久年数は、ほぼ百年ぐらい。
比べものにならない。
この一点だけでも、古代遺跡の文明がいかに高度であったかがわかるというもの。
表面に積もった土埃を払って触れてみれば、その滑らかな肌触りにワガハイは目を見張る。
「うんにゃ~。森が先か、都市が先かはわかっていないらしいけど、どちらにしろすごいにゃんねえ」
遺跡を前にしてワガハイは感嘆しきりである。
だがしかし――
「でもちょっと……というか、かなりヘンにゃんねえ」
あまりにも静か過ぎるのだ。
いかに夜が明けたとはいえ、ここは第四階層である。有象無象の魔獣やヤバい虫らがゴロゴロいるような場所。
なのに、さっきからしぃんと静まり返っている。羽ばたき音や鳴き声のひとつも聞こえてきやしない。
ワガハイは警戒を強めつつ、左右を石壁に囲まれた一本道を進む。
じきに拓けた所へと出た。
丸くくり抜いたような形をしており、ここから三方へと新たな道がのびている。どうやらここはロータリー交差点に該当する場所のようだ。
「ほうほう、焚き火のあとがあるにゃん。まだ新しい……ということは、偵察隊はここを拠点に探索していたっぽいのにゃあ」
が、荷物もなければ連れてきたはずのヒッポスたちの姿もなし。
でも、目を凝らしてよくよく地面を見てみたら……
「んんん? これは重たい何かを引きずった跡かにゃん?」
それっぽい線がうっすら残っており、三方ある道のうちの一本、おそらくは遺跡の中心部へと繋がっているであろう道の奥へとのびていた。
偵察隊がここで不測の事態に見舞われたのは、まず間違いあるまい。
「う~ん、もしも何かに襲われたとしたら、ふつうは遺跡の出口の方へと向かうにゃんよねえ。
そんな暇もなくあっさり全滅した? とはさすがにちょっと考えられないにゃんねえ。ギルドが派遣した連中は、そんなにヤワじゃないはずなのにゃあ」
ガガスメイヤとの戦い。共闘したベテランのおっさん冒険者は、類人ながらも見事な立ち回りをみせていた。
そのことからして偵察隊の連中があっさり殺られたとはおもえない。
「……逃げたくても逃げられなかった、かにゃん。だとしたら……」
ワガハイは残る二本の道を見比べた。
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