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054 カネコと砂場の少年。
しおりを挟む新人の講習会で訪れた出先にて、ガガスメイヤなるデカいヘビの魔獣と遭遇した。
ワガハイたちから報告を受けた冒険者ギルドは、誰一人欠けることなく帰還したことを喜びつつも、騒然となった。
メテオリト大森林の第四層にある古代遺跡、その周辺に生息しているはずのガガスメイヤが森の外にいる。しかもただの個体じゃなくて特異種が。
ガガスメイヤが外をうろついていたことも衝撃だが、それよりもギルドが懸念したのはヤツが森から姿をあらわした理由である。
たまたま、であれば問題はない。
でも、もしもそうじゃなかったとしたら……
森の奥で異変が起きているのかもしれない。
それも特異種の個体が縄張りを放棄して逃げ出すような何かが。
大型の魔獣が動く。
それは地震のようなもの。大なり小なり周辺に影響を及ぼす。ばかりか時には津波をも誘発する。
今回の場合だとスタンピードがそれに相当する。
魔獣たちの氾濫が発生すればたいへんだ。
都市をあげての防衛戦となる。氾濫の規模に寄っては、近隣および中央に応援要請をしなければならない。
緊急事態と判断した冒険者ギルドは、すぐに偵察隊を森へ派遣することを決定した。
それと平行して関係各所と連絡を取り合い、いざという時のための準備を水面下で始めた。
〇
偵察隊が出発して、はや十五日が過ぎた。
ここのところ冒険者ギルド内の空気がちょっとピリピリしている。
ガガスメイヤの件もさることながら、偵察隊から何の連絡もないから。
偵察隊は十人編成にて、斥候技術に優れた熟練の腕利き揃い。人数分のヒッポスも用立てた。
彼らの実力とヒッポスの移動速度を計算に入れれば、十二日前後には第四層の古代遺跡に到達しているはず。
なのに連絡用に持たせた言珠(ことだま)は音沙汰なし。
こちらからの呼びかけにも応じない。
言珠は通信用の魔道具。
大きさはビー玉ぐらいにて、対となる玉同士で遠距離通信が可能だ。
トランシーバーの劣化版みたいな性能だが、それでもこの世界では高級品かつ軍備扱いされており、国の厳しい管理下にある。
冒険者ギルドも保有しているけど、あくまで国から貸し出されている形にて、使用するには領主もしくは副領主の承認が必要となっている。
予定より三日ばかり過ぎている。
向かった場所が場所なだけに、誤差の範囲内と言えなくもない。
が、ひょっとしたら偵察隊に何かあったのかもしれない。
判断するには微妙なところ。
冒険者ギルドはどうすべきか苦慮している。
それを横目にワガハイは平常運転であった。
いやほら、ワガハイってば、いかに優れているとはいえ冒険者としてはまだまだ下位だし、主な実績は掃除と害獣駆除ぐらいなもので。
〇
地面にのびた影が長い、空が茜色に染まる時刻。
今日も今日とて不本意ながら労働にて汗をかいてしまった。
「まったくもって勤労にもほどがある。こんなのちっともカネコらしくないのにゃあ~」
ぼやきながら、ワガハイはここのところごやっかいになっている公園へとおもむく。
良い子はもうお家(うち)に帰っているはずなので、ここから先は夜の公園の帝王たるワガハイのターンだ。
にしても住めば都とはよくいったもの。
最近では、いっそこのまま砂場のヌシに納まるのも悪くないかも。
とか思い始めている自分がいる。
だがしかし、そんなワガハイの地位を脅かす者があらわれた!
公園につくなり聞こえてきたのは、ザッザッザッザッという音。
何事かとおもえば、砂場にて砂掻きをしている者がいる。
歳の頃は五歳ぐらいであろうか、獣人の少年であった。
少年は半べそを掻きながら、猛烈な勢いで砂をほじくり返している。
見かねてワガハイは声をかけた。
「コラ! そこはワガハイの寝床にゃん。これ以上の狼藉は許さんのにゃあ」
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