寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
53 / 254

053 カネコ、焼肉は塩よりもタレ派。

しおりを挟む
 
 まず頭をちょんと切り落とす。
 けれども毒牙は健在なので、死んでるからといって油断せぬように注意しよう。
 うっかり触ってブスリとやったら、えらいことになるので。
 ちなみにヘビの毒は、毒腺と呼ばれる器官にて精製貯蔵されており、場所はだいたい目のうしろあたりにある。

 次に尻尾を上にして吊り下げ、ドバドバ血抜きをする。
 これ大事! しっかりやらないと肉が臭くなり、味が落ちるので入念かつ速やかに行うこと!

 血がポタポタ流れなくなったら水で丁寧に洗う。
 まちがっても家でソーメンを湯がくときみたいに、手鍋と少量の水で済まそうとか横着をしてはいけない。たっぷりじゃぶじゃぶ。

 よく洗い終わったら、いよいよ皮をはぐのだけれども……
 その前にやることがある。
 それは総排出腔から、腹の中心線に沿っての切開だ。
 あー、ようはケツの穴にズブっと刃物の切っ先を突っ込んで、首元へと向かって真一文字に切り裂くことである。
 なおケツの穴の場所は、穴を守る専用の鱗があるので、それを目印に探せばわりとすぐに見つかるだろう。
 かくして準備は整った。
 いざ、首根っこの皮をむんずと掴んではベリベリベリ……
 イメージ的には魚肉ソーセージのパッケージをはぐ感じで。
 ただし力任せに引っ張って皮を破かないこと!
 これまた丁寧かつ、バランスよく均等に張力を維持しつつ、ベリベリひん剥く。

 尻尾のガラガラのところまで皮を剥いだら、そこでちょん切る。
 ついでにガラガラもちょん切る。
 で、魚をさばく要領で腹を裂き、内蔵を取り除く。
 そして最後にもう一度、冷水で洗ってヘビの解体作業は完了である。

 なお毒腺については、ヘビの種類によっては場所がちがうケースもあるので、事前にしっかり調べておくことを推奨する。
 以上、ヘビの解体でした。

  〇

 倒したガガスメイヤをその場で解体する。
 巨体ゆえにたいへんだった。
 もちろんヒヨッコどもにも手伝わせる。
 引率役のおっさんの指導を受けつつ、みんなで協力してやっつけた。

 ワガハイのアイテムボックスがあれば、鮮度を保ったままガガスメイヤの骸を丸ごと持ち帰れる。
 なのに、わざわざ解体作業をやったのには、ちゃんと理由がある。
 それは今回の外出が、あくまで新人たちの講習会だからだ。

「大は小をかねるってな。こんな大物なんて、めったにお目にかかれねえからなぁ。せっかくだから連中に捌き方を教えておこう」

 と引率役のおっさんが言い出し、ワガハイもがんばり過ぎですっかり腹ペコだったので同意する。
 ヒヨッコどものなかには「そんなことよりも、すぐに戻ってギルドに報せるべきだ」との優等生な解答を口にする者もいたが、おっさんはそれを「はんっ」と鼻で笑った。

「ヤメとけヤメとけ。夜間の移動なんて自殺行為だぞ。たとえ森の外だとしてもだ」

 これが理由その2。
 昼と夜とでは壁の外の世界は、がらりと様変わりする。
 視界はぐっと悪くなり、ほぼ目隠し状態だ。
 動物や魔獣らはたいてい活動的になるし。
 ワガハイみたいに夜目が利く者、もしくは斥候として訓練を積んだ者でなければ、まず対応できないだろう。新人冒険者なんてカモネギだ。

 でもって、そんなカモネギもといヒヨッコども。
 もしもこのまま何もさせずに、尻尾をまいて逃げ帰らせたら「ちょっとマズイことになるかもしれん」とはおっさんの懸念だ。
 はっきり言って、今回のはトラウマ級の出来事である。
 真っ当な冒険者を続けていても、一度あるかないかのような特大の。
 そんなシロモノにいきなりぶち当たった新人たち。
 自分でも気づかぬほどのショックを受けているはず。
 刻まれた恐怖心。
 これをそのまま放置したら、早晩のうちに心がペキリと折れて、彼らは使い物にならなくなるだろう。

 そこで理由その3。
 未知は恐怖であり、恐怖はさらなる恐怖を誘発する。どつぼにはまったら負のスパイラルに取り込まれて延々と抜け出せなくなる。いざというときにフラッシュバックなんぞ起きたら目も当てられない。
 だから実物に触れて、捌いて、腹の内々までとっくり拝んで、よく学び、よく食べて、少しでも苦手意識を薄れさせよう。
 ようはカウンセリングの一環である。
 少々手荒いショック療法のような気がしなくもないが、おっさんいわく「こういうのは時間を置くほど悪化するんだ」そうで、鉄と同じく熱いうちにぶっ叩いて矯正するのがいいんだと。

 だから、どうしてガガスメイヤがこの場所にあらわれたのかという問題はいったん脇へとうっちゃっておく。
 みんなでヘビ肉でバーベキューをし、おおいに盛り上がって、辛い体験を楽しい体験で上書きするのだ。

 引率役のおっさん、マジで男前でいい先輩だ。
 本当に、どうしてこれで自分の娘から蛇蝎のごとく嫌われるのだろう?
 おおいに首をかしげつつ、ワガハイも「そういうことにゃら」とアイテムボックスから壺を取り出した。
 中身はワガハイ秘伝のタレ。
 城塞都市トライミングの屋台街に通い詰め、あちらこちらでB級グルメをつまみまくっては、磨いた舌と鑑定により情報を集め、こつこつと調味料を集めては試作を繰り返すこと五十を越え、ついに辿り着いたのがこの甘辛のタレである。
 どんな安い肉でも、これさえあればとたんに美味しくなる魔法のタレだ。
 タレに浸して焼けば、じゅわっと音がして、たちまちいいニオイが周囲に漂い、口のなかにはヨダレがあふれて、お腹がぐぅと鳴る。

「塩もいいけど、焼肉の醍醐味はやっぱりタレにゃん。というわけで、さっそくみんなで焼いて食べるのにゃあ~」

 ワガハイの合図で、肉だらけのバーベキューがスタート。
 でも和気あいあいとしていられたのは、はじめのうちだけであった。
 じきにそこかしこにて、「おい、それは俺のだぞ!」「ふん、早いもの勝ちだ!」「隙あり、その肉もらったー!」「させるか!」との怒号が飛び交い争いが勃発する。
 若い連中の食欲、その凄まじさ、底なしの胃袋を完全に見誤った。
 あぁ、ガガスメイヤの肉とワガハイの特製ダレがみるみる減っていく……

「うんにゃーっ、誰にゃあ? ワガハイの育てた肉を盗ったの!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

処理中です...