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053 カネコ、焼肉は塩よりもタレ派。
しおりを挟むまず頭をちょんと切り落とす。
けれども毒牙は健在なので、死んでるからといって油断せぬように注意しよう。
うっかり触ってブスリとやったら、えらいことになるので。
ちなみにヘビの毒は、毒腺と呼ばれる器官にて精製貯蔵されており、場所はだいたい目のうしろあたりにある。
次に尻尾を上にして吊り下げ、ドバドバ血抜きをする。
これ大事! しっかりやらないと肉が臭くなり、味が落ちるので入念かつ速やかに行うこと!
血がポタポタ流れなくなったら水で丁寧に洗う。
まちがっても家でソーメンを湯がくときみたいに、手鍋と少量の水で済まそうとか横着をしてはいけない。たっぷりじゃぶじゃぶ。
よく洗い終わったら、いよいよ皮をはぐのだけれども……
その前にやることがある。
それは総排出腔から、腹の中心線に沿っての切開だ。
あー、ようはケツの穴にズブっと刃物の切っ先を突っ込んで、首元へと向かって真一文字に切り裂くことである。
なおケツの穴の場所は、穴を守る専用の鱗があるので、それを目印に探せばわりとすぐに見つかるだろう。
かくして準備は整った。
いざ、首根っこの皮をむんずと掴んではベリベリベリ……
イメージ的には魚肉ソーセージのパッケージをはぐ感じで。
ただし力任せに引っ張って皮を破かないこと!
これまた丁寧かつ、バランスよく均等に張力を維持しつつ、ベリベリひん剥く。
尻尾のガラガラのところまで皮を剥いだら、そこでちょん切る。
ついでにガラガラもちょん切る。
で、魚をさばく要領で腹を裂き、内蔵を取り除く。
そして最後にもう一度、冷水で洗ってヘビの解体作業は完了である。
なお毒腺については、ヘビの種類によっては場所がちがうケースもあるので、事前にしっかり調べておくことを推奨する。
以上、ヘビの解体でした。
〇
倒したガガスメイヤをその場で解体する。
巨体ゆえにたいへんだった。
もちろんヒヨッコどもにも手伝わせる。
引率役のおっさんの指導を受けつつ、みんなで協力してやっつけた。
ワガハイのアイテムボックスがあれば、鮮度を保ったままガガスメイヤの骸を丸ごと持ち帰れる。
なのに、わざわざ解体作業をやったのには、ちゃんと理由がある。
それは今回の外出が、あくまで新人たちの講習会だからだ。
「大は小をかねるってな。こんな大物なんて、めったにお目にかかれねえからなぁ。せっかくだから連中に捌き方を教えておこう」
と引率役のおっさんが言い出し、ワガハイもがんばり過ぎですっかり腹ペコだったので同意する。
ヒヨッコどものなかには「そんなことよりも、すぐに戻ってギルドに報せるべきだ」との優等生な解答を口にする者もいたが、おっさんはそれを「はんっ」と鼻で笑った。
「ヤメとけヤメとけ。夜間の移動なんて自殺行為だぞ。たとえ森の外だとしてもだ」
これが理由その2。
昼と夜とでは壁の外の世界は、がらりと様変わりする。
視界はぐっと悪くなり、ほぼ目隠し状態だ。
動物や魔獣らはたいてい活動的になるし。
ワガハイみたいに夜目が利く者、もしくは斥候として訓練を積んだ者でなければ、まず対応できないだろう。新人冒険者なんてカモネギだ。
でもって、そんなカモネギもといヒヨッコども。
もしもこのまま何もさせずに、尻尾をまいて逃げ帰らせたら「ちょっとマズイことになるかもしれん」とはおっさんの懸念だ。
はっきり言って、今回のはトラウマ級の出来事である。
真っ当な冒険者を続けていても、一度あるかないかのような特大の。
そんなシロモノにいきなりぶち当たった新人たち。
自分でも気づかぬほどのショックを受けているはず。
刻まれた恐怖心。
これをそのまま放置したら、早晩のうちに心がペキリと折れて、彼らは使い物にならなくなるだろう。
そこで理由その3。
未知は恐怖であり、恐怖はさらなる恐怖を誘発する。どつぼにはまったら負のスパイラルに取り込まれて延々と抜け出せなくなる。いざというときにフラッシュバックなんぞ起きたら目も当てられない。
だから実物に触れて、捌いて、腹の内々までとっくり拝んで、よく学び、よく食べて、少しでも苦手意識を薄れさせよう。
ようはカウンセリングの一環である。
少々手荒いショック療法のような気がしなくもないが、おっさんいわく「こういうのは時間を置くほど悪化するんだ」そうで、鉄と同じく熱いうちにぶっ叩いて矯正するのがいいんだと。
だから、どうしてガガスメイヤがこの場所にあらわれたのかという問題はいったん脇へとうっちゃっておく。
みんなでヘビ肉でバーベキューをし、おおいに盛り上がって、辛い体験を楽しい体験で上書きするのだ。
引率役のおっさん、マジで男前でいい先輩だ。
本当に、どうしてこれで自分の娘から蛇蝎のごとく嫌われるのだろう?
おおいに首をかしげつつ、ワガハイも「そういうことにゃら」とアイテムボックスから壺を取り出した。
中身はワガハイ秘伝のタレ。
城塞都市トライミングの屋台街に通い詰め、あちらこちらでB級グルメをつまみまくっては、磨いた舌と鑑定により情報を集め、こつこつと調味料を集めては試作を繰り返すこと五十を越え、ついに辿り着いたのがこの甘辛のタレである。
どんな安い肉でも、これさえあればとたんに美味しくなる魔法のタレだ。
タレに浸して焼けば、じゅわっと音がして、たちまちいいニオイが周囲に漂い、口のなかにはヨダレがあふれて、お腹がぐぅと鳴る。
「塩もいいけど、焼肉の醍醐味はやっぱりタレにゃん。というわけで、さっそくみんなで焼いて食べるのにゃあ~」
ワガハイの合図で、肉だらけのバーベキューがスタート。
でも和気あいあいとしていられたのは、はじめのうちだけであった。
じきにそこかしこにて、「おい、それは俺のだぞ!」「ふん、早いもの勝ちだ!」「隙あり、その肉もらったー!」「させるか!」との怒号が飛び交い争いが勃発する。
若い連中の食欲、その凄まじさ、底なしの胃袋を完全に見誤った。
あぁ、ガガスメイヤの肉とワガハイの特製ダレがみるみる減っていく……
「うんにゃーっ、誰にゃあ? ワガハイの育てた肉を盗ったの!」
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