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051 カネコ、選択の刻。
しおりを挟むカネコテイルボムが決まった。
さしものガガスメイヤも口腔内からの攻撃はかわしようがない。
もたげていたかま首がぐらりと傾き、蛇体がどうと倒れた。
プスプスと頭部は燃え続けており、ガガスメイヤはぴくりとも動かない。
「ふぃ~、けっこう手強い相手だったのにゃあ。まさか手札をいくつも切らされるとはおもわなかったのにゃん」
ワガハイ、やれやれ。
するとそこへ「おーい、無事かー」と駆け寄ってきたのは引率役のおっさんである。
ヒヨッコどもを安全なところまで退避させてから、わざわざ戻ってきてくれたらしい。
いい人である。どうしてこれで娘さんから蛇蝎のごとく嫌われるのだろうか? ワガハイ、やはり気になってしょうがない。ここはやっぱりお宅訪問すべきか、それも夕食時を狙って。
さっきの反省もどこへやら。
舌の根も乾かないうちにそんなことを考えるワガハイであったが、そんなワガハイに引率役のおっさんが叫ぶ。
「うしろ、うしろ」と。
なにやらどこかで見たような光景である。
イヤな予感がしてワガハイが恐る恐るふり返ると……
ギュルギュルギュルギュル――
倒れていたはずのガガスメイヤが猛烈に回転していた。
どうやら死んだふりをしていらしい。
死んだふりといえば、キタオポッサムの迫真の演技っぷりが有名だが、じつはウサギやモルモットやニワトリとかもやる。
そしてヘビもする。根性のあるやつだと一時間以上も続けるというから驚きだ。
ガガスメイヤが全身の鱗をおっ立てては、ドリルのごとくギュルルルルル!
触れたら大根おろしのように、たちまちすりおろされることであろう。
そんな状態で地面を抉りながら突っ込んできたもので、ワガハイはキャアキャア逃げた。
運悪く巻き込まれた引率役のおっさんもキャアキャア逃げた。
でもそれだけではすまない。さらにガガスメイヤの追撃。
「痛いにゃん」
びゅんと何かが目の前をよぎったとおもったら、頬に切り傷が入り血がツツーッと。
鱗だ。
ヤツが長い体をうねらせながら暴れつつ、鱗を飛ばしていたのである。
鱗といってもかなり鋭利にて薄い刃のよう。まともに当たったら肉を裂き、骨を断つほどの威力がある。
これはカネコとて油断ならない。ましてや類人のおっさんの身では――
「おっさん、生きてるかにゃん!」
「どうにかな。だがいつまで防ぎきれんぞ!」
さすがはベテラン、落ち着いて対処している。剣と手甲を器用に使っては鱗の攻撃を上手にそらし直撃は避けている。
でもおっさんの言った通りにて、このままではジリ貧だろう。
だからワガハイはおっさんを回収して、すみやかに撤退しようとするも、そうはさせじとガガスメイヤが動く。
ガガスメイヤは自身の長大な身を使って円を作り、こちらを囲んだ。
相手の意図に気がついたときには、すでに輪が閉じられたあとであった。
退路を断たれたワガハイと引率役のおっさん。
じょじょに狭まるガガスメイヤの包囲網。渦のようにこちらを呑み込んでしまう算段か。
窮地のさなか、四方八方から次々に飛んでくる鱗へ対処するために、ワガハイとおっさんは自然と背中合わせとなり、互いを守る格好となった。
ばら撒かれ続ける鱗での攻撃、そのうち打ち止めになるかとおもいきやさにあらず。
まるでサメの歯みたいに抜けたはしから、新しい鱗がポンポン生えてくるせいで怒涛の攻勢がちっとも止まらない!
ならばと攻撃魔法にて強引に突破を試みるも、より強固となったヤツの防御は破れない。放った魔法が回転に巻き込まれて霧散してしまうばかり。
ヤツも必死なのだろうけど、とにかく凄まじい。
もしかしたらカネコビームすらも、当たる角度によってはそらされるかも。
なんにせよ非常にマズイ状況である。
「おっさん、こいつの弱点を知らないかにゃん?」
「ぐっ、ガガスメイヤ討伐の手順は……相手の動きを封じて、目か口の奥を突いて頭の中を破壊する――だが、こんなデタラメなヤツの話は聞いたことがない。
おそらくこいつは特異種だ」
特異種とは、魔獣のなかから稀に出現する強い個体のこと。
いずれは魔王へと至ることもあるから、魔王種とも呼ばれている。
よりにもよって初めての外出でそんなのに遭遇するとか、運が悪いにもほどがある。
どうやらハイスペックにて各能力値がずば抜けているカネコも、隠しステータスの運値は低かったらしい。
でも、それを嘆いている暇はなかった。
「うにゃっ!」
「げっ!」
じりじりと押し寄せてくる蛇体の壁。
渦中に発射されたのは大量の鱗たち。
これまでの比ではない、機関銃のごとき全方位からの一斉掃射。
逃げ場のない状況下で、ワガハイは選択を迫られる。
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