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050 カネコのしっぽ。
しおりを挟むカネコとガガスメイヤの戦い。
大きな体のわりに俊敏なガガスメイヤは、大地を滑るようにシュルシュル移動しては、頭突きをかましてきたり、大口を開けて噛みついてきたり、長い尻尾で叩いたり薙いだり、さらには牙からピュッピュッと毒液を飛ばしたりもする。
苛烈かつ多彩な攻撃にワガハイはタジタジ。
それでものらりくらりとかわしては、合間合間に反撃を試みる。
しかしカネコスラッシュはやはりダメだった。何度やっても、つるんと滑って彼方へと攻撃をそらされてしまう。
ならば直接ガリガリ引っ掻いてやろうと、爪をジャキンとのばして近づこうとすれば、たちまちガガスメイヤの全身がゾワリと波打ち、ピンと立ったのは体を覆っている鱗たち。
一枚一枚が薄刃のごとく鋭利にて、それがびっちり生えている。
下手に攻撃をしかけたら、逆にこちらの肉球が大ダメージをおいかねないもので、ワガハイはあわてて手を引っ込めた。
半端な遠距離攻撃は通じない。
接近戦もさせてもらえない。
こうなれば必殺カネコビームで仕留めたいところだが、うねうね素早く動いては的を絞らせてくれない。
どうやらガガスメイヤは、ワガハイの額の第三の目に魔力が集中する気配を察しているようだ。豪快な見た目に反して、おもいのほか用心深い。さすがは弱肉強食な森の奥でスクスク育っただけのことはある。
「むむむ、手強いのにゃあ。でもコレならどうにゃん? カネコインビジブル、発動!」
説明しよう。
カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。
とはいえSF作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。
ワガハイの姿がにじんでぼやけ、たちまち宵闇に溶けて消えた。
幸いなことに、いま丘には風が吹いており、カモフラージュを手伝ってくれている。
急に消えたワガハイを探し、ガガスメイヤがキョロキョロしている。
その隙にワガハイはそーっと差し足忍び足、こっそりヤツの背後へと回っては、至近距離から渾身のダブル・カネコスラッシュをぶちかましてやろうとする。
だがしかし――
いざ攻撃するぞというタイミングで、いきなりガガスメイヤがぐりんとふり返ったもので、ワガハイはビクリ!
あわてて後退し、そのままヤツの右側面へと移動、ふたたび攻撃を仕掛けようとする。
が、またしもガガスメイヤはこっちを向いた。
偶然じゃない!? ガガスメイヤはワガハイを捕捉している。
するとその時のこと。
戦いの様子を見守りつつ、ヒヨッコどもを逃がしていた引率役のおっさんが声を張り上げた。
「熱だ! 体温でバレてるんだよ、あとニオイも! ヤツはやたらと鼻が利くんだ、気をつけろ!」
言われてワガハイも「あっ」
そうであった。
ヘビにはピット器官なるものが備わっており、赤外線を感知する。これによりわずかな温度差も見逃さない。
あと嗅覚も独特で、鼻ではなく長い舌を使ってペロッと空気中のニオイを感じとる。
わりと有名な話だ。
なのに、ワガハイはそのことをすっかり失念していた。
であるがゆえに――カネコインビジブルは効果ナシ!
ワガハイ、うっかり。
そしてうっかりついでに、三本ある尻尾のうちの一本をガブリと噛まれてしまった。
牙が突き立った刹那、体の中にイケない何かが注入されるのを感じて、ワガハイはゾゾゾ、怖気に見舞われる。
毒だ!
それも激烈な。
細胞を破壊するだけでなく、血液に乗って体内を循環しては、内側から全身を破壊する致死率MAXの。
これはちょっとシャレにならない。いくら超生命体であるカネコでもだ。
だからワガハイはすかさず「えいっ」
ブチッと噛まれている自分の尻尾を引き千切った。
あー、ご心配なく。
これは元からそういう仕様にて。
カネコの三本の尻尾は着脱式、抜けたところでじきにまた新しいのが生えてくる。
でもって……
「カネコテイルボムを喰らうだにゃん」
言うなり千切れた尻尾がしゅうしゅう白煙をあげ始めたもので、ガガスメイヤはあわてて吐き出そうとするも、尻尾の方からまとわりついて離れてくれない。
そうしてまごまごしているうちに、スリー、ツー、ワン、ゼロ。
ピカッと光って、ちゅど~~~~ん!
尻尾が炸裂し、ガガスメイヤは口から火を噴き頭部が爆炎に包まれた。
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