寄宿生物カネコ!

月芝

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047 カネコ、目を回す。

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 たかが一泊二日の研修とはいえ、総勢十二名とカネコ一匹ともなればアレやコレ、それなりに物資がかさむ。
 さすがにそのすべてをヒヨッコどもに担がせるのはムリだ。
 かといって、わざわざ荷車を用立てるほどの規模でもない。
 そこでアイテムボックス持ちのワガハイのところに話が回ってきたという次第である。

 ……のわりにはこれまで、この手の搬送依頼がなかったのは、ワガハイの徹底した出不精もさることながら、あんまり個人の輸送力に頼るといざという時に困るから。
 アイテムボックスはたしかに便利だ。
 けど、それに甘えた物流システムはたやすく破綻しかねない。
 ようは清掃活動のときと同じこと。
 圧倒的能力を有する個人が考えナシに無双すれば、煽りを食って失業する者が続出し、これまで築いてきた諸々までもがダメになってしまう。負の連鎖を招くばかりか、ひいては都市の景気や治安にも響くだろう。

 既得権益といえばついつい悪いイメージを抱きがちだけれども、ちゃんと機能している分には有益にて、それで保たれている秩序があり、成り立つ暮らしもある。
 転生者が勝手な正義感を振りかざして、チートでひっかき回したとてろくなことにはならない。
 ワガハイは大人であるがゆえに、その辺のことをちゃんとわきまえているのだ。

 預かっていた荷をポンポン出してから、続けて自分の寝床の確保をする。
 ヒヨッコどもは慣れない作業に悪戦苦闘しながらテントを組み立てているけど、ワガハイはちがう。
 地魔法で「えいっ」
 サクっと土でカマクラを作ってしまう。
 今回は場所が草原に囲まれた小高い丘の上ということもあり、カマクラは生えている草も練り込んでの草原バージョン。意図したわけではないが、迷彩柄っぽいのがデキた。
 フフン、夜の公園で技術を磨いたワガハイの手にかかれば、この程度は造作もない。

「なんならマネしてもいいにゃんよ」

 コツを教えようか? いまなら出血大サービスにて干し肉一枚にて。オマケにワガハイの抜け毛で作った御守りもつけちゃおう。
 とのワガハイの申し出に、ヒヨッコどもはそろって首を横に振った。
 引率役のおっさんは「あのなぁ」と頭をボリボリ、ちょっと呆れ顔にて「基本的に魔力は温存するもんなんだよ。おまえさんみたいにホイホイ使っていたら、すぐに魔力切れを起こしてぶっ倒れちまう」と言った。

 ここのところしょぼい使い方しかしていなかったので、つい忘れていた。
 ワガハイってば、とてもデキるハイスペックな超生命体であった。
 それこそぶらり立ち寄った城塞都市の領主が、レジメ板からもたらされた個人情報を目にするなり、おもわず天を仰ぎ「オー・マイ・ガッ!」と叫ぶほどに。
 なのについ先輩風と天才風をびゅうびゅう吹かせてしまった。
 ワガハイは反省しテヘペロにゃん。

  〇

 みんなが手分けをし、せっせと宿営地の設営をしている。
 ワガハイはそうそうにすることが無くなり、すっかり手持ち無沙汰となった。
 そこでワガハイは、いまのうちにアレを試してみようと思い立つ。
 アレとは採取チートだ。

「くっくっくっ、もはやかつてのワガハイとはちがうのにゃん」

 ギルドの資料室にある植物図鑑で、事前に必要な知識は詰め込んできた。
 ワガハイの鑑定は情報蓄積タイプなので、知れば知るほどに内容が充実していく。
 かつて元の世界でナイスガイだった頃。小中高大の学生時代のみならず、社会人になってからも磨き続けた一夜漬けスキルは伊達じゃない。
 もはやポンコツ鑑定とはいわせない。
 さらにワガハイにはとっておきの秘策もある。

 にゃんにゃんと宿営地から少し離れたところで、ワガハイはカネコアイを発動する。
 カネコアイはジト目になればかなり遠方まで見通せる。遠近両用にて暗闇でもバッチリ。やっかいだったカスミ目やスマホ老眼から解き放たれた、いまのワガハイに死角はない。
 今回はふだんは閉じている額の目をもカッと開く。
 眼光鋭く自動車のヘッドライトのようにペカー、一帯を照らしては同時に鑑定を発動する。
 すると……

「おもったとおりだにゃん。これで楽々採取し放題だにゃあ~」

 三つの目による視野は大パノラマ。
 広大な視界のなかには、まるでFPSゲーム画面のようにいくつものターゲットマーカーが表示されては、パパパと対象を次々ロックオンしていく。
 それらはすべて薬草などの採取対象の植物である。
 いちいち探さなくても、ざっと見渡すだけでどこに何があるのかひと目で丸わかり。
 これぞカネコ流鑑定の進化系!

「うひゃひゃひゃ、もはやワガハイは無敵にゃん。採取王に――ワガハイは、なる!」

 と、おもったら急にグラリときた。
 やたらと目が乾く!
 ばかりか視界がぐりんぐりん回りだしたもので、ワガハイは「はらほろひれはれ~」
 どうやら情報量の多さに、脳の処理能力の方が耐えきれなかったらしい。あとドライアイ。
 ワガハイは「う~ん」と目を回し、その場にポテンと倒れた。


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