47 / 280
047 カネコ、目を回す。
しおりを挟むたかが一泊二日の研修とはいえ、総勢十二名とカネコ一匹ともなればアレやコレ、それなりに物資がかさむ。
さすがにそのすべてをヒヨッコどもに担がせるのはムリだ。
かといって、わざわざ荷車を用立てるほどの規模でもない。
そこでアイテムボックス持ちのワガハイのところに話が回ってきたという次第である。
……のわりにはこれまで、この手の搬送依頼がなかったのは、ワガハイの徹底した出不精もさることながら、あんまり個人の輸送力に頼るといざという時に困るから。
アイテムボックスはたしかに便利だ。
けど、それに甘えた物流システムはたやすく破綻しかねない。
ようは清掃活動のときと同じこと。
圧倒的能力を有する個人が考えナシに無双すれば、煽りを食って失業する者が続出し、これまで築いてきた諸々までもがダメになってしまう。負の連鎖を招くばかりか、ひいては都市の景気や治安にも響くだろう。
既得権益といえばついつい悪いイメージを抱きがちだけれども、ちゃんと機能している分には有益にて、それで保たれている秩序があり、成り立つ暮らしもある。
転生者が勝手な正義感を振りかざして、チートでひっかき回したとてろくなことにはならない。
ワガハイは大人であるがゆえに、その辺のことをちゃんとわきまえているのだ。
預かっていた荷をポンポン出してから、続けて自分の寝床の確保をする。
ヒヨッコどもは慣れない作業に悪戦苦闘しながらテントを組み立てているけど、ワガハイはちがう。
地魔法で「えいっ」
サクっと土でカマクラを作ってしまう。
今回は場所が草原に囲まれた小高い丘の上ということもあり、カマクラは生えている草も練り込んでの草原バージョン。意図したわけではないが、迷彩柄っぽいのがデキた。
フフン、夜の公園で技術を磨いたワガハイの手にかかれば、この程度は造作もない。
「なんならマネしてもいいにゃんよ」
コツを教えようか? いまなら出血大サービスにて干し肉一枚にて。オマケにワガハイの抜け毛で作った御守りもつけちゃおう。
とのワガハイの申し出に、ヒヨッコどもはそろって首を横に振った。
引率役のおっさんは「あのなぁ」と頭をボリボリ、ちょっと呆れ顔にて「基本的に魔力は温存するもんなんだよ。おまえさんみたいにホイホイ使っていたら、すぐに魔力切れを起こしてぶっ倒れちまう」と言った。
ここのところしょぼい使い方しかしていなかったので、つい忘れていた。
ワガハイってば、とてもデキるハイスペックな超生命体であった。
それこそぶらり立ち寄った城塞都市の領主が、レジメ板からもたらされた個人情報を目にするなり、おもわず天を仰ぎ「オー・マイ・ガッ!」と叫ぶほどに。
なのについ先輩風と天才風をびゅうびゅう吹かせてしまった。
ワガハイは反省しテヘペロにゃん。
〇
みんなが手分けをし、せっせと宿営地の設営をしている。
ワガハイはそうそうにすることが無くなり、すっかり手持ち無沙汰となった。
そこでワガハイは、いまのうちにアレを試してみようと思い立つ。
アレとは採取チートだ。
「くっくっくっ、もはやかつてのワガハイとはちがうのにゃん」
ギルドの資料室にある植物図鑑で、事前に必要な知識は詰め込んできた。
ワガハイの鑑定は情報蓄積タイプなので、知れば知るほどに内容が充実していく。
かつて元の世界でナイスガイだった頃。小中高大の学生時代のみならず、社会人になってからも磨き続けた一夜漬けスキルは伊達じゃない。
もはやポンコツ鑑定とはいわせない。
さらにワガハイにはとっておきの秘策もある。
にゃんにゃんと宿営地から少し離れたところで、ワガハイはカネコアイを発動する。
カネコアイはジト目になればかなり遠方まで見通せる。遠近両用にて暗闇でもバッチリ。やっかいだったカスミ目やスマホ老眼から解き放たれた、いまのワガハイに死角はない。
今回はふだんは閉じている額の目をもカッと開く。
眼光鋭く自動車のヘッドライトのようにペカー、一帯を照らしては同時に鑑定を発動する。
すると……
「おもったとおりだにゃん。これで楽々採取し放題だにゃあ~」
三つの目による視野は大パノラマ。
広大な視界のなかには、まるでFPSゲーム画面のようにいくつものターゲットマーカーが表示されては、パパパと対象を次々ロックオンしていく。
それらはすべて薬草などの採取対象の植物である。
いちいち探さなくても、ざっと見渡すだけでどこに何があるのかひと目で丸わかり。
これぞカネコ流鑑定の進化系!
「うひゃひゃひゃ、もはやワガハイは無敵にゃん。採取王に――ワガハイは、なる!」
と、おもったら急にグラリときた。
やたらと目が乾く!
ばかりか視界がぐりんぐりん回りだしたもので、ワガハイは「はらほろひれはれ~」
どうやら情報量の多さに、脳の処理能力の方が耐えきれなかったらしい。あとドライアイ。
ワガハイは「う~ん」と目を回し、その場にポテンと倒れた。
40
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺は彼女に養われたい
のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。
そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。
ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ!
「ヒモになるのも楽じゃない……!」
果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか?
※他のサイトでも掲載しています。
千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜
星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。
最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。
千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた!
そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……!
7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕!
コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,)
カクヨムにて先行連載中!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる