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046 カネコ、蛇蝎に興味津々。
しおりを挟む年頃の娘さんとの関係にウジウジ悩むおっさんも、ひとたび仕事になればキリリと頼もしい冒険者の顔になる。
さすがはベテラン、切り替えが速い。
あと働くお父さんはカッコいい。
ましてや新人教育を任されるほどに、ギルドから信頼されている人物でもある。
その背中を見せてやれば、たちまち娘さんもお父さんを見直し、奥さんも惚れ直すだろうにとワガハイは思う。
「……というか、どれだけ家でだらしない醜態をさらせば、蛇蝎のごとく娘から嫌われるのかにゃあ?」
そう、たとえば……
お風呂上りに下半身丸出しで、ぷらぷらさせながら、そこいらをぶらぶらするとか。
年頃の娘相手にセクハラまがいのオヤジギャグを連発するとか。
娘の彼氏に「おまえなんぞにうちの娘はやらんぞ!」と頑固オヤジな態度をとったとか。
町で「へい、そこの彼女。いっしょにお茶しない」と誘ったのが、じつは娘と仲がいい友達のお母さんだったとか。
したたかに酔っ払って帰ったところで、「パパおかえり~」と出迎えてくれた愛娘の顔面にゲロって怒涛のナイアガラリバースをかましたとか。
う~んワガハイ、とっても気になります。お髭がひくひく、好奇心の虫がウズウズしちゃう。
こうなるとベテランさんのご家庭を覗いてみたくなってきた。
よし、今回の依頼が終わったら、こっそりおっさんの跡をつけて、どんなものか拝見してやろう。にゃしっしっ。
「休憩は終わりだ。行くぞ!」
引率役のおっさんの号令を受けて、談笑していた若い連中があたふた立ち上がり、置いていたリュックを背負う。
リュックのなかにはギルドから貸し出された野営道具一式と携帯食などが入っているから、けっこう重い。
でも彼らの荷物はこれだけじゃない。
得物に弓を使う者ならば矢筒も担がねばならないし、剣や槍でも砥石や打粉に油などの手入れ道具がいる。刃は手入れを怠ると、とたんに切れ味が悪くなるのだ。万が一、武器が壊れたときの予備も必要だ。
盾役ならば当然ながら大盾がいるし、身に着ける防具も重く頑丈なものとなりがち。自然と歩みが遅くなるのもしょうがない。
魔法を主体に戦う者とて手ぶらとはいかない。
動きにくいローブ姿なんぞはもってのほか。身を守る棍(こん)などを装備している。
こちらの魔法使いは杖よりも、魔法の発動を手助けしてくれ、かつ威力をあげる加工が施された特殊な棍を好んで使用する。
いざという時に接近戦のひとつもこなせず、なおかつろくに走れない魔法使いなんぞは、現場ではクソの役にも立ちはしない。魔力切れを起こした時のために回復ポーションや、魔力を充填している電池代わりの魔晶石を携帯するのも常識だ。
挙句に、帰りには収穫物も持たねばならぬからたいへんだ。
苦労してせっかく大物を仕留めたのに、素材の大部分を泣く泣く置いて帰ったなんてのは、初心者冒険者あるあるの笑い話にて。
荷造りや荷運びにもコツがいる。なので熟練のポーター(荷運び人)を雇っているパーティーもある。冒険者稼業の一番のボトルネックは運搬といっても過言ではない。
闇魔法のアイテムボックスが使えるか、もしくはそれに準ずる収納機能が備わった魔道具の鞄などがあれば、行き帰りがぐっと楽になるのだけれども。
当然ながら魔道具は高価にて、新人たちにはまだまだ手が届かない。いちおうギルドでも貸出をしているけど、実績のない新人にはもちろん貸してもらえない。
稀に親や知り合いが高位の冒険者やお金持ちにて、餞別として譲ってもらえる幸運に恵まれる新人もいるけれど。
ギルド側としてはあまり推奨していない。
分不相応な装備は悪目立ちする。ヘンなのに目をつけられかねない。
いくらレジメ板にて個人情報を管理されているとはいえ、それでも悪いことをするヤツはするのだ。
それに最初の段階で楽をすることを覚えると、あとがキツクなる。
冒険者はタフでなければ生き残れない。
汗をかき、ブーツの底をすり減らし、かつ足の裏の皮を硬くしてナンボの世界。
だからせっかくの成長の機会を奪うのはよくない。
重い荷を担ぎひたすら歩く。
それもまた修行にて。
〇
慣れない行軍と集団行動。
引率役はあくまで引率、一から十までヒヨッコどもの面倒はみてやらない。
やるべきことは各々にやらせる。
当然ながら哨戒任務もやらせる。
周囲への警戒も怠れない。
空が茜色に染まる頃、一行はどうにか目的地である丘陵地帯に到着した。
最初の元気もどこへやら。ヒヨッコどもはみなヘロヘロとなっており、無駄口を叩く余裕もない。
だがのんびり休んでいる暇はない。
すぐに野営の準備をしなければ日が暮れてしまう。
引率役のおっさんにケツを蹴飛ばされて、のろのろと作業に入る新人ども。
それを横目にワガハイは「にゃんにゃん」鼻歌まじりで自前のアイテムボックスから、今回の研修用にと預かっていた荷物をポンポン取り出していく。
ヒヨッコたちはその様子にギョッと目を見張り、なかには恨みがましい目を向けてくる者もいたが、ワガハイはツーンと知らんぷり。
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