40 / 280
040 カネコ、術合戦を受けて立つ。
しおりを挟むキラン――闇に光るみっつの目。
抜き足、差し足、忍び足。
そろりそろりと。
虫たちもしぃんと寝静まった夜更けに、ワガハイはふたたびイモ畑へと舞い戻った。
もちろん畑を荒らす不届き者どもを成敗するためだ。
こそっとカネコイヤーを発動すれば、いるいる。
夜陰に乗じて蠢くグリモグどもが。
カネコアイは暗がりもばっちり。
にゅうと瞳孔を開き凝視すれば、暗闇の奥に浮かびあがる敵影が、ひの、ふの、みぃ……と全部で九つ。
グリモグの大きさや形状は胴長短足にてイヌのコーギーに似ている。
が、似ているのはあくまで全体のフォルムだけ。
まず顔がかわいくない。でっかい鼻があるのだが、そこがドリルになっていた。
ばかりか両前足もドリル、尻尾の先もドリルにて、合計四つものドリルを装備している。それらをギュルギュル回しては、地中を自在に移動しているのだ。
――なぜに尻尾までドリル、飾りかしらん?
と疑問におもうかもしれないが、じつはこの第四のドリルこそが曲者で、地中の穴を進行中にトラブルが発生したらコイツを器用に操って、速やかにバックオーライ、とんずらするというわけ。
モヒカン頭にて全身は五分刈りみたいな黒色の毛に覆われており、一見すると触り心地がよさそうだけれども、一日の仕事終わりの中年オヤジの頭皮のごとくねちょねちょしており、ほんのり臭うらしい。
グリモグたちがイモを物色している。
ヤツらはなんでもかんでも喰い荒らさない。しっかりいいモノを選ぶのだ。
いちばんデキがいいのをちゃっかり盗んでいく。それがまた農家さんにとっては業腹にて。
連中が獲物を吟味するのに夢中になっている隙に、ワガハイはこそっと魔法を発動する。
まずは闇魔法にて黒のベトベトさんを呼び出し、最寄りの穴から地中へと向かわせる。
待つことしばし。配置が完了したとの連絡がきたところで、続けて放ったのは光魔法だ。
ピカーッ!
突如として畑上空にあらわれた閃光が、闇を切り裂く。
光魔法によるモノ、閃光弾もどきだ。ただし、そこはワガハイ印であるがゆえに、まるで地上に落ちた太陽のごとき輝き。
激烈な光の出現にグリモグらは驚きのあまり「キュウ」と目を回す。
しかし倒れたのは三体のみ。残りは異変を察知してすぐさま地中に逃げた。
が、その先に網を張って待ち受けるのは黒のベトベトさんだ。
文字通り、網の形状となり穴を塞いでおり、あたふた逃げてきたグリモグがみずから網に飛び込むという寸法だ。
いわば光と闇魔法による追い込み漁みたいなもの。
これでさらに四体が捕獲された。残りは二。
退路を塞ぐ網の存在に目敏く気づいた二体はすぐさまバックし、あえてまぶしい地上へと躍り出る。
二手に分かれてシュタタタタ、足は短いけれどもかなりの健脚!
「くっ、思い切りがいいにゃん。でも逃がさないのにゃあ」
ワガハイの言葉に呼応するかのようにして、あちらこちらの穴からにゅるにゅるあらわれたのは黒い手たち。地中に潜んでいた黒のベトベトさんだ。
黒い手がグリモグたちへと向かって次々にのびていく。
だが、なかなか捕まえられない。グリモグらは右へ左へとちょこまか動いては追手をかわす、かわす。
「むっ、いかんのにゃ!」
このままでは光が届かないところに逃げ込まれてしまう。
闇にまぎれられたら見失う恐れがある。
だからワガハイは新たに閃光弾を放とうとするも、それより先に黒のベトベトさんが動いた。
掴み取れないと判断し、黒い手が網の形に変化!
次々に向かってくる手をかわしていたところに、いきなり頭上から広げた網が降ってきたもので、さしものグリモグも逃げ切れず。ついに御用となった。これで残りは一体のみ。
この調子ならばじきに捕縛も完了するだろう。ワガハイもホッと安堵しかけたのだが……
バサリっ。
残る一体も網にかかり、ついに捕まえた。
かとおもいきや、いない!?
コロンと転がっていたのは丸まると太ったウマそうなイモのみ。
へっ、変わり身? もしかして空蝉の術! いや、ちがう。よく見れば地面に穴が開いている。ご丁寧なことにすぐには気づけないよう、穴の入り口をイモの葉などでカモフラージュしてある……つまりこれは土遁の術!
ムムム、こやつ――デキる。
黒のベトベトさんの罠には……かかっていない。
ということは、新たに穴を掘って逃走経路を確保しているということ。
ワガハイはすぐさま地面に耳を押しつけ、地中の動向を探るも、カッと目を見開かずにはいられない。
「なんという移動速度だにゃん!」
みるみる遠ざかっていくグリモグ。
このままでは逃げられてしまう。
だからワガハイは、すぐさまヤツが掘った穴へと駆け寄り、大きく深呼吸をしてから――
「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~ん!」
カネコボイス発動。
説明しよう。カネコボイスとは聞く者の耳にキーンと響く、ただの大声である。
いきなり聞かされたらとてもびっくりして、頭がくらくらする。
なお「ごろにゃん」と魅惑のネコ撫で声により対象を魅了する別バージョンもある。
穴の底へと向けて、ワガハイはおもいきり叫んだ。
いかにグリモグの逃げ足が速いとはいえ、空気中を振動で伝わる声には敵わない。
ましてやよく声が響くだけでなく、逃げ場のない穴のなかとあっては……
にゃ~ん。
にゃ~ん。
にゃ~ん。
夜のイモ畑にかわいらしい残響が木霊する。
それに混じって「ぎゃっ」という悲鳴が聞こえてきた。
どうやら仕留めたようで、ワガハイはホッと胸を撫で下ろすも、その次の瞬間のことであった。
ゴツンと後頭部に強い衝撃を受けて「あ痛っ!」
ぐおおお、涙目にて足下を見てみれば転がっていたのは白い果実。
これはゴウサワンなる果樹が投げるモノ。しかしどうしてコレが……
ワガハイが首をかしげていたら、新しいのが飛んできた。
どうやら安眠をさまたげられてゴウサワンはたいそうご立腹のようだ。
でもってゴウサワンの樹は一本だけじゃない。全部で二十八本ある。それらが一斉に投球を開始したものだからたまらない。
「痛い、痛い、やめるのにゃん。どうせ投げるのならば、せめて食べれる赤い実にするのにゃあ~」
次々に飛んでくる白い果実は、堅いし、速いし、重たくて当たるととっても痛い。
ワガハイはイモ畑をキャアキャア逃げ惑うも、うっかりグリモグの穴に足をとられて「あっ」
転んだところに集中砲火を喰らって「あんぎゃー」
カネコの悲痛な叫びがイモ畑に鳴り響く。
40
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。
この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。
最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!!
悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
きゅーびー
ファンタジー
「あぁ、異世界転生したいなぁ、異世界召喚とかトリップでもいいけど…」
いつからだろう、こんな夢物語を本気で願うようになったのは。
いつからだろう、現実と向き合うのをやめたのは。
いつからだろう、現実を味気なく感じたのは。
いつからだろう、リアルで生きていくことに飽きたのは。
働きたくない男が、働かなくてもいい環境に置かれていくお話。
※他サイトでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる