寄宿生物カネコ!

月芝

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040 カネコ、術合戦を受けて立つ。

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 キラン――闇に光るみっつの目。

 抜き足、差し足、忍び足。
 そろりそろりと。
 虫たちもしぃんと寝静まった夜更けに、ワガハイはふたたびイモ畑へと舞い戻った。
 もちろん畑を荒らす不届き者どもを成敗するためだ。

 こそっとカネコイヤーを発動すれば、いるいる。
 夜陰に乗じて蠢くグリモグどもが。
 カネコアイは暗がりもばっちり。
 にゅうと瞳孔を開き凝視すれば、暗闇の奥に浮かびあがる敵影が、ひの、ふの、みぃ……と全部で九つ。

 グリモグの大きさや形状は胴長短足にてイヌのコーギーに似ている。
 が、似ているのはあくまで全体のフォルムだけ。
 まず顔がかわいくない。でっかい鼻があるのだが、そこがドリルになっていた。
 ばかりか両前足もドリル、尻尾の先もドリルにて、合計四つものドリルを装備している。それらをギュルギュル回しては、地中を自在に移動しているのだ。

 ――なぜに尻尾までドリル、飾りかしらん?

 と疑問におもうかもしれないが、じつはこの第四のドリルこそが曲者で、地中の穴を進行中にトラブルが発生したらコイツを器用に操って、速やかにバックオーライ、とんずらするというわけ。
 モヒカン頭にて全身は五分刈りみたいな黒色の毛に覆われており、一見すると触り心地がよさそうだけれども、一日の仕事終わりの中年オヤジの頭皮のごとくねちょねちょしており、ほんのり臭うらしい。

 グリモグたちがイモを物色している。
 ヤツらはなんでもかんでも喰い荒らさない。しっかりいいモノを選ぶのだ。
 いちばんデキがいいのをちゃっかり盗んでいく。それがまた農家さんにとっては業腹にて。
 連中が獲物を吟味するのに夢中になっている隙に、ワガハイはこそっと魔法を発動する。
 まずは闇魔法にて黒のベトベトさんを呼び出し、最寄りの穴から地中へと向かわせる。
 待つことしばし。配置が完了したとの連絡がきたところで、続けて放ったのは光魔法だ。

 ピカーッ!

 突如として畑上空にあらわれた閃光が、闇を切り裂く。
 光魔法によるモノ、閃光弾もどきだ。ただし、そこはワガハイ印であるがゆえに、まるで地上に落ちた太陽のごとき輝き。
 激烈な光の出現にグリモグらは驚きのあまり「キュウ」と目を回す。
 しかし倒れたのは三体のみ。残りは異変を察知してすぐさま地中に逃げた。
 が、その先に網を張って待ち受けるのは黒のベトベトさんだ。
 文字通り、網の形状となり穴を塞いでおり、あたふた逃げてきたグリモグがみずから網に飛び込むという寸法だ。
 いわば光と闇魔法による追い込み漁みたいなもの。
 これでさらに四体が捕獲された。残りは二。

 退路を塞ぐ網の存在に目敏く気づいた二体はすぐさまバックし、あえてまぶしい地上へと躍り出る。
 二手に分かれてシュタタタタ、足は短いけれどもかなりの健脚!

「くっ、思い切りがいいにゃん。でも逃がさないのにゃあ」

 ワガハイの言葉に呼応するかのようにして、あちらこちらの穴からにゅるにゅるあらわれたのは黒い手たち。地中に潜んでいた黒のベトベトさんだ。
 黒い手がグリモグたちへと向かって次々にのびていく。
 だが、なかなか捕まえられない。グリモグらは右へ左へとちょこまか動いては追手をかわす、かわす。

「むっ、いかんのにゃ!」

 このままでは光が届かないところに逃げ込まれてしまう。
 闇にまぎれられたら見失う恐れがある。
 だからワガハイは新たに閃光弾を放とうとするも、それより先に黒のベトベトさんが動いた。
 掴み取れないと判断し、黒い手が網の形に変化!
 次々に向かってくる手をかわしていたところに、いきなり頭上から広げた網が降ってきたもので、さしものグリモグも逃げ切れず。ついに御用となった。これで残りは一体のみ。
 この調子ならばじきに捕縛も完了するだろう。ワガハイもホッと安堵しかけたのだが……

 バサリっ。

 残る一体も網にかかり、ついに捕まえた。
 かとおもいきや、いない!?
 コロンと転がっていたのは丸まると太ったウマそうなイモのみ。
 へっ、変わり身? もしかして空蝉の術! いや、ちがう。よく見れば地面に穴が開いている。ご丁寧なことにすぐには気づけないよう、穴の入り口をイモの葉などでカモフラージュしてある……つまりこれは土遁の術!

 ムムム、こやつ――デキる。
 黒のベトベトさんの罠には……かかっていない。
 ということは、新たに穴を掘って逃走経路を確保しているということ。
 ワガハイはすぐさま地面に耳を押しつけ、地中の動向を探るも、カッと目を見開かずにはいられない。

「なんという移動速度だにゃん!」

 みるみる遠ざかっていくグリモグ。
 このままでは逃げられてしまう。
 だからワガハイは、すぐさまヤツが掘った穴へと駆け寄り、大きく深呼吸をしてから――

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~ん!」

 カネコボイス発動。
 説明しよう。カネコボイスとは聞く者の耳にキーンと響く、ただの大声である。
 いきなり聞かされたらとてもびっくりして、頭がくらくらする。
 なお「ごろにゃん」と魅惑のネコ撫で声により対象を魅了する別バージョンもある。

 穴の底へと向けて、ワガハイはおもいきり叫んだ。
 いかにグリモグの逃げ足が速いとはいえ、空気中を振動で伝わる声には敵わない。
 ましてやよく声が響くだけでなく、逃げ場のない穴のなかとあっては……

 にゃ~ん。
  にゃ~ん。
   にゃ~ん。

 夜のイモ畑にかわいらしい残響が木霊する。
 それに混じって「ぎゃっ」という悲鳴が聞こえてきた。
 どうやら仕留めたようで、ワガハイはホッと胸を撫で下ろすも、その次の瞬間のことであった。

 ゴツンと後頭部に強い衝撃を受けて「あ痛っ!」

 ぐおおお、涙目にて足下を見てみれば転がっていたのは白い果実。
 これはゴウサワンなる果樹が投げるモノ。しかしどうしてコレが……
 ワガハイが首をかしげていたら、新しいのが飛んできた。
 どうやら安眠をさまたげられてゴウサワンはたいそうご立腹のようだ。
 でもってゴウサワンの樹は一本だけじゃない。全部で二十八本ある。それらが一斉に投球を開始したものだからたまらない。

「痛い、痛い、やめるのにゃん。どうせ投げるのならば、せめて食べれる赤い実にするのにゃあ~」

 次々に飛んでくる白い果実は、堅いし、速いし、重たくて当たるととっても痛い。
 ワガハイはイモ畑をキャアキャア逃げ惑うも、うっかりグリモグの穴に足をとられて「あっ」

 転んだところに集中砲火を喰らって「あんぎゃー」
 カネコの悲痛な叫びがイモ畑に鳴り響く。


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