寄宿生物カネコ!

月芝

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037 カネコ、畑でびっくりする。

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 今後、清掃の指名依頼は控える。
 ちゃんと事情を説明したら冒険者ギルド側もわかってくれた。
 だって仕事に育児にとがんばっているシングルマザーたちの亡夫って、大半が冒険者だったんだもの。
 一攫千金を夢見て辺境の城塞都市トライミングまでやってきた冒険野郎ども。
 いわば仲間が残した家族たちに迷惑がかかるとあっては、さすがに冒険者ギルド側もうなづくしかなかった。

 商業ギルドでの話し合いのあと。
 ワガハイじつはギルド長から「あんた気に入ったぜ! もしよかったらうちに来ないか? 好きなだけゴロゴロしてくれてかまわねえぞ」と誘われたので、さっそくお邪魔したのだけれども……

 ひと晩でお暇した。

 なぜなら、ちっとも心が休まらないから!
 商業ギルド長の家ってば立派な大豪邸なんだけど、まんまヤ〇ザの邸宅なんだもの。
 ものものしい警備体制、目つきの鋭い連中が邸内をうろついては目を光らせており、空気がつねに張り詰めている。ときおり漏れ伝わってくる会話の内容は、とてもじゃないけど言えやしないよっ!

「というわけで、何かワガハイ向きの手頃な依頼はないかにゃあ」

 今日も今日とて、ワガハイは冒険者ギルドに顔を出し、馴染みの受付のおっさんに声をかけている。

「そうだなぁ……だったら、コレなんかはどうだ? 近場だし、出不精のおまえさんにはピッタリだろう」

 紹介された依頼は畑の害獣駆除。
 城塞都市内には農業区画があり、いざともなれば年単位で籠城できるよう食料が備蓄されている。
 畑は都市の生命線。これを荒らされることは死活問題となる。
 でも、それは裏を返せばきちんと依頼をこなせばみんなに感謝されるということ。
 こういう地味な草の根活動こそが、のちのマスコットキャラ化計画に活きてくるはず。
 だからワガハイはこの依頼を受けることにした。

  〇

 畑に行ってみて、ワガハイはたいそう驚いた。
 何がって、まず大根がすたこら走ってる。
 あと「いや~ん」と艶めかしい声も発していたから。

 ちょこまか逃げ回っては農家さんを困らせていたのは、モンゲエという野菜。
 煮ると味がしゅんでウマい。サラダにすればシャキシャキ、すりおろせば辛味が出ていい薬味になり、絞り汁は二日酔いに効くばかりかお通じにもいい。
 もとは植物系の魔獣だったのを品種改良したもので、荒れ地や寒冷地でもすくすく育つのはいいけれど、抜くたびに「ウッフ~ン」「アハ~ン」と桃色吐息をこぼしては、「ほら、坊や、はやく私をつかまえてごらんなさい。ウフフ」とばかりに逃げて、初心(うぶ)な農家の若人らの心を掻き乱す。みんな前屈みになってしまい作業になりゃしない。

 かとおもえば別の方では、奇妙な採取風景が見られた。
 棍棒を握り構える者と、白い果実を大きく振りかぶっているのは……樹?
 バッティングセンターさながらに対峙しているのは、農家の若者と生えている果樹である。
 果樹の名はゴウサワン。
 これまた植物系の魔獣を品種改良したもので、赤いリンゴみたいな実をつける。
 ほどよい酸味と甘さは初恋の味。そのままでも美味しいけれども、料理にお菓子にとアレンジ自在にて、人気の果実だ。
 ただし、手に入れるためにはゴウサワンとバッティング勝負をする必要がある。
 ゴウサワンが投げる勝負用の白い果実をかっとばせば、ご褒美としてじゃんじゃんばらばら、でも負けたら残念賞で三個だけ。
 なおズルをして強引に採取しようとしたら、実の味が格段に落ちて、しばらくスネて収穫がゼロになる。
 ちなみにゴウサワンは直球勝負を信条としている。

 片や猥らな追いかけっこ。
 片や熱血なスポコン勝負。

 想像していた農作業風景と全然ちがう!
 奇天烈な光景に、ワガハイは「にゃんだこりゃ」


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