寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
36 / 254

036 カネコ、将来への布石を打つ。

しおりを挟む
 
 商業ギルド側からの要請を受けて、今後ワガハイは清掃依頼は控えることにした。
 さすがに自分のせいで、真っ当に生きてきた女性たちが不幸になるのは看過できない。その子どもたちから「おまえのせいで、うちの母さんが……」と憎しみの眼差しなんぞを向けられたら、ワガハイのシャイなハートは悲鳴をあげるだろう。
 野郎どもは――まぁけっぱれ、たくましく生きろ。
 というわけで……

「こちらは謹んでお返しするのにゃあ」

 ワガハイは小判を一枚だけ抜き取って、残りの山吹色のお菓子は返却した。
 その代わりにこのお金を使って、今回の騒動で職を失った連中になにか救済処置をして欲しいとお願いする。
 たんにお金をばら撒くのではなくて、たとえば仕事を創って雇うみたいな感じで。

「いいのか?」と商業ギルド長。
「べつにかまわないのにゃあ」ワガハイは肩をすくめた。

「どうせ予定になかった稼ぎだし。ワガハイ……これでも寄宿生物としての誇りを胸に生きているから、基本的にお金はあまり使わないのにゃあ。
 それにこれはおおいなる野望を叶えるための先行投資みたいなものにゃあ」

 くくく、そうなのである。
 ゆくゆくは城塞都市トライミングにて公式マスコットキャラに認定されて、愛されキャラとして住人たちからちやほやされ、こぞって世話を焼かれる生活を手に入れるための。
 じつは今回の会合の途中で、ワガハイはふと閃いた。
 個人宅に寄宿してゴロゴロするのも悪くないけど、それだけではいささかスケールが小さい。ワガハイほどのビッグな男ならば、いっそのこと都市そのものに寄宿するというのもアリなのではなかろうか? そうしたら寄宿先なんぞは選び放題。その日の気分であっちでゴロゴロ、こっちでダラダラ。
 あぁ、素晴らしきかな異世界スローライフ。

「おっ、そうだにゃん! ついでにコレもそっちでどうにかできないかにゃあ?」

 ワガハイがスチャっと取り出したのは赤い鱗。
 ずっとアイテムボックスに死蔵していたモノ。ドラゴンっぽいやつの鱗だ。
 ちなみにドラゴンっぽいやつの正式名称はドゥラーケンというそうな。狂暴な空の魔獣で、もしも襲われたらちんけな町なんぞは一発で壊滅するらしい。でもその体は良素材の宝庫にて、頭の天辺から足の先まで捨てるところがない、かつ討伐困難で希少だから高値で取引されているという。
 冒険者ギルドの資料室にある図鑑にそう書いてあった。

 ならばどうしていままで冒険者ギルドで売却しなかったのかといえば、たんに忘れていただけである。
 いや~、ワガハイのアイテムボックスってば何でもポンポン収納してくれるけど、整理整頓は自分でせねばならないのだ。これがとにかくめんどうくさい。なまじ容量が大きいのが仇となったという次第。

 片メガネを装着した副ギルド長が、手にした赤い鱗をしげしげ眺めては「……本物ですね。それも極めて上質だ。傷がないこともさることながら、たったいま剥ぎ取ったかのようなみずみずしさがある。魔力もしっかり定着している。じつに素晴らしい」とうっとりしながら絶賛した。

 当然だ。カネコビームで瞬殺して、すぐにアイテムボックスに放り込んだので鮮度抜群。
 またそんな状態で放置していたおかげで、熟成されて上物になっているっぽい。
 これはうれしい誤算である。
 なお副ギルド長がかけている片メガネ、鑑定できる魔道具なんだと。
 ワガハイのポンコツな鑑定能力とはちがい、かなり優秀なようでうらやましい。
 ちなみにワガハイの鑑定はもっぱら屋台の食べ歩きで活躍しており、ほぼほぼB級グルメガイドと化しつつある。

「おいおい、これの売却益も穴うめ事業に当てろってか……。うちとしてはありがたい話だが本当にいいのか? 冒険者ギルドの方でさばけば評価されて、たちまち上位冒険者の仲間入りだぞ。そうなりゃあ、放っておいてもおいしい話が向こうからいくらでも転がりこんでくるだろうに」

 もったいないと商業ギルド長は言う。
 だがワガハイは首を横にふるふる。

「そうかもしれにゃい。けど、きっと同じぐらいやっかいごとも押し寄せるのにゃあ」
「あ~、たしかに」
「お金は好きにゃんけど、あくせく働くのはちょっとちがうのにゃあ。カネコの辞書に勤労の文字はにゃい。いらぬ気苦労もごめんだにゃあ。
 ワガハイの願いは心安らかに、他人様の厚意に甘えて適当に喰っちゃ寝してぼんやり暮らすことだにゃ。
 というわけで、くれぐれもブツの出処がバレないように上手く処理して欲しいのにゃあ」

 もしもワガハイが持ち込んだとバレたら、うるさい羽虫どもがたかってくる。
 冒険者ギルドもやいのやいのうるさいだろう。ドゥラーケンの討伐依頼とかされても困るし、大森林の深層まで遠出するとかダル過ぎる。
 商業ギルドとしては珍しい商材が手に入り、かつ補填事業の資金が得られ、社会貢献にもなる。
 ワガハイは心身の平穏を確保し、邪魔な荷物が片付き、今後とも裏でブツをさばくルートが確立され、なおかつ将来への布石を打つ。
 今回の件で仕事にあぶれたシングルマザーたちも大助かり。
 ウィンウィンでみんな幸せ。
 ワガハイと商業ギルド長はにへらと笑いながら、がっちり固い握手を交わした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...