寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
35 / 254

035 カネコ、おおいに反省する。

しおりを挟む
 
 商業ギルド側からの相談という体(てい)のお願い事。
 それはワガハイの業務について。

「もう少し、控えてくれるとありがたい。できれば個人宅のみで、大きい屋敷や商店の仕事とかは断って欲しい」とのこと。

 冒険者ギルドに依頼を出せば、安い料金でパパっと掃除してくれるから、お客たちは大喜び。
 が、その裏ではいろいろと問題が起きていた。

 まず、元から清掃を生業としている者たちは商売あがったりである。
 複数人にて何日も時間をかけていた屋敷の掃除を、たったひとりで短時間でやられたのではたまったものじゃない。しかも方法はデタラメなのに仕上げはバッチリときている。これでは勝負にすらなりゃしない。

 他にもお屋敷などに勤めている使用人たちにも影響が出ていた。
 なにせワガハイがいれば、大勢を雇用しておく必要がないのだ。必要なときにだけ呼べばいい。
 お金持ちの中にはしみったれなヤツもいる。人件費削除の名目で、ばっさり人員をカットするところもあらわれだしたんだとか。
 しかも雇用人数で税金が増減するそうで、税金対策としてリストラを敢行するところまで。

 ついには役所の環境課の者までもが「アレに下水道の掃除をさせたら、予算が大幅削減できるんじゃね?」とか言い出す始末。
 たしかにその通りだ。
 だがその結果、いきなり職を失い路頭に迷う者が増えている。

「おまえさんには関係のないこと。知ったこっちゃないと言えばそれまで――だがなぁ」

 商業ギルド長はもの憂げに己のアゴをさする。
 住み込みで働いていた者のなかには、幼子を抱えたシングルマザーも多い。
 それがこれまでやってきた自分の仕事を否定されたばかりか、いきなり家を失い寒空の下に放り出されるのだ。
 しかも次の仕事を探そうにも、どこにも働き口がないどころか自分と同じように職を失い路頭に迷っている者があふれている。

「そんな者たちは町に住み続けられず、壁の外へ行くしかない」

 副ギルド長は淡々と告げた。
 壁の外とは、あの城壁沿いや門前にあったテント群のこと。
 たしかにあそこならば税金がかからないし、物価も安いから壁の内側よりもずっと楽に暮らせる。
 ただし、安全は保障されない。
 治安だってそうだ。トラブルに巻き込まれる確率は格段にあがる。
 いちおう自警団は組織されているものの、町ほど目は行き届かない。取り締まりだって徹底していない。あそこでは基本的にすべて自己責任だ。己の身は己で守るしかない。
 そんな場所に寡婦が向かえば、きっとロクなことにならない。
 憐れなるかな、あとはお定まりの転落コースを辿ることになるだろう。

  〇

 商業ギルド長と副ギルド長のお話に、ワガハイはしゅんとする。三本ある尻尾も髭もへにょんとなった。
 よもや、自分の行動がそこまで世間に影響を及ぼしていたとは夢にも思わなかった。
 マジメに掃除をしていただけなのに……
 さすがはワガハイである。いかに慎ましやかに生きようとも、隠しきれないカリスマ性とあふれるインフルエンス。
 が、それはともかく、ここはおおいに反省すべきであろう。
 ゆくゆくは都市のマスコットキャラ化をも視野に入れているワガハイにとって、これはゆゆしき問題でもあった。

 ――女子どもから憎まれて、なんのマスコットキャラか!

 そりゃあ元の世界にもごくごく稀に、登場するなり子どもたちからギャン泣きされるゆるキャラとかいたけれど、ワガハイの目指すところはそこではない。
 町を歩けば、子どもたちがわいわい騒いでは駆け寄り、カルガモのヒナのように列をなしついてくる。
 沿道からは「あら、ワガハイさまのお通りよ。あいかわらずダンディだわ。なんて素敵なのかしらん」との黄色い声援に花吹雪が舞い、男たちは「なんて逞しいんだ。自分もいずれはワガハイのようになりたいものだ」と羨望の眼差しを向け、老人たちは「ありがたや、ありがたや」と手を合わせてナムナム拝む。
 そんななかでワガハイはみなに手を振りこう言うのだ。

「みんな、仲ようせなあかんよ。あと生レバーには気をつけなはれや」

 そんな将来設計に確実に響くであろう、今回のクレームもとい忠告。
 ワガハイは「わかったにゃん。これからは気をつけるのにゃあ。めちゃくちゃ手を抜くにゃん」と了承した。

「ところで商業ギルドのマスコットキャラとして、カネコはどうかにゃん? いまなら商標権をお安くしとくにゃあ。取り分はロクヨンでいいにゃんよ」

 すると商業ギルド長が懐から取り出したのは、手の平サイズのヌイグルミ。

「あいにくとうちにはもう、この『ツバッキーくん』がいる」

 それはツバメっぽいトリをモチーフにした、某球団マスコットのアレにちょっと似ていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

処理中です...