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035 カネコ、おおいに反省する。
しおりを挟む商業ギルド側からの相談という体(てい)のお願い事。
それはワガハイの業務について。
「もう少し、控えてくれるとありがたい。できれば個人宅のみで、大きい屋敷や商店の仕事とかは断って欲しい」とのこと。
冒険者ギルドに依頼を出せば、安い料金でパパっと掃除してくれるから、お客たちは大喜び。
が、その裏ではいろいろと問題が起きていた。
まず、元から清掃を生業としている者たちは商売あがったりである。
複数人にて何日も時間をかけていた屋敷の掃除を、たったひとりで短時間でやられたのではたまったものじゃない。しかも方法はデタラメなのに仕上げはバッチリときている。これでは勝負にすらなりゃしない。
他にもお屋敷などに勤めている使用人たちにも影響が出ていた。
なにせワガハイがいれば、大勢を雇用しておく必要がないのだ。必要なときにだけ呼べばいい。
お金持ちの中にはしみったれなヤツもいる。人件費削除の名目で、ばっさり人員をカットするところもあらわれだしたんだとか。
しかも雇用人数で税金が増減するそうで、税金対策としてリストラを敢行するところまで。
ついには役所の環境課の者までもが「アレに下水道の掃除をさせたら、予算が大幅削減できるんじゃね?」とか言い出す始末。
たしかにその通りだ。
だがその結果、いきなり職を失い路頭に迷う者が増えている。
「おまえさんには関係のないこと。知ったこっちゃないと言えばそれまで――だがなぁ」
商業ギルド長はもの憂げに己のアゴをさする。
住み込みで働いていた者のなかには、幼子を抱えたシングルマザーも多い。
それがこれまでやってきた自分の仕事を否定されたばかりか、いきなり家を失い寒空の下に放り出されるのだ。
しかも次の仕事を探そうにも、どこにも働き口がないどころか自分と同じように職を失い路頭に迷っている者があふれている。
「そんな者たちは町に住み続けられず、壁の外へ行くしかない」
副ギルド長は淡々と告げた。
壁の外とは、あの城壁沿いや門前にあったテント群のこと。
たしかにあそこならば税金がかからないし、物価も安いから壁の内側よりもずっと楽に暮らせる。
ただし、安全は保障されない。
治安だってそうだ。トラブルに巻き込まれる確率は格段にあがる。
いちおう自警団は組織されているものの、町ほど目は行き届かない。取り締まりだって徹底していない。あそこでは基本的にすべて自己責任だ。己の身は己で守るしかない。
そんな場所に寡婦が向かえば、きっとロクなことにならない。
憐れなるかな、あとはお定まりの転落コースを辿ることになるだろう。
〇
商業ギルド長と副ギルド長のお話に、ワガハイはしゅんとする。三本ある尻尾も髭もへにょんとなった。
よもや、自分の行動がそこまで世間に影響を及ぼしていたとは夢にも思わなかった。
マジメに掃除をしていただけなのに……
さすがはワガハイである。いかに慎ましやかに生きようとも、隠しきれないカリスマ性とあふれるインフルエンス。
が、それはともかく、ここはおおいに反省すべきであろう。
ゆくゆくは都市のマスコットキャラ化をも視野に入れているワガハイにとって、これはゆゆしき問題でもあった。
――女子どもから憎まれて、なんのマスコットキャラか!
そりゃあ元の世界にもごくごく稀に、登場するなり子どもたちからギャン泣きされるゆるキャラとかいたけれど、ワガハイの目指すところはそこではない。
町を歩けば、子どもたちがわいわい騒いでは駆け寄り、カルガモのヒナのように列をなしついてくる。
沿道からは「あら、ワガハイさまのお通りよ。あいかわらずダンディだわ。なんて素敵なのかしらん」との黄色い声援に花吹雪が舞い、男たちは「なんて逞しいんだ。自分もいずれはワガハイのようになりたいものだ」と羨望の眼差しを向け、老人たちは「ありがたや、ありがたや」と手を合わせてナムナム拝む。
そんななかでワガハイはみなに手を振りこう言うのだ。
「みんな、仲ようせなあかんよ。あと生レバーには気をつけなはれや」
そんな将来設計に確実に響くであろう、今回のクレームもとい忠告。
ワガハイは「わかったにゃん。これからは気をつけるのにゃあ。めちゃくちゃ手を抜くにゃん」と了承した。
「ところで商業ギルドのマスコットキャラとして、カネコはどうかにゃん? いまなら商標権をお安くしとくにゃあ。取り分はロクヨンでいいにゃんよ」
すると商業ギルド長が懐から取り出したのは、手の平サイズのヌイグルミ。
「あいにくとうちにはもう、この『ツバッキーくん』がいる」
それはツバメっぽいトリをモチーフにした、某球団マスコットのアレにちょっと似ていた。
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