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033 カネコ、スカウトに声をかけられる。
しおりを挟む商業ギルドからお手紙で呼び出された。
だがちょうどよかった。
こっちもリッチーの件で文句を言いたかったので。
とはいえ済んだことだし、べつにいまさら報酬の上乗せなんぞを要求するつもりはない。
代わりに、商業ギルドご自慢の美人な受付嬢とやらの姿をとくと拝んでやろう。もしかしたら美人秘書もいるかもしれない。そしてきっと上等なお茶と菓子でもてなされるはずだから、ここぞとばかりにおかわりしてやろうとも。あるいはわざと食事時を狙って押しかけるのもアリか。
とおもったら、しっかり時間指定がされていた。
ちゃんとメシ時をはずしていやがる……ちぇっ。
◇
商業ギルドは都市の北エリア、二層目と三層目の境にあった。
一帯には倉庫が建ち並んでおり生活感は皆無。雰囲気としては港湾区域の臨港地区っぽいかも。
通りの幅は町中よりもずっと広めにとられており、路面もカチンコチンに固められている。そこを荷車がガラゴロガラゴロ、車輪を回しては忙しなく行き交っていた。
集う人たちも商業や物流にかかわる者たちばかりなのだろう。一般人とはまとっている空気がちがう。なんとなくみんな目がギラギラしている。飛び交う言葉までもが早口でちょっと忙しない。
一般客はお断りであろう問屋も軒を連ね、奥には商品がうず高く積まれており、軒先では商人同士がツバを飛ばしながら、丁々発止をくり広げている。
ここには町中とは明らかに異なる時の流れがあり、熱があり、欲がうごうご、独特の焦燥と喧騒が満ち充ちていた。
「う~ん、我ながら場ちがい感が半端ないにゃあ」
そんな場所をアムールトラばりの大きさのカネコが、のしのし歩く。
ワガハイは物珍しさにキョロキョロしていた。
すると背後から「オラオラ、どいたどいた!」との威勢のいい声がして、走ってきたのは荷車を牽く野郎ども。まるで祭りのだんじりのごとく「えっさ、ほいさ」と複数で牽引しては、猛烈な勢いで駆けてくる。
驚いたワガハイはあわてて道の脇へと避けて、これをやり過ごす。
野郎車はあっという間に目の前を通り過ぎ、舞った砂埃にワガハイは「けほけほ」咳き込む。
かとおもえば、続いて「どけどけ! ボケっとしていたら撥ねちまうぞ」との声がした。
見れば今度は向こうから四頭立ての馬車が近づいて来るではないか!
ここには歩行者優先なんていう甘いルールはないようで、「そこのけそこのけ」とばかりに突っ込んで来る。
ワガハイは「うひゃあ」と道端にへばりつき、これもどうにかやり過ごした。
けどちょっと逃げ遅れたせいで、軽く擦って毛をジョリっとむしられた。
なのに相手はさっさと行ってしまった。
当て逃げである。
ワガハイが「訴えてやるにゃー」と怒っていたら、そこに近づいてくる者がいた。
怪しげな覆面姿の男。
何かとおもえば、その怪しげな男はこう言った。
「ちょいとそこのたくましいお兄さん、あんただよ、あんた。ずいぶんとめずらしい種族みたいだねえ。もしよかったらうちと契約しないかい?」
「ほへ、契約? にゃんのにゃ?」
「なぁに、ムズカシイことじゃない。死んだら剥製にしたいから、骸の譲渡契約さ。いや~、あんた珍しいから、きっと好事家が高値で買ってくれるとおもうんだよねえ。
永遠の美をあなたに――ってね。どうだい? 契約金ははずむよ。
なぁにどうせみんないつかはくたばるんだ。
だったら生きている間にパーッと楽しんだ方がいいだろう」
「――っ!」
とんだスカウトがあったものである。
ワガハイは「冗談じゃないのにゃあ。そんなのまっぴらごめんだにゃ」と首をフルフル、すぐに逃げ出した。
「おーい、もしも気がかわったらいつでも気軽に声をかけておくれよ~。だいたいこの辺りにいるから~」
背後から聞こえてくる悪魔の誘惑に、ワガハイは耳をへにょりと伏せた。
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