33 / 254
033 カネコ、スカウトに声をかけられる。
しおりを挟む商業ギルドからお手紙で呼び出された。
だがちょうどよかった。
こっちもリッチーの件で文句を言いたかったので。
とはいえ済んだことだし、べつにいまさら報酬の上乗せなんぞを要求するつもりはない。
代わりに、商業ギルドご自慢の美人な受付嬢とやらの姿をとくと拝んでやろう。もしかしたら美人秘書もいるかもしれない。そしてきっと上等なお茶と菓子でもてなされるはずだから、ここぞとばかりにおかわりしてやろうとも。あるいはわざと食事時を狙って押しかけるのもアリか。
とおもったら、しっかり時間指定がされていた。
ちゃんとメシ時をはずしていやがる……ちぇっ。
◇
商業ギルドは都市の北エリア、二層目と三層目の境にあった。
一帯には倉庫が建ち並んでおり生活感は皆無。雰囲気としては港湾区域の臨港地区っぽいかも。
通りの幅は町中よりもずっと広めにとられており、路面もカチンコチンに固められている。そこを荷車がガラゴロガラゴロ、車輪を回しては忙しなく行き交っていた。
集う人たちも商業や物流にかかわる者たちばかりなのだろう。一般人とはまとっている空気がちがう。なんとなくみんな目がギラギラしている。飛び交う言葉までもが早口でちょっと忙しない。
一般客はお断りであろう問屋も軒を連ね、奥には商品がうず高く積まれており、軒先では商人同士がツバを飛ばしながら、丁々発止をくり広げている。
ここには町中とは明らかに異なる時の流れがあり、熱があり、欲がうごうご、独特の焦燥と喧騒が満ち充ちていた。
「う~ん、我ながら場ちがい感が半端ないにゃあ」
そんな場所をアムールトラばりの大きさのカネコが、のしのし歩く。
ワガハイは物珍しさにキョロキョロしていた。
すると背後から「オラオラ、どいたどいた!」との威勢のいい声がして、走ってきたのは荷車を牽く野郎ども。まるで祭りのだんじりのごとく「えっさ、ほいさ」と複数で牽引しては、猛烈な勢いで駆けてくる。
驚いたワガハイはあわてて道の脇へと避けて、これをやり過ごす。
野郎車はあっという間に目の前を通り過ぎ、舞った砂埃にワガハイは「けほけほ」咳き込む。
かとおもえば、続いて「どけどけ! ボケっとしていたら撥ねちまうぞ」との声がした。
見れば今度は向こうから四頭立ての馬車が近づいて来るではないか!
ここには歩行者優先なんていう甘いルールはないようで、「そこのけそこのけ」とばかりに突っ込んで来る。
ワガハイは「うひゃあ」と道端にへばりつき、これもどうにかやり過ごした。
けどちょっと逃げ遅れたせいで、軽く擦って毛をジョリっとむしられた。
なのに相手はさっさと行ってしまった。
当て逃げである。
ワガハイが「訴えてやるにゃー」と怒っていたら、そこに近づいてくる者がいた。
怪しげな覆面姿の男。
何かとおもえば、その怪しげな男はこう言った。
「ちょいとそこのたくましいお兄さん、あんただよ、あんた。ずいぶんとめずらしい種族みたいだねえ。もしよかったらうちと契約しないかい?」
「ほへ、契約? にゃんのにゃ?」
「なぁに、ムズカシイことじゃない。死んだら剥製にしたいから、骸の譲渡契約さ。いや~、あんた珍しいから、きっと好事家が高値で買ってくれるとおもうんだよねえ。
永遠の美をあなたに――ってね。どうだい? 契約金ははずむよ。
なぁにどうせみんないつかはくたばるんだ。
だったら生きている間にパーッと楽しんだ方がいいだろう」
「――っ!」
とんだスカウトがあったものである。
ワガハイは「冗談じゃないのにゃあ。そんなのまっぴらごめんだにゃ」と首をフルフル、すぐに逃げ出した。
「おーい、もしも気がかわったらいつでも気軽に声をかけておくれよ~。だいたいこの辺りにいるから~」
背後から聞こえてくる悪魔の誘惑に、ワガハイは耳をへにょりと伏せた。
41
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる