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030 カネコ、さらにあることに気がつく。
しおりを挟むワガハイがうごうごしている間にも、ギルドに人が増えていく。
はやくもウワサを聞きつけて、冒険者たちが続々と駆けつけているのだ。
討伐隊が編成されるほどの大仕事となれば、危険もあるが実入りもデカい。
また都市に迫る脅威と判断されれば役所も動く。
そうなれば領主からの指名依頼になるので、報酬がさらにドドンと増える。活躍すれば注目されて、えらい人らの目にも留まり貴族とのコネもできちゃうかも。
冒険者にとっては、まさにチャンス到来というわけだ。
いまワガハイは邪魔にならないように壁際に控えている。
さりとて耳はピコピコ。
カネコイヤーを発動し情報を収集中。
すると聞こえてきたのは……
「そいつが出没したのって、第三層の真ん中らしい」
「ヘンな音がしたとおもったら、森の奥から突然飛び出してきたそうな」
「なんでも、もの凄い勢いで走るんだとか」
「全身血塗れだったらしいぞ」
「まるで赤い流星のようだったそうな」
「問答無用で蹴散らすらしい」
「えっ、撥ね飛ばすんじゃなかったか」
「いやいや、ぐちゃりとすり潰すんだって」
「ヤツが通ったあとは、死屍累々だったとか」
「それどころか木々をも薙ぎ倒して、森に道がデキていたらしい」
「はぁ? あの森のごつい樹をバキバキへし折ったってのかよ。なんつうバカ力だ」
「だが本当にヤバいのはそこじゃないぞ。そいつは殺した獲物には目もくれずに、あっという間に立ち去ったというんだ」
「えぇーっ! マジかよ、もったいねえ」
「だろう? ふつうは肉を食うなり、魔晶石をかじるなりするのに」
「……まるで『この程度のザコども、食う価値もない』とでも言わんばかりだな」
「それは恐ろしいな。そいつにとっては第三層の辺りをうろつく魔獣は、食料にもならないということか」
「世界三大極地のひとつ、メテオリト大森林の第三層に生息する魔獣たちが、ザコ扱いか……そいつはたしかにヤバいな」
「ヤバいのはそれだけじゃねえぞ。食べる気もないのに、気まぐれで殺して回ることの方がヤベーだろう」
「いったいどんなヤツなんだろうなぁ」
「オレが聞いた話だと、そいつは『キュイーン』とか『ブロロン』とか奇妙な鳴き声をしていたそうな」
「大きさはさほどでもないらしいが……」
「俺は固い甲羅みたいなのに覆われていたって聞いたけど」
「甲殻系か? それだと刃物はまず通らんなぁ」
「魔法で倒すとして、やっかいなのは足の速さだな。森の中でそれだけ駆け回れるってことは、平地だとどれだけ動けることか」
「う~ん、ちょっと当たらなそうだなぁ」
「となれば、無難に落とし穴か」
「あー、それなら前にアゲラダの群れを仕留めたときに使った場所が使えるんじゃねえか」
「「「「おぉ!」」」」
アゲラダというのは、バッファローみたいな魔獣のこと。突進力は侮れないけど、そこだけ気をつければ割と楽に狩れる。食肉として庶民の台所を支えてくれる貴重なタンパク源で、革製品も使い勝手がいいと評判である。
カネコの耳は高性能。
パラボラアンテナのようにくりくり動いては、遠くで落ちた小銭の音も拾う。
だから冒険者たちの会話もばっちり盗み聞きデキる。
のだけれども……
『もの凄い速さで森を駆け抜ける』とか『血塗れ』や『甲殻系』に『ブロロ~ン』という声で鳴いてたらしいという情報に触れるほどに、ワガハイは「ん? んん? んんん?」
なにやら、どこかで聞いたような……というか、とても身近なことのような気がしてしょうがない。
集めた情報をもとに、頭の中でぽわぽわぽわ。
ナゾの魔獣のことを想像すると、う~ん、ナゼだろう。
ここのところちっとも出番がない、ワガハイの愛車であるカネコモービルの姿が浮かんできたのだけれども。
「あっ、そういえばカネコモービルで公道を走る使用許可をまだ貰ってなかったにゃん。うっかり都市の中で乗ったら、また衛士隊のおっかない獣人の姉ちゃんに違反切符を切られるにゃあ。
でも、どこに届け出ればいいにゃんねえ?」
するとそのタイミングで「おい」と声をかけてきたのは、入道頭のおっさんである。
受付から出てくるなんて珍しい。いつ来ても受付にいるから、てっきり根でも生えているのかとおもってた。
珍しいといえば、いつもはムッツリしかめっ面をしているのに、今日に限ってはなぜだか笑顔を浮かべているのも気になるところだ。
おっさんはワガハイの首根っこをむんずと掴むなり、似合わない笑みにて「おい、ワガハイ。ちょっと付き合え」と言った。
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