寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
30 / 254

030 カネコ、さらにあることに気がつく。

しおりを挟む
 
 ワガハイがうごうごしている間にも、ギルドに人が増えていく。
 はやくもウワサを聞きつけて、冒険者たちが続々と駆けつけているのだ。
 討伐隊が編成されるほどの大仕事となれば、危険もあるが実入りもデカい。
 また都市に迫る脅威と判断されれば役所も動く。
 そうなれば領主からの指名依頼になるので、報酬がさらにドドンと増える。活躍すれば注目されて、えらい人らの目にも留まり貴族とのコネもできちゃうかも。
 冒険者にとっては、まさにチャンス到来というわけだ。

 いまワガハイは邪魔にならないように壁際に控えている。
 さりとて耳はピコピコ。
 カネコイヤーを発動し情報を収集中。
 すると聞こえてきたのは……

「そいつが出没したのって、第三層の真ん中らしい」
「ヘンな音がしたとおもったら、森の奥から突然飛び出してきたそうな」
「なんでも、もの凄い勢いで走るんだとか」
「全身血塗れだったらしいぞ」
「まるで赤い流星のようだったそうな」
「問答無用で蹴散らすらしい」
「えっ、撥ね飛ばすんじゃなかったか」
「いやいや、ぐちゃりとすり潰すんだって」
「ヤツが通ったあとは、死屍累々だったとか」
「それどころか木々をも薙ぎ倒して、森に道がデキていたらしい」
「はぁ? あの森のごつい樹をバキバキへし折ったってのかよ。なんつうバカ力だ」
「だが本当にヤバいのはそこじゃないぞ。そいつは殺した獲物には目もくれずに、あっという間に立ち去ったというんだ」
「えぇーっ! マジかよ、もったいねえ」
「だろう? ふつうは肉を食うなり、魔晶石をかじるなりするのに」
「……まるで『この程度のザコども、食う価値もない』とでも言わんばかりだな」
「それは恐ろしいな。そいつにとっては第三層の辺りをうろつく魔獣は、食料にもならないということか」
「世界三大極地のひとつ、メテオリト大森林の第三層に生息する魔獣たちが、ザコ扱いか……そいつはたしかにヤバいな」
「ヤバいのはそれだけじゃねえぞ。食べる気もないのに、気まぐれで殺して回ることの方がヤベーだろう」
「いったいどんなヤツなんだろうなぁ」
「オレが聞いた話だと、そいつは『キュイーン』とか『ブロロン』とか奇妙な鳴き声をしていたそうな」
「大きさはさほどでもないらしいが……」
「俺は固い甲羅みたいなのに覆われていたって聞いたけど」
「甲殻系か? それだと刃物はまず通らんなぁ」
「魔法で倒すとして、やっかいなのは足の速さだな。森の中でそれだけ駆け回れるってことは、平地だとどれだけ動けることか」
「う~ん、ちょっと当たらなそうだなぁ」
「となれば、無難に落とし穴か」
「あー、それなら前にアゲラダの群れを仕留めたときに使った場所が使えるんじゃねえか」
「「「「おぉ!」」」」

 アゲラダというのは、バッファローみたいな魔獣のこと。突進力は侮れないけど、そこだけ気をつければ割と楽に狩れる。食肉として庶民の台所を支えてくれる貴重なタンパク源で、革製品も使い勝手がいいと評判である。
 カネコの耳は高性能。
 パラボラアンテナのようにくりくり動いては、遠くで落ちた小銭の音も拾う。
 だから冒険者たちの会話もばっちり盗み聞きデキる。
 のだけれども……

『もの凄い速さで森を駆け抜ける』とか『血塗れ』や『甲殻系』に『ブロロ~ン』という声で鳴いてたらしいという情報に触れるほどに、ワガハイは「ん? んん? んんん?」

 なにやら、どこかで聞いたような……というか、とても身近なことのような気がしてしょうがない。
 集めた情報をもとに、頭の中でぽわぽわぽわ。
 ナゾの魔獣のことを想像すると、う~ん、ナゼだろう。
 ここのところちっとも出番がない、ワガハイの愛車であるカネコモービルの姿が浮かんできたのだけれども。

「あっ、そういえばカネコモービルで公道を走る使用許可をまだ貰ってなかったにゃん。うっかり都市の中で乗ったら、また衛士隊のおっかない獣人の姉ちゃんに違反切符を切られるにゃあ。
 でも、どこに届け出ればいいにゃんねえ?」

 するとそのタイミングで「おい」と声をかけてきたのは、入道頭のおっさんである。
 受付から出てくるなんて珍しい。いつ来ても受付にいるから、てっきり根でも生えているのかとおもってた。
 珍しいといえば、いつもはムッツリしかめっ面をしているのに、今日に限ってはなぜだか笑顔を浮かべているのも気になるところだ。
 おっさんはワガハイの首根っこをむんずと掴むなり、似合わない笑みにて「おい、ワガハイ。ちょっと付き合え」と言った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...