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028 カネコ、ビフォーアフター。
しおりを挟むしゅるしゅるしゅるしゅる~~~~~~キュっ、ぽん!
屋敷の内外を丸ごと覆い尽くした黒のベトベトさん。
あらわれた時の勢いそのままに、みるみる萎んでは収束していき、ワガハイの足下へと吸い込まれていき、最後にマヌケな音を残して消えた。
淀んでいた空気が一掃された。
塵ひとつ残さぬほどに清められた邸内。
壁の黒カビも消滅し、不気味な女の影っぽい染みの姿もなくなった。
そこはかとなく漂っていたくすみがすっかり失せて、輝きを取り戻した屋敷はまるで新築に生まれ変わったかのよう。
お掃除完了。
劇的ビフォーアフター。
だがしかし、もっとも劇的に変化したのはそこじゃない。
「おまえ……いくらなんでも変わりすぎだにゃん」
『いやはや、お恥ずかしいかぎりです』
ワガハイがジト目を向ければ、相手は恐縮しつつペコリと頭を下げた。
生活魔法・闇のクリーンを発動。ワガハイは黒のベトベトさんで掃除がてら、この屋敷に巣食っていた自称・死霊王をも退治することにした。
この寄宿生物カネコを差し置いて、豪華な屋敷に居座るなんぞは言語同断である。おまえにはもったいない。ワガハイとかわれ!
そんな思いの丈をぶつけた。
で、終わってみれば屋敷ばかりか、リッチのリッチーまでもが白くピカピカになっていた。しかもすっかり痩せて、シュッとしたダンディな姿になっていた。
黒のベトベトさん、どうやら奴の腐った性根のところだけをキレイにしたらしい。
これもある種の浄化なのかしらん? う~ん。
ぷくぷくに私腹を肥やしていた死霊が、一転して屋敷にふさわしいタキシード姿のよく似合う紳士なホワイトゴーストになっちゃった!
そんな新生リッチなリッチーを前にして。
ワガハイは「ま、いいかにゃ」
なぜならワガハイがギルドで頼まれたのは、あくまでお掃除だから。除霊は別物だもの。
すると新生リッチなリッチーは『おそれながら』と言った。
『じつは最初から違和感があったのですが、ワガハイさま……ひょっとしてダマされてはおりませんか?』
依頼を受けて出向いてみれば、いわくつきの物件。
知る人ぞ知る、城塞都市トライミングでも屈指の心霊スポット。
これまでに「我こそは」と腕に覚えありの聖職者たちが屋敷に乗り込んでは、自称・死霊王に挑むも、ことごとく泣かされて返り討ちにされた。
おかげで長らく買い手もつかず、商業ギルドが管理していた。
そんな場所にのこのこ出かけたら、トラブルに見舞われることは必定。
なのに当人に知らされていないとは、これいかに?
言われてみればたしかにその通りである。
「もしかしてワガハイ、冒険者ギルドにダマされたのかにゃん? ガーン、けっこうショックだにゃあ」
ワガハイ、愕然とする。
すると新生リッチなリッチーはちょび髭を撫でつけつつ。
『……いえ、おそらくですが今回のことを企んだのは商業ギルド側でしょう。こすいやり口が、いかにも連中の考えそうなことなので』
商業ギルドがこの屋敷を持て余していたのは、荒れた前庭や邸内の様子からも一目瞭然である。
なにせちょっと窓を開けて空気の入れ換えをしようにも、死霊王が居座っておりままならぬ。
せっかくの一等地なのに、せっかくの豪邸なのに……シクシクシク。
そんな時に、近頃町で評判の掃除人がいるとのウワサを聞きつけた。
目を背けたくなるようなゴミ屋敷もなんのその。しつこい台所の油汚れ、頑固なお風呂場のカビをもサクっとやっつける、凄い奴らしい。
ならばダメ元でやらしてみよう。
あわよくば邪魔者も片付けてくれたらうれしいな。
……というのが新生リッチなリッチーの考察であった。
その狙いは半分成功して半分失敗した。
悪霊はいなくなったけど、善霊はなおも居座っているので。
結果としては、ざまぁ?
ワガハイは首をかしげつつ「ところで、リッチーは何をやらかしてそんな情けない姿になってしまったにゃん?」と尋ねたら、新生リッチーはこともなげにこう言った。
『いやはや、じつは金と権力に物を言わせて、許婚のいた美しい娘を後添えにしようとしたのが運の尽きでして……』
若い娘に熱をあげてトチ狂ったあげくに、許婚であった男からブスリ。
さらには娘からもブスブスリ。
ちなみにとっくに骨になっている遺体は、いまなおこの屋敷にある秘密の地下室の壁に埋め込まれているそうな。
「ガチの事故物件だったにゃん! あとコイツ、とんでもねえクソ野郎だにゃあ!」
ワガハイがおもわず叫ぶと、なぜだか新生リッチーは『いや~それほどでも』と照れた。
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