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026 カネコ、屋敷を探訪する。
しおりを挟むここは現在、空き家である。
持ち主の手を離れてからは、幾人もの間を転々とし、いまは商業ギルドが管理しているそうな。
せっかくの前庭は荒れていた。
かつては手入れが行き届いた見事な庭園であったろうに、いまではイバラがうねっており、邪悪な魔女が住む森のような有様だ。
いっそのこと全部刈ったらさっぱりしそうだけれども、ワガハイが受けた仕事はあくまで屋敷の掃除である。庭の手入れまでは含まれていない。
だから無視して進もうとしたら。
ざわざわザワザワところザワ……
まるでここから先へは行かせないとばかりに立ち塞がるはイバラの蔓たち。
わさわさしており、微妙な隙間、いかにネコっぽいカネコとて、おいそれとは通り抜けれそうにない。
しょうがないのでワガハイは前足を振った。
「えいっ、カネコスラッシュだにゃん」
ズバッと一閃。
進路上の邪魔者たちを、見えない風の刃が薙ぎ払う。
たちまちイバラは細切れとなった。
これで進める。
はずが「あイタっ!」
肉球にぶすり。トゲトゲがまきびしとなり、うっかりそれを踏んでしまった。
そして驚きジタバタしたひょうしに、裁断した蔓らが体にまとわりついてきたもので、ワガハイは「うんにゃあ~」
○
ようやく正面玄関の扉のところに到着した。
「やれやれ、庭ではえらい目にあったにゃん」
静電気でも発生したのか、しきりに体にくっついてくるトゲトゲたち。
払っても払ってもきりがないので、ついにはアイテムボックスに放り込むことで、どうにか解放された。
「では、いざお宅訪問だにゃん」
重厚な扉を開けば、赤絨毯が敷かれた広々としたエントランスがお出迎え。
天井にはシャンデリア、某歌劇団の舞台セットのような大階段が二階へと続いている。
「うにゃ? おもったよりもキレイだにゃ」
ところどころ薄っすら埃が積もっており、壁にはドレス姿の女性のような形をした黒カビの染みが浮かんでこそいるものの、表ほどは荒れてない。
ワガハイ、まずは一階は右から探索する。
廊下を進み右側のドアを次々に開けていく。
カーテンが閉じられた室内は昼間でも薄暗く、長らく人が立ち入っていなかったのか空気もちょっと淀んでいる。
事務室に休憩室などが並ぶ。突き当りにも上階へと通じる階段があるが、こちらはエントランスの階段よりもずいぶんと小ぶりだ。おそらくは使用人たち用なのだろう。
廊下を挟んで向かい側の扉を明ければ、広々とした部屋になっており、ビリヤードやダーツに、あれは木製のサッカーゲームの台か。本棚やバーカウンターなんぞもある。壁に飾られている刀剣類は家主の趣味か。
かなりゆとりのあるスペース、どうやらここは遊戯室のようだ。
「大人の社交場にゃ。憧れるにゃんねえ」
ワガハイはしげしげ眺めては、髭をひくひくさせる。
廊下に出たワガハイは、エントランスまで戻り、そのまま反対側へと向かう。
こっちは六角形の塔屋がある方だ。
塔屋の一階部分に当たる場所にはピアノっぽい楽器が置いてあった。ちょっとした音楽ホールにて優雅な空間、かつてここで演奏会なんぞを開いては客を招いていたのだろう。
このホールにある階段から塔屋の上へ行けるようだが、それよりも先に母家の探索をする。
奥へと続く廊下を進めば、長いテーブルが置かれた食堂があり、壁には大きな肖像画が飾られていた。ちょび髭を生やしたふてぶてしい面構えにて、ぷくぷくと私腹を肥やしまくった風貌の男。
「いかにもにゃんだけど、食事がちっとも楽しめそうにないにゃん。せっかくのごちそうも台無しだにゃあ。
というか自分の肖像画を得々と飾る神経が、ワガハイにはさっぱり理解できないにゃん」
金持ちの考えることはとんとわからない。
悪趣味なインテリアにワガハイは嘆息しつつ、次の部屋へと。
普通の応接室と豪華な応接室が並んでいた。
おおかた客のランクに合わせて使い分けていたのだろうけど、ちょっと感じが悪い。
あとは小使室、納戸などなど。
さらに奥へと進めば台所があり、便所に洗面所や浴場などの水回りが固まっている場所もあった。
一階をざっと見てまわったところで二階へ。
といっても客室ばかりにて、どれも同じ造り。
これが三階になると、とたんに部屋が大きくなっており、こちらは貴賓客用といったところか。
貴族にとって来客の多さは、家の力の強さをあらわす。
う~ん、これだけの邸宅を構えていたのだ。あの肖像画のちょび髭、じつはかなり凄い人物だったのかもしれない。
「さてと、残すは塔屋の方だけだにゃあ。ここまで家主の部屋っぽいのが見当たらなかったから、たぶんそっちで生活していたにゃんねえ」
ワガハイはいったん下まで降りるべく階段へと向かった。
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