寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
26 / 280

026 カネコ、屋敷を探訪する。

しおりを挟む

 ここは現在、空き家である。
 持ち主の手を離れてからは、幾人もの間を転々とし、いまは商業ギルドが管理しているそうな。

 せっかくの前庭は荒れていた。
 かつては手入れが行き届いた見事な庭園であったろうに、いまではイバラがうねっており、邪悪な魔女が住む森のような有様だ。
 いっそのこと全部刈ったらさっぱりしそうだけれども、ワガハイが受けた仕事はあくまで屋敷の掃除である。庭の手入れまでは含まれていない。
 だから無視して進もうとしたら。

 ざわざわザワザワところザワ……

 まるでここから先へは行かせないとばかりに立ち塞がるはイバラの蔓たち。
 わさわさしており、微妙な隙間、いかにネコっぽいカネコとて、おいそれとは通り抜けれそうにない。
 しょうがないのでワガハイは前足を振った。

「えいっ、カネコスラッシュだにゃん」

 ズバッと一閃。
 進路上の邪魔者たちを、見えない風の刃が薙ぎ払う。
 たちまちイバラは細切れとなった。
 これで進める。
 はずが「あイタっ!」
 肉球にぶすり。トゲトゲがまきびしとなり、うっかりそれを踏んでしまった。
 そして驚きジタバタしたひょうしに、裁断した蔓らが体にまとわりついてきたもので、ワガハイは「うんにゃあ~」

  ○

 ようやく正面玄関の扉のところに到着した。

「やれやれ、庭ではえらい目にあったにゃん」

 静電気でも発生したのか、しきりに体にくっついてくるトゲトゲたち。
 払っても払ってもきりがないので、ついにはアイテムボックスに放り込むことで、どうにか解放された。

「では、いざお宅訪問だにゃん」

 重厚な扉を開けば、赤絨毯が敷かれた広々としたエントランスがお出迎え。
 天井にはシャンデリア、某歌劇団の舞台セットのような大階段が二階へと続いている。

「うにゃ? おもったよりもキレイだにゃ」

 ところどころ薄っすら埃が積もっており、壁にはドレス姿の女性のような形をした黒カビの染みが浮かんでこそいるものの、表ほどは荒れてない。
 ワガハイ、まずは一階は右から探索する。

 廊下を進み右側のドアを次々に開けていく。
 カーテンが閉じられた室内は昼間でも薄暗く、長らく人が立ち入っていなかったのか空気もちょっと淀んでいる。
 事務室に休憩室などが並ぶ。突き当りにも上階へと通じる階段があるが、こちらはエントランスの階段よりもずいぶんと小ぶりだ。おそらくは使用人たち用なのだろう。

 廊下を挟んで向かい側の扉を明ければ、広々とした部屋になっており、ビリヤードやダーツに、あれは木製のサッカーゲームの台か。本棚やバーカウンターなんぞもある。壁に飾られている刀剣類は家主の趣味か。
 かなりゆとりのあるスペース、どうやらここは遊戯室のようだ。

「大人の社交場にゃ。憧れるにゃんねえ」

 ワガハイはしげしげ眺めては、髭をひくひくさせる。
 廊下に出たワガハイは、エントランスまで戻り、そのまま反対側へと向かう。
 こっちは六角形の塔屋がある方だ。
 塔屋の一階部分に当たる場所にはピアノっぽい楽器が置いてあった。ちょっとした音楽ホールにて優雅な空間、かつてここで演奏会なんぞを開いては客を招いていたのだろう。
 このホールにある階段から塔屋の上へ行けるようだが、それよりも先に母家の探索をする。
 奥へと続く廊下を進めば、長いテーブルが置かれた食堂があり、壁には大きな肖像画が飾られていた。ちょび髭を生やしたふてぶてしい面構えにて、ぷくぷくと私腹を肥やしまくった風貌の男。

「いかにもにゃんだけど、食事がちっとも楽しめそうにないにゃん。せっかくのごちそうも台無しだにゃあ。
 というか自分の肖像画を得々と飾る神経が、ワガハイにはさっぱり理解できないにゃん」

 金持ちの考えることはとんとわからない。
 悪趣味なインテリアにワガハイは嘆息しつつ、次の部屋へと。

 普通の応接室と豪華な応接室が並んでいた。
 おおかた客のランクに合わせて使い分けていたのだろうけど、ちょっと感じが悪い。
 あとは小使室、納戸などなど。
 さらに奥へと進めば台所があり、便所に洗面所や浴場などの水回りが固まっている場所もあった。

 一階をざっと見てまわったところで二階へ。
 といっても客室ばかりにて、どれも同じ造り。
 これが三階になると、とたんに部屋が大きくなっており、こちらは貴賓客用といったところか。
 貴族にとって来客の多さは、家の力の強さをあらわす。
 う~ん、これだけの邸宅を構えていたのだ。あの肖像画のちょび髭、じつはかなり凄い人物だったのかもしれない。

「さてと、残すは塔屋の方だけだにゃあ。ここまで家主の部屋っぽいのが見当たらなかったから、たぶんそっちで生活していたにゃんねえ」

 ワガハイはいったん下まで降りるべく階段へと向かった。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

絶滅危惧種のパパになりました………~保護して繁殖しようと思います~

ブラックベリィ
ファンタジー
ここでは無いどこかの世界の夢を見る。起きているのか?眠っているのか?………気が付いたら、見知らぬ森の中。何かに導かれた先には、大きな卵が………。そこから孵化した子供と、異世界を旅します。卵から孵った子は絶滅危惧種のようです。 タイトルを変更したモノです。加筆修正してサクサクと、公開していたところまで行きたいと思います。

怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー
ファンタジー
「あぁ、異世界転生したいなぁ、異世界召喚とかトリップでもいいけど…」  いつからだろう、こんな夢物語を本気で願うようになったのは。  いつからだろう、現実と向き合うのをやめたのは。  いつからだろう、現実を味気なく感じたのは。  いつからだろう、リアルで生きていくことに飽きたのは。  働きたくない男が、働かなくてもいい環境に置かれていくお話。  ※他サイトでも投稿しています。

そんなの知らない。自分で考えれば?

ファンタジー
逆ハーレムエンドの先は? ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...