寄宿生物カネコ!

月芝

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024 カネコ、指名されまくり。

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 近頃、ワガハイは人気者である。
 ギルドに顔を出すたびに、指名依頼を受けるのだ。
 もっとも仕事の内容は掃除ばかりだけどね。

 城塞都市トライミングを震撼させた、あの『怪奇! 教会が黒いベトベトさんに覆われて大パニック事件』による影響である。
 いろいろ物議をかもしたものの、結果としてピカピカになった教会がいい宣伝になった。
 古ぼけた建屋ばかりか、うっかり触れたら壊れそうな神像をもまとめてキレイに。
 それをあっさり短時間でやってのける。
 しかも料金は安く、飯さえ喰わせておけばにゃんにゃん機嫌がよく、軒先でも貸してやればさらにご満悦というチョロインぶり。
 不気味な作業風景にさえ目をつむれば、なかなかのものだと巷での評判はぐんぐんウナギのぼり。
 おかげでワガハイの懐もすっかり潤い、ウハウハ――

「じゃないにゃん!」

 ワガハイは不満を口にした。ギルドのカウンター前にてダムダム床を踏み鳴らす。ひょうしにぶわり、埃と抜け毛が舞った。

「あん、どうしてだ? 冒険者になったばかりで、もう指名が入るなんぞ、すごいことじゃねえか」

 すっかり見慣れた受付の入道頭のおっさんは「コイツ、何を言ってんだ?」と不思議そうな目を向けてくる。
 だからワガハイはビシっと言ってやった。

「怠惰を愛し、非生産、不労所得を旨とするカネコにあるまじき勤労の日々。こんなのはまちがってるにゃあ」

 そうしたら、おっさんはとても残念なナマモノでも見るかのような表情にて言った。

「……じつは前からずっと気になっていたんだが、そもそもの話、カネコってのは何なんだよ?」

 あまりにもサボり癖がひど過ぎて、絶滅の危機に瀕しているがゆえに、カネコは幻の種族である。つねにレッドデータの上位をうろちょろしているくせに存外しぶとい。
 ゆえに目撃例はめったになく、文献などに残されている記録もほとんどない。
 動物園に行けば会えるなんちゃって幻とかじゃなくて、ガチ幻なのだ。推定レア度は座敷わらし以上、ツチノコ以下ぐらい。
 図鑑や冒険者ギルドのデータベースにも「なんかそれっぽいのがいるらしいけど、よくわからん」との情報しかないという。
 というか、ずっとシシガシラと混同され、奴の親戚扱いされていたそうな。
 ぐぬぬ。

 まぁ、それはさておきである。
 おっさんからの質問にワガハイは「カネコはカネコだにゃん。それ以上でもそれ以下でもないにゃあ」と答えてから言った。

「じゃあ逆にたずねるにゃんが、おっさんこそ何なのにゃあ?」

 体格はムキムキで限りなくゴリラっぽい。
 けど、いちおうギリギリ類人の範疇に留まっている。
 では類人とは何か?
 といえば、そういう種族でそういう生き物にて。

 己はどうして生まれてきたのか。
 何を成し、何を成せず、何を選び、何を諦め。
 そして死んでいくのか。

 はたして明確に答えられる者が、この世にどれだけいることやら。
 まるで禅問答のようなやりとりに、おっさんは首をひねった。
 そしてワガハイも首をかしげた。
 自分で言っておいてなんだが、哲学ちっく過ぎてよくわからない。
 ようは何が言いたかったのかといえば『自分のことをちゃんとわかっている奴なんて、じつはいない』ということ。いたとすれば、それはきっとかんちがい。『わかっていると思い込んでいるだけ』のこと。

 だから……
 というか、もう考えるのがめんどうになったので、ワガハイは話題を変えることにする。

「うにゃあ~。そのわりには、得たいの知れないはずのワガハイをすんなり受け入れているにゃん」

 いかにこの国が多民族国家であり、ここが辺境の城塞都市で、いちおう入場審査に合格しているとはいえ――だ。
 ワガハイもつねづね奇妙におもっていた。
 あまりにも度量が大きすぎる。
 もしもワガハイが逆の立場だったら、きっと石を投げて帰れコールをしている。
 ワガハイが素直な心情を吐露すると、おっさんは「石はいかんよ。帰れコールもきつい」と顔をしかめつつ言った。

「あ~、この国の風土もだが、ギルドってのがもともとそういう役割りだからなぁ」

 本来ならば国がやるべきなのだけれども、忙しくてすべてには手が回らない。ましてや国をまたいでとか、国同士でとかになるとなおのこと。
 その回らない部分を補っているのが冒険者ギルドなんだとか。
 いわば代行業にて、社会の受け皿みたいな機能をも果たしているそうな。
 もっとヒャッハーしているのかとおもいきや、ギルドってばしっかりした組織である。
 ただ惜しむらくは、どの支部の受付も強面のおっさんばかりだということ。

「なんでだにゃん? せっかくならかわいい子を並べておけばいいのに」
「それな……じつは前にやったことがあるんだよ。そうしたら業務が滞りまくってなぁ」

 若かりし頃を思い出したのか、おっさんは遠い目をした。
 キレイどころを並べたところ。
 カウンターに居座る冒険者どもが続出にて、ちっとも仕事になりゃしない。
 挙句の果てには痴話ゲンカやら、受付嬢のファン同士の抗争なども勃発した。
 同様の理由にてイケメンもダメだった。ロマンス詐欺っぽいのまで発生した。
 その点、むさいおっさんならば安心だ。面白いように業務がはかどるはかどる。

 ちなみにどうしても美人の受付嬢に会いたいのならば、商業ギルドの方に顔を出すといいらしい。
 ただし、あちらはお金持ちご用達のところなので、並の冒険者風情では門前払いされるのがオチなんだと。

 かつてギルドで起きた悲劇。
 それを教訓に現在の体制が確立されたというけれど。
 先人たちのやらかしのせいで、いまの冒険者たちがおっさん汁にまみれている。
 ワガハイはやれやれ、嘆息しつつ次の掃除の依頼を受けた。


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