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021 カネコとベトベトさん。
しおりを挟む不覚、巧妙に断りづらい状況へと追い込まれてしまった!
見かけどおりの老獪さ。
いかにカネコといえども、もとはただのおっさんであったワガハイ。根が善良なる小市民であるがゆえに「ぐぬぬ……」
断腸の想いにてアイテムボックスから銅貨を一枚取り出し、賽銭箱へと投げ入れる。
ちゃりん。
敗北を突きつける音が礼拝堂内に響く。
身銭を切ったせいで、おもいのほか精神にダメージを負った。
己が不甲斐なさに打ちひしがれるワガハイに老人が告げた。
「ふぉふぉふぉ、それじゃあさっそく掃除の方を頼む。ムリはせんでいいが丁寧にな。くれぐれも神像を壊さないように」
「……うっかり、ポロリとかしちゃったらどうなるにゃん?」
ワガハイがおずおず尋ねたら、老人はにちゃりと意地の悪い顔にて。
「なぁに、弁償しろとかケチなことは言わん。
形あるものはいつかは壊れる。そういう巡り合わせ、運命だったのだろうと諦めるさ。
とはいえ、さすがに無罪放免とはいかん。だからかわりに奉仕活動をしてもらうぞ。
けけけ、ほれ、そこの少年みたいな神像なんて指先が細いから、せいぜい気をつけな」
そう言い残し、老人はさっさと建物の奥へと引っ込んでしまった。
礼拝堂にひとり残されたワガハイは口をへの字に結び、しかめっ面だ。
「まさかとは思うにゃんけど、わざと壊れているヤツをまぎれ込ませていたりとか……だとしたら、とんでもなく性質の悪いトラップにゃん」
もとから壊れている像の腕とかを、米粒でペタリ、適当にくっつけておき素知らぬふり。
そうとは知らずに触れたらポロッとね。
という寸法だ。
妄想にワガハイはブルっと震える。
なおこちらの世界にもお米はあった。ちょっと細長いタイ米みたいのだけど。
四つ子の子守りをしたときに、ピラフっぽいのをごちそうになったが、なかなかイケた。
この世界、ちょいちょい転生者があらわれているだけあって、食事の内容はけっこう充実しているのはうれしい誤算だ。
おっといかんいかん。
話がそれてしまった、もとに戻そう。
腐ったアロセラ教団ならばともかく。
健全なスミテルア教、その教義を聞いたかぎりでは、悪辣なマネはしないとおもわれる。
だが、はたして本当にそうなのか?
つねに信者の奪い合い、熾烈な生存競争を繰り広げ、生き馬の目を抜くような宗教業界にあって、キレイごとだけでやっていけるのか?
ワガハイすっかり疑心暗鬼となる。
さりとて老人を問い詰めても、適当にはぐらかされるだけだろう。
「ふ~、疑いだしたらキリがないにゃん。しょうがにゃい、ここは魔法でちゃちゃっと片付けてしまうにゃあ」
というわけで生活魔法・闇のクリーンを発動する。
「おいでませ! ベトベトさん」
言うなり、ワガハイの足下がぶくぶくと泡立ち、ドバっとあふれてきたのは黒い何か。
ドロリとしており、ヌメヌメじっとり、しっとりヒンヤリ、ねちゃっとしてべちょり。うっかり顔に張りついたら窒息しそうにて、見た目はコールタールっぽいけど無臭だ。そのくせほとんど重さを感じない変幻自在のダークマター。
こんなのだけど、掃除能力はとても優れており、にゅるんと呑み込んでモグモグ、ペッとすれば、あら不思議!?
新品同様にピカピカに。
「さぁ、やっておしまい――だにゃん」
ワガハイが命じるなり、黒のベトベトさんは神像たちへとガバっと覆いかぶさった。
にしても、この掃除風景。
まるで宇宙からの物体エックスの捕食シーンのようで、何度見てもドキドキする。
しかしベトベトさんはデキる子なのだ。
みるみる神像たちをキレイにするだけでなく、平行して礼拝堂内も磨きあげていく。
「この調子なら楽勝にゃん。せっかくだから教会全体もキレイにしてジジイをびっくりさせてやるにゃあ」
もちろん100%善意からだけの行動ではない。下心ありき。
あわよくば教会の老人の口から「あのカネコはたいしたやつだ。ぜひとも一家に一匹欲しい」なんぞと言わしめ、ゆくゆくは町でも評判となり奥さま方からこぞって「ぜひうちに来て!」「いいやうちにこそいらっしゃって下さい!」「ホホホ、ワガハイさまはうちにこそふさわしいのですよ」なんぞとモテモテの引く手あまた。寄宿先が選り取り見取りになるに相違あるまい。
ワガハイは寄宿生物カネコ、転んでもタダでは起きないのだ。
払ったお賽銭の分は、しっかり元を取ってみせようとも。
だがしかし、少々力が入り過ぎてしまったらしい。
ワガハイの豊富な魔力により、ベトベトさんがずんずん大きくなり、ハッスルしちゃったもので……
「ぎゃーっ、なんじゃこりゃ~~」
建物の奥から老人の悲鳴が聞こえてきたもので、ワガハイ「あっ」
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