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019 カネコ、風評被害に怯える。
しおりを挟む貰った固いパンをかじりながら、しぶしぶギルドの受付カウンターへ向かう。
ギルドもこの時間帯だとけっこう賑わっている。
ずらりと列ができている。
受付は全部で七つ。
ここは心機一転、いつもの右端ではなくて、左から二番目のところに並んでみることにした。
するとさっそくご利益が……
前にボン、キュッ、ボンで小麦色の肌をした女性の冒険者が並んでいたもので、「にゃあにゃあ、そこの彼女、カネコはいらんかね? 殺伐とした日々の癒しとなること請け合いだにゃん」と声をかけてみるも、「いえ、間に合ってます」と断られた。ざんねん。
ついでにうしろに並んできた野郎にも声をかけてみる。
そうしたら「あ~、うちカミさんが動物はダメなんだ。好きなんだが、くしゃみが出るらしくって」とのこと。
なんと! モフリストの大敵、動物アレルギーがこちらの世界にも存在しているのか。
ワガハイ、ちょっとショック。
でも、大丈夫だ。
たしかに動物アレルギーは悲しいけれども、別の希望はちゃんと残されている。
だってほらご覧なさい。こんな冴えなさそうなおっさんでも、ちゃんと結婚できるんだもの。
ならばワガハイの寄宿先とて、きっとすぐに見つかるはず。
「ありがとう、おっさん。ワガハイ、元気が出たにゃん」
「……え~と、それは良かった――のか?」
冴えないおっさんはなんのこっちゃい、きょとんとしていたけれども、ワガハイは気にしない。
そんなやり取りをしているうちに、ほどなくして自分の番が回ってきたのだけれども……
「なんでここにいるにゃん!?」
わざわざ違う受付を選んで並んだというのに、見覚えのある入道頭がいた。
「……なんでって、それはこっちの台詞だ。あっ、おまえ、もしかして俺のファンなのか?」
「んなわけないにゃ。いくらお手入れの必要がないからって、ちゃんと鏡は見た方がいいにゃん」
「あ~、わかったわかった。ったく照れやがって」
「誤解にゃ! とんだ言いがかりにゃんよ」
「はいはい」
「ムッキー! コイツ、絶対にわかってないにゃー」
なんたる運命のいたずら!
今後発生するであろう風評被害に、ワガハイはぶるると怖気に襲われる。
聞けば、受付の七人のおっさんたち。
べつに持ち場は決まっていないそうで、その時々で適当に座っているという。
それでも冒険者たちは、たいてい馴染みの受付のところに並ぶ。
なぜなら互いのことを知っている分だけ、話がはやいから。
いちいち細かいやり取りやら、条件のすり合わせをすることなく、ちゃっちゃと手続きが済んで仕事に入れるというわけだ。
だから入道頭はかんちがいをし、起きた悲劇。
ムキになって否定すればするほどに、入道頭から生温かい目を向けられ、ワガハイはげんなり。
そんなワガハイにおっさんが勧めてきたのは、教会での奉仕活動であった。
これは登録したての初心者向け、ギルドが常時出している依頼で、仕事の内容は主に教会の清掃である。
報酬は銀貨二枚と安いが、危険はないし、天候にも左右されず。神官たちに気に入られたら仕事終わりにお茶会に呼ばれて、オヤツを振る舞われることもあるという。
「おまえさんは生活魔法が使えるんだろう? だったらクリーンでちゃちゃっと済ませちまえばいい」
生活魔法は、その名の通り日々の暮らしに役立つ便利なモノの総称である。
簡単だけど奥が深く、多岐に渡り、極めれば何でもデキるとのウワサも。
でもってクリーンは、対象をキレイにする魔法。
これまた異世界ファンタジーモノではお馴染みだろうけど、ここのはちょっと変わっている。
六種類ある魔法の属性、うち火水風光闇の五属性にてクリーンがあり、ひと口にキレイにすると言っても、微妙に仕組みや効能がちがっているのだ。
火は、ボウっと埃などを瞬間滅却。
水は、さらさらと汚れを洗い流す。
風は、ぶわーっと塵を風で吹き飛ばす。
光は、ペカーっと紫外線照射にて、ウイルスや細菌を退治する。
闇は、なんかヌルっとした黒いベトベトさんでキレイにする。
ちなみにワガハイは全部使えるけど、もっぱら活用しているのは闇のクリーンだ。
だって火は毛が燃えて縮れちゃうし、水は濡れてしょぼしょぼになるし、風は抜け毛が舞うし、光はなんだかうさんくさい。
消去法によって闇が残ったものの、これがけっこう使い勝手がよい。
もっともビジュアル的には完全にアウトだけれども。
受付のおっさんから勧められるままに、ワガハイは依頼を受理しギルドを出た。
「こっちの世界に来てから運気だだ下がりにゃん。とくに出逢い系の運が最低にゃあ。だから教会にご奉仕して、運気をアップするにゃん」
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