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018 カネコ、酒場にくり出す。
しおりを挟むめでたく? 初仕事を終えたワガハイはギルドに併設されている酒場へとくり出した。
もちろん祝杯をあげるためだ。がんばった自分へのご褒美である。
というわけで、さっそくカウンター席につき。
「ヘイマスター、前途洋々たる有望な大型新人に一杯おごるにゃあ」
「……あん、寝ぼけてんのか? 冷やかしなら他をあたりな」
おねだりはあっさり一蹴された。
ならば自分の金で呑めばいいのだけれども、そこはそれ、ワガハイ、カネコであるからして。
カネコは怠惰をこよなく愛し、他人の金で飲食することを至福としている超生命体である。
たとえやる気が無さ過ぎるあまり、滅びの危機に瀕しようとも生き方は変えない。
己の真っ直ぐを貫く、小粋やヤツなのだ。
よって財布の紐はとっても固い。
税金や罰金などはしょうがないとして、それ以外では極力払いたくない。
だが、誤解なきよう。
けっしてケチなのではない。
これは習性、そうカネコとしての誇りの問題なのだ。
だからワガハイは……
「そんなケチクサいこといわないでねえ、ごろごろごろにゃんにゃん」
全力で媚びを売った。
ひっくり返って腹も見せたね。
えっ、恥や外聞?
フンっ、そんなものは和歌〇県人にでも食わせておけ。
カネコの生き様をとくと目に焼きつけるがよい。
だがしかし……
マスターは頑な男であった。
「……やかましい。金がないなら働け」
と、にべもない。
このワガハイのおねだり攻撃が通じないとはムムム――デキる。
ただ者じゃない。もしやこやつ、イヌ派か?
であれば、この頑なさもさもありなん。
なにせあいつらは素直じゃないからな。そのくせイヌと同じく義理堅いときているから、めんどうくさいのだ。本能のおもむくままにどちらもモフればいいものを。やれやれである。
しょうがないのでワガハイはターゲットを変えることにした。
酒場内を睥睨(へいげい)し、次に声をかける相手を物色する。
朝っぱらからへべれけになっているような呑ん兵衛ならば、たぶらかすのなんぞは造作もあるまい。
だがしかし……
「にゃ、にゃんだと? 酒を飲んでいるヤツがひとりもいにゃい。そんなバカにゃ」
ここは果敢に未知へと挑み、一攫千金を狙う、命知らずの冒険者たちがたまり場にしている酒場。
ゆえに客は「はっ、宵越しの銭なんぞ持たねえぜ」と吠え、享楽的な生き方を是としている者ばかりのはず。
なのに揃いも揃ってモーニングセットなんぞを頼んでいやがる。
さすがは冒険者相手の朝飯だけあって、てんこ盛りで量がある。
「なっ、どうなっているにゃん? こんなのおかしいにゃん!」
「さっきから黙って聞いていれば……、おかしいのはおまえの頭の中だ。冒険者稼業を舐めんな」
体が資本の冒険者稼業。
不摂生なんぞしていたら、たちまち死んでしまう。
よって朝から酔っ払っていたり、朝食を抜くのなんてもってのほか。
でもってここはギルドに隣接する酒場にて、食堂も兼任している。
いわばギルドのお膝元、もっとも監視の目が厳しいところでもあるからして。
「う~ん、ままならんものにゃんねえ~」
「……ごちゃごちゃうるせえ。わかったら邪魔だから、とっとと受付にでも行ってこい」
嘆くワガハイにマスターは文句を言いつつも、そっと差し出してくれたのは小ぶりの丸いパンひとつ。
これでも食ってがんばってこいということらしい。
なんだかんだでマスターってば、じつはいい人? でも中年おやじのツンデレって需要があるのかしらん。
パンを受け取ったワガハイは、さっそくガブリ。
「うっ、カチカチだにゃ、マズイにゃん」
「やかましい、ぜいたく言うな」
マスターにしっしっと追い払われ、ワガハイは酒場をあとにした。
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