寄宿生物カネコ!

月芝

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015 カネコ、ようやくギルドへ。

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 アムールトラばりの大きさのカネコが、のしのし歩く。
 町の中にこんなケダモノがうろついていたら、当然ながらとても目立つ。
 そのわりに、いまのところ城門前ほどの騒ぎにはなっていない。
 せいぜい遠巻きにされて、「えっ、シシガシラ!?」という戸惑いの声がちらほら聞こえてくる程度だ。
 くっ、なんたる屈辱。
 よりにもよって、あんな獅子舞モドキといっしょにされるだなんて。

 ――おのれ、シシガシラどもめ。決して許すまじ。

 ワガハイはカネコの誇りに賭けて、連中を根切りにしてレッドリストの仲間入りをさせてやろうと誓う。
 まぁ、それはさておき。
 この状況である。
 どうやら首からさげている木札のおかげっぽい。
 入場審査をパスした証なのだが、黄門さまの印籠ばりに効果を発揮している。
 それすなわち、あの人物判定のレジメ板と門を守っている隊長さんらの仕事が、町の住人たちから信頼されているということ。

 異世界モノのラノベとかだと、露骨に賄賂を要求したり、荷物をくすねたり、詰所に連れ込んでエロいことをしようとする門番などがときおり登場するけれど、実際にはそんなのはありえないということだ。
 なぜなら城門は都市の顔であり、重要な施設のうちのひとつだから。
 ましてやここはメテオリト大森林のすぐそば。ヤバい隣国との国境近くでもある。
 軍事拠点としての意味合いもありそうだし、いざという時には戦いの最前線ともなるだろう。

 そんな大切な場所の出入り口を、ちゃらんぽらんなノータリンに任せる?
 ナイナイ、ありえない。
 部下もまたしかり。身辺や素行の調査を念入りに行い、人選に人選を重ねているはず。
 さらには、これまでにコツコツと積み上げてきた信用と実績もある。
 そのおこぼれをワガハイはちょうだいしているという次第だ。
 ありがたや、ありがたや。

「ちょっとむさ苦しいけど、あの隊長さんのところならば、お世話になってやってもいいにゃん。立場からして高給取りっぽいし。とりあえず寄宿先候補リストに入れておくにゃ」

 なんぞと考えているうちに、冒険者ギルドに到着した。
 便宜上、城門からわりと近いところにあった。
 それっぽいのがちょろちょろ出入りしているし、大きな看板も掲げているのですぐにわかった。
 外観はこじゃれた洋館のホテルのよう。五階建てで窓がたくさんある。ちゃんとしたガラスがついており、もとの世界のと比べても遜色ない。
 この世界は魔法が主体の文明らしいが、技術もそれなりに発展しているようだ。
 もしかしたら転生者が持ち込んだのかも。
 なおワガハイは、転生者と馴れ合うつもりはない。サレーオみたいな人生はまっぴらなので、素知らぬ顔をしてやり過ごす所存である。
 ほうほう、ギルドの敷地は奥にものびているようだ。もしかしたら地下室もあるのかもしれない。

 カネコアイにて、じーっ。

 ジト目で建物を観察してみたら。
 一見すると貴族の家みたいに華奢だが、よくよく眺めてみたら建物全体に魔力が常時流されてある。それも濃厚なのがギュルギュルに張り巡らされているではないか。
 おおかた防衛力を高める魔法でも施されているのであろう。
 さすがは命知らずの冒険野郎どもが集う場所だけのことはある。
 本質は質実剛健と見た!
 ワガハイは感心しつつ、両開きのウエスタンドアを押し開け「たのもう、だにゃん」

  〇

 ホテルのロビーのような広々した空間は、閑散としている。
 人が少ないのは中途半端な時間帯のせいだろう。
 床はコンクリートっぽいのがむき出しだった。
 これは出入りしている連中のことを考慮してだろう。きっと泥だらけで帰ってくるだろうし。
 仕事帰りに一杯ひっかける酒場が隣接しているのはお約束。
 ながらも、依頼書を貼り付ける掲示板のようなものは見当たらず。
 あるのは受付カウンターのみ。事務処理はすべてそちらで行っているようだ。
 にしても――である。

「う~ん、ものの見事にごついおっさんしかいないにゃん」

 美人で愛想がよくて胸が大きな受付嬢なんぞ、ひとりもいやしない。
 いるのは、とても堅気には見えない強面ばかり。
 そんなのが七人も並んでいる。

 受付の七人のおっさん!

 どいつもこいつも不敵な面構え、ひとクセもふたクセもありそう。
 こうなると別の意味で、ワガハイはどれにしようか悩む。
 すると右端の入道頭がちょいちょいと手招きしてきたもので、ワガハイはとりあえずそちらへ向かってみることにした。


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