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014 カネコ、都市の洗礼を受ける。
しおりを挟む壁の向こうは、まるでおとぎ話の絵本のような世界であった。
古き良き中世ヨーロッパをおもわせる石造りの街並みを前にして、ワガハイもおもわず「うにゃあ~」と感嘆する。
いろんな種族が入り交じっているのは外と同じ。
とても賑わっているものの、みなの表情がどこか穏やかにて、雰囲気もずいぶんと落ち着いているようだ。
これが壁によって安全が守られているのと、そうではないのとの差なのであろうか。
はじめての都市にて、ギルドへ赴き、冒険者に登録する。
という流れは、いかにも異世界デビューのテンプレ展開である。
安直すぎて反吐が出そうだ。
けれども、やはり身分証は欲しい。あと入場料半額の恩恵はぜひとも受けたい。
よもや入る時だけでなく、出るのにもお金を取られるとはおもわなかった。ちょっとお出かするだけで銀貨四枚とか、ぼったくりにもほどがある。
あの手この手で庶民からゼニを絞り取ろうとするのは、たとえ世界や国はちがえども同じらしい。
だがしかし……
ちょっとドキドキしている自分がいる。
そこはそれ、ワガハイもやはり男なわけで。冒険野郎という生き方には心くすぐられるものがあるのだ。
というわけで、ワガハイはさっそく冒険者ギルドへと向かうことにする。
でも動き出してすぐのことであった。
ピピピピピィイィィィィーッ!
けたたましい警笛音がして、婦人警官っぽい格好をした獣人のお姉さんがあらわれた。
都市の治安を守っている衛士隊の隊員のようで、いきなりカネコモービルの前に両手を広げて立ち塞がったとおもったら「コラッ!」と叱られた。
「こんな人混みで、そんな奇妙な乗り物を走らせたら危ないじゃないの。
ところであなた……ちゃんとコレの許可はとってあるんでしょうね?
えっ、とってない? それどころかここに来たのも初めてで、まだ右も左もわからない。
う~ん……じゃあしょうがないわね。今回だけは特別に罰金だけで許してあげるわ。けど、次からは容赦しないからね」
怒涛の口撃。
一方的にまくしたてられ、ワガハイはタジタジ。
あげくにペリッと違反切符を切られた。
罰金の額は銀貨五枚、支払い期限は七日以内となっている。
職務を遂行した婦人警官は、次なる獲物を見つけたらしく猛然と駆けて行った。
獣人のお姉さん、トンデモフットワークで華麗に人混みをかわし、あっという間に見えなくなってしまった。
一方で残されたワガハイは、渡された切符を手にわなわな震えている。
「ムッキーっ、おとぎ話っぽいメルヘンな見た目にすっかりダマされたにゃん! ルールがっちがちだにゃん!」
ここはさまざまな種族が集う国。
しかも立派な壁に囲まれた、安心安全を謳う都市エリア。
そんな場所がゆるゆるなんぞで、まともに維持できるわけがない。
各種ルールがしっかりと制度化されており、法律もあって、みんながそれを遵守しているからこそ、この快適な住環境が整えられている。それを破ればきちんと罰せられる。
よくよく考えれば当たり前のこと。
なのに異世界転生という特殊なシチュエーションに惑わされていたせいで、ワガハイもうっかりしていた。
寄宿生物としてはあるまじき失態、痛恨の極みである。
賊から巻き上げた手持ちもずいぶんと寂しくなってしまった。
報奨金とお馬さんたちを売っ払った代金が手に入るのには、まだ時間がかかるというのに。
「ぐぬぬぬぬ、今回はしょうがにゃい。高い授業料を払ったとおもって諦めるしかないにゃあ」
ワガハイはがっくり肩を落としつつ、カネコモービルをアイテムボックスにそっと仕舞った。
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