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006 カネコ、魔術書を枕にする。
しおりを挟む悲劇のサレーオ。
天才は天才であるがゆえに、不遇の生涯を送るハメになった。
そんな偉大な男が残した絵日記を読み終え、ワガハイはしみじみ。
「うん、こいつ絶対に転生者だにゃ。発想がぶっ飛びすぎ。ゴーレム駆動って何にゃよ? でもって神さまの頼みを聞かなくて本当に良かった。ワガハイ、グッジョブ」
言われるままにチートガン積みで転生したとて、出る杭が打たれるのはどこの世界も同じこと。
散々にコキ使われたあげくに、いいように利用されては搾取されまくり、骨の髄までしゃぶられる。
ひどい人生だ。まったくもってろくなもんじゃない。
ワガハイ、そんなのはまっぴらである。
ゆえにサレーオを反面教師にして、したたかに生きていこうと改めて心に誓った。
というわけで邪魔なミイラは外にポイっ……はさすがに気がひけるので、家の裏にでも埋めておくとして……
「どれどれ、お次はこれ見よがしに書斎の机の上に置かれている、やたらと豪華な装丁の本を読んでみるかにゃん」
絵日記は学習帳に夏休みの宿題っぽい作りだったのに対して、こちらはガチ本。
タイトルは『魔術大全』とある。
大きさはセクシー女優の写真集ぐらいだけど、厚さが広辞苑の倍ほどもあろうか。
表紙には宝石がいくつも散りばめられており、おどろおどろしい魔法陣が描かれている。
「なんだか本を開いたとたんにトラップ発動! 悪魔でも飛び出してきて呪われそうにゃ」
にもかかわらずとっても軽いから不思議、見た目は鈍器だというのに。
どうやらそういう付与魔法がかけられてあるようだ。
これもサレーオがやったのだとしたら、チートにもほどがある。
表紙をめくってみると、扉のページに直筆にてこう書かれてあった。
『いつの日か、この地を訪ねし者に、我が生涯の研究成果を託す』
ふむ。この文面からして『魔術大全』はサレーオが編纂(へんさん)したようである。
「わかったにゃあ~、しかと託されたにゃん」
ワガハイは鼻の穴をぷくぷくさせながら、ページをめくる。
目次をざっと読んでみたところ、大全というのは伊達ではないらしい。
地水火風光闇の六属性ごとに情報が整理され網羅されている。
「え~と、にゃににゃに魔法とは……」
生活魔法と呼ばれる簡単なものから始まり、読み進めるほどにより理論的かつ高度な内容になっていく。ときには複雑な数式や図表を交えての説明もある。もの凄い情報量にて、字と数字がびっちりなんてページも多々。
ふむふむ、いちおう読めるぞ。
だがしかし……
「……う~ん無理。にゃにコレ? さっぱりわからんにゃあ~」
ワガハイは舌の根も乾かぬうちに前言を撤回し、匙を投げた。
せっかくサレーオから託されたけれども、重すぎてとても受け止めきれそうにない。
だって、この『魔術大全』ってば専門書なんだもの。
それも超一流の専門家をもってしても、数ページ読み進めだけで眉間にシワを寄せ、顔をしかめずにはいられないほどの。
いちおうワガハイにも読めはする。
だが、意味がわからん。中身がちんぷんかんぷんである。
簡単な計算や文字の読み書きができるからって、一流大学の入試問題が解けないのと同じこと。
「というか、ふわぁ~。細かい文字を眺めているうちに、なんだか眠くなってきたにゃん」
パタンと『魔術大全』を閉じ、ワガハイはお昼寝をすることにする。
木の家の周囲には結界だけでなく隠蔽魔法もほどこされているから、安心だ。
ワガハイは『魔術大全』を枕に、スピ~と鼻ちょうちん。
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