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005 カネコ、絵日記を読む。
しおりを挟むミイラはここの家主にて名をサレーオといい、生前はとある王国でゴーレム錬成技師の第一人者として活躍していたそうな。
だが、あることをきっかけに出奔し、ここメテオリト大森林の第六層に居を構えて引きこもっていたそうである。
どうしてワガハイがそんなことを知っているのかといえば、故人が残した絵日記を発見したからである。
なお文字はふつうに読めた。なぜだかわからんが、もしも転生特典だとすれば地味にありがたい。ワガハイ、神さまをちょびっとだが見直した。
「にしても、にゃにゆえ絵日記風?」
と、おもわず突っ込んだのはさておき。
ポップでカラフルなイラストに反して、中身は涙なくして読めぬものであった。
本気で紐解けば、それだけで単行本一冊分ぐらいの文量になりそうなので、詳細ははしょるが大筋はこんな感じである。
〇
サレーオは平民ながらに優れたゴーレム錬成技師であった。
画期的なゴーレムの運用法を次々と発明し、実用化にこぎつけ、王国の発展に多大な貢献を果たす。
それゆえに王さまからも目をかけてもらっていたのだけれども、じつはそれは真っ赤なウソ。
じつはこの王さま……どクズである。
言葉巧みにサレーオを騙しては、こき使ってずっと搾取していたのであった。
そればかりか気まぐれでサレーオの妻にちょかいを出し、デキた子を托卵で育てさせるという鬼畜外道であった。
妻は妻で夫を敬うこともなく、亭主元気で留守がいいと公言してはばからぬ。
子は子で、そんな母に育てられたせいか、父をあなどり便利なATM扱い。
家に居場所がないサレーオは、その鬱憤を晴らすかのごとく仕事にのめり込むも、その成果を享受するのは、王さまなのだから皮肉な話。
がんばればがんばるほどに、ドツボにはまっていくサレーオ。
だがしかし、ついに秘密が露見する。
すべてを知ったときの絶望たるや筆舌にしがたく。
さすがに人のいいサレーオもブチ切れた。
「おのれ、この恨みはらさでにおくべきか!」
とある仕掛けをほどこし、サレーオは「あばよ! クソども。おまえら全員、地獄におちろ」と罵り夜逃げする。
その仕掛けというのが、きっかり百日後に全システムがシャットダウンし、自壊するというもの。
サレーオが産み出したゴーレム技術は多岐に渡っており、ゴーレム駆動の恩恵はいまや王国内の津々浦々にまで浸透していた。それこそ国防から各インフラ設備に基幹産業までをも担っていたのである。
それらに重篤な問題が生じたら、とてもではないが国は立ち行かなくなる。
一斉に木っ端みじんになってドカンとなれば、どうなるかなんて言わずもがなであろう。
百日後、きっちり計画は遂行され、王国はたちまち大混乱に陥った。
だが、騒動はそれだけに留まらない。むしろ本番はここから!
この事態に呼応するかのようにして、周辺国らが一斉に宣戦布告をし、王国へと向けて進軍を開始する。
王国はゴーレムの軍事力をかさにきて、たびたび国境を侵しては近隣諸国にちょっかいをかけており、前々からうとまれていたのだ。
周辺国は事前にXデーの情報を入手しており、じつは密かに戦争の準備を整えていたのである。
リークしたのは、もちろんサレーオだ。
すっかりサレーオのゴーレム技術に依存していた王国に成す術はない。
かくして復讐は完遂された。
愚王の首は城門にさらされ、王国は滅んだ。
サレーオが王国を出奔してから、わずか一年後のことである。
なおサレーオの元妻と托卵された子がどうなったのかはわからない。
おそらくは王都陥落の争乱に巻き込まれて、死亡したとおもわれる。
だが、人を呪えば穴二つとはよく言ったもの。
これで終わりではなかった。
サレーオの苦悩はなおも続く。
なにせあの愚かなクズがトップにいるような国を短期間で、あそこまで発展させるほどのゴーレム錬成技術だ。
誰もがサレーオの持つ知識や技術を欲し、彼を手に入れようと躍起になった。
しかし散々に裏切られ搾取され続けたサレーオは、すっかり人間不信にて。
執拗な勧誘や追手から逃れるように各地を点々と彷徨ううちに、辿り着いたのがここメテオリト大森林であった。
メテオリト大森林。
大陸中央部に位置しており、広大な規模を誇る未開の地。
危険な魔獣が跋扈し、植生する草木までもが旺盛で狂暴、日夜血で血を洗う抗争が続けられている弱肉強食の森。別名・死の森とも呼ばれており、深く潜るほどに危険度が跳ね上がり、生存率はだだ下がり。
現在確認されているのは第五層の半ばまで。
嘘か誠か、最深部には遥か古に星の彼方より飛来した『異界の邪神』が眠っているなんて話も……
いかにメテオリト大森林とて、浅い層ではすぐに居所がバレてしまう。
だからサレーオは決死の覚悟で、誰も来ない第六層まで潜り隠れ家を構えた。
ここで隠遁生活を送りつつ、趣味の研究を続け、ついには還俗することなく孤独死にて人生の幕を静かにおろした。
おしまい。
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