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その百五十二 肉迫
しおりを挟む腕で顔をかばった禍躬シャクドウ。
そこへ六つの火線が正面より襲いかかる。
全弾命中、しかしシャクドウは健在。とっさにググっとチカラを込めて全身の筋肉を硬化。これにより被害を最小限にとどめた。とはいえこのまま棒立ちをしていれば、いい的になるばかり。ゆえにすぐさまきびすを返して、神殿内へと逃げ込もうとするも、それを妨げたのは鋭い炸裂音とまばゆい閃光の数々。
音玉と光玉だ。緒野正孝とコハクを回収するのと入れ違いにばら撒かれたもの。
驚いたシャクドウはたたらを踏む。
そこに今度は左方向から新たな六つの火線が飛んできた。
山楝蛇による狙撃。個々が優れた火筒の技量を持つ隊員ら。
またしても全弾命中。
これに押される格好にてシャクドウが脇へと移動を余儀なくされ、神殿入り口が遠のいた。
◇
正面と側面からの二面攻撃。あえて撃つ頃合いをズラすことにより、次弾装填の隙を失くし間断なく攻撃を続ける。
猛攻を浴びてシャクドウは防戦一方。だが禍躬はいまだ倒れず。
腕にてかばっている隻眼。垣間見えるのは、燃える憎悪、明確なる殺意。内にて怒りを増幅させふつふつと滾らせ蓄えている。もしもわずかにでも攻撃の手をゆるめたら、その瞬間にこれを爆発させて反撃へと転じるつもりであろう。
激しい攻防の様子を厳しい顔にて見つめていたのは部隊の指揮をとる南部弥五郎。そのかたわらに相棒の山狗の姿はない。ビゼンはコハクの方につけてある。いかに作戦とはいえいきなり人間から縄をかけられたコハクが驚き暴れないようにとの配慮。どうやらそれはうまくいったようだ。
緒野正孝とコハクらが囮となり、地上へとシャクドウをおびき出すのが第一の策。
神殿からシャクドウが出たところを包囲し、狙い撃つための陣を敷くのが第二の策。
そして現在、作戦は次の段階へと移行している。
第三の策は目標地点へとシャクドウを誘導すること。
「あと三丈……、あと二丈……、一丈……、九尺、八尺、七尺、六、五、四、三、二、一、いまだっ!」
南部弥五郎の檄が飛ぶ。これを合図に一斉に放たれたのは火。
たちまち地面に描かれた黒い線の上を火が疾走を開始する。向かうのはシャクドウの足下。
黒い線は火薬、そしてその向かう先には地面のくぼみに隠されるようにして設置された焙烙玉たちの姿があった。これこそが第四の策。
焙烙玉は特製の粘性のある火薬が詰まった玉にて、高い爆発力と燃焼力を持つ。
その武器の威力を身をもって知っているシャクドウは、あわててその場から離れようとするも、少しばかり気がつくのが遅かった。
逃げられないとわかって、身構える禍躬が怒りの絶叫をあげた瞬間、光が充ちて、爆音と爆風が発生、焔が渦を巻く。
破壊の嵐が収束したとき。
爆風が白い靄を吹き飛ばし、かわりに黒煙と肉が焼け焦げるニオイが一帯に充ちていた。
◇
次第に薄れゆく黒煙。
奥にて蠢く巨躯。
禍躬は恥も外聞もかなぐり捨てて、カメのようにうずくまることで爆風と炎の洗礼をしのぎ切る。
あれほどの火筒の集中砲火を浴び、焙烙玉に焼かれてもなお動く異形を前にして、さしもの勇敢な山楝蛇の隊員らの間にも動揺が走る。
一方で、禍躬は全身傷だらけとなりながらも悠然たるもの。
さぁ、そろそろ反撃だとばかりに、シャクドウの隻眼がぎらりと光り凶悪な笑みを浮かべる。どれからかじってやろうかと周囲をねめつけ、舌なめずり。
これは敗北か?
必殺の陣が破れ、万策尽きたのか?
いいやちがう! その証拠にこの場面で飛び出す者たちがいた。
右からは緒野正孝。雄叫びとととに愛槍の天霊矛を引っ提げ推参。
左からはビゼンとコハク。二頭の山狗が歩調を合わせ並び疾駆。
正面より南部弥五郎。手にする火筒・可変忠吾式に込められてあるのは女鍛冶師・冬毬より託された深緑色の弾丸。
三方より肉迫する敵勢。
これを「こしゃくな」と迎え討たんとする禍躬シャクドウであったが、そのときのことである。ふいに足下が沈んだ。焙烙玉の衝撃により痛んだ石畳は、禍躬の巨体を支え切れない。
忘れられし都の地下には、無数の経路がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされてある。
最初にこれを利用して奇襲を仕掛けてきたのはシャクドウ。
だから今度はお返しだとばかりに南部弥五郎が仕掛ける。
崩れた地面に足をとられたシャクドウ、なんとか逃れようとするも足掻くほどに、よりその身が沈み深みにハマる。ついには下半身が埋まってしまった。
禍躬を封じる。それこそが第五の策。
第一から第四までの策はすべてこのための布石。
身動きできなくなった禍躬シャクドウ。
そこへ緒野正孝らがおどりかかる!
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