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063 総攻撃
しおりを挟む白銀の大剣ミヤビに乗剣して疾走する。
上空を旋回しているわたしのすぐうしろには漆黒の大鎌と蛇腹の破砕槌が、さらに後続には九百九十四もの天剣たち。
わたしを含めて千の軍団がまるで一個の生き物のように動く。天剣の集合体である龍がうねる。
これを撃ち落とさんと地上より黒き獣が放つは、黒い焔。
口を開けての咆哮とともに「轟っ!」と吐き出す。炎が渦となり火柱となって天を突く。
ただしそれは敵を焼き尽くすような極炎ではない。見た目の苛烈さとは裏腹に熱を奪い凍えさせる。すべてを呑み込む滅びの炎であった。
迫る黒い焔をかわした直後、わたしは目撃する。
黒い焔がほんの少しかすっただけなのに、砂丘の上部がごっそりえぐれてしまった姿を。
古代に超高度な魔道科学文明にて栄華を極めた国ブラフマール。彼らの手によって産み出された双子の人造神。
姉の擬神サノミタマは異界より膨大なチカラを引き出せるチカラを持つ。
弟の擬神ウノミタマはその逆。すべてを奪い、吸い込み、強制的に異界へと送る穴のような存在。
黒い焔は、火のように見えるがその正体は穴と同じ性質をもつ恐るべきもの。
「アレにちょっとでも触れたらダメだ! みんな気をつけて」
剣の母の声に、天剣たちが「おうっ」と勇ましく答える。
次々と放たれる黒い焔をかわしつつ、わたしは天剣たちを三つの部隊に分けた。
第一部隊はわたしとミヤビが率いる。第二の部隊をアンが、第三の部隊をツツミにまかせる。
◇
三方よりの波状攻撃。
いかに強力とて黒き獣の口はひとつきり。的が絞れずにキョロキョロ。
一方に顔を向けて焔を吐いている隙に、背後や横の死角から仕掛ける。
わたしたちの攻撃が通るたびに、ボロボロと黒き獣の身が削れて壊れていく。
「よし、このままチクチク、確実に堅実に」
わたしがみんなに檄を飛ばそうとしたところで、それは起きた。
黒き獣が四肢を踏ん張り固まったかとおもえば、突如として全身をぶるるんとふるわせたのである。雨などに濡れそぼった獣がカラダについた水を払うかのような動作。
瞬間、黒き獣が倍以上にも膨らんだ。同時に散乱されたのは大量の黒い焔の玉。大きさはせいぜい幼子ぐらいか。でも宿す性質は同じにて、触れたらたちまち異界へと放出されてしまう。そんなシロモノが周囲に雨あられとまき散らされたものだからたまらない。
わたしは「なっ、さ、散開っ!」と叫び、あわわてて回避行動をとる。
黒き獣に群がっていた天剣たちも蜘蛛の子を散らしピューッと逃げた。
いち早く敵の異変に気がつけたおかげで仲間たちに被害こそは出なかったものの、危ういところであった。しかし……。
「マズイね。芸達者になっている。ここにきてじょじょにウノミタマがあのカラダに順応し始めているっぽい。あれで死の砂漠をシュタシュタ駆けられたら、やっかいだよ」
疾走しながら黒い焔の玉を大量に散布とか、考えただけでゾッとする。
そればかりかいずれ空をも駆けかねない。そうなったら本当に手に負えなくなる。
こうなったら空という領域と機動性という優位を保っているうちにケリをつけるしかない。
なんぞと考えていたら、いつのまにやらツツミが率いていた第三部隊の姿どこにも見当たらない。
「あれ、どこまで逃げたのかしらん」
と首をひねっていたら、ちがった。
ツツミたちはたしかに黒い焔の玉の雨から退避していたものの、向かった先がわたしたちとは異なっていた。なんと、ツツミたちは地面の下へと潜っていたのである。
柔らかい砂の下を突き進んだ第三部隊。彼らが飛び出したのは黒き獣の直下。
三百を超える天剣たちが黒き獣の腹部に集中。幾筋もの光が次々とその巨体にぶち当たり、あるいは突き抜けさえもする。
そして第三の天剣・大地のつるぎツツミの自重変化能力が発動。
ピコンと振り抜かれた蛇腹の破砕槌による一撃にて、黒き獣の四肢がついに地面から離れた。
宙へとかち上げられた黒き獣。
そこに左右から殺到するのは第一部隊と第二部隊。
第一の天剣・勇者の剣ミヤビが黒き獣の右前足を斬っ!
第二の天剣・魔王の剣アンが黒き獣のうしろ左足と尾を断っ!
たまらず大口を開けて黒い焔を吐こうとしたウノミタマ。その口にわたしは腕を向ける。すぐさま袖口がほつれてのびたのは紅紐。作業着に変じている第五の天剣・月のつるぎベニオの一部がぐるぐる巻き。開きかけた口をムリヤリ抑え込む。
黒い焔を封じたところに他の天剣たちが一斉に襲いかかる。
色とりどりの無数の光に貫かれて、黒き獣が身悶える。
と、ここで頭に被っている麦わら帽子がもぞもぞ。
第四の天剣・太陽のつるぎムギの強い想いをくみとり、わたしは彼女をはずしすぐさま投げ放つ。とたんに麦わら帽子が高速回転を開始。向かったのは黒き獣の首。円刃がノドのあたりを真一文字にざっくり切り裂く。
身動きもままならない状態にて天剣たちからよってたかって攻め立てられ、ビクンと大きく背を反らした黒き獣。
痛々しいまでの青さをたたえていた双眸。その瞳からふっと色味が失せてくすんだ。
とたんに四肢がだらり、尾も垂れる。
ゆっくりと傾いでいく黒き獣、その巨体がついに砂の海へと落ちた。
ズシンという凄まじい音。衝撃により大気がふるえた。盛大に砂塵が舞い上がり、視界がすっかり砂に埋め尽くされる。
じきに風によって砂が払われて視界が戻ってきたとき。
砂の海には大きな黒い水たまりのようなものが出現していた。
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