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059 無限の戦地獄
しおりを挟む前方に立ちふさがる二体の砂の兵士たち。
同時にくり出された剣をかわす。
駆け抜けざま、銀閃を走らせ一刀のもとにまとめて屠る。
だがその先に待っていたのは大盾を構えた一団。ザザザと砂を踏みしめながら右回りに円を描くようにして隊列が移動。たちまちわたしを中心にした円陣が形勢される。
包囲が完了したところで盾の隙間からにょきっと生えたのは槍の穂先。前後左右から一斉に鋭い突きがのびてくる。
それを地に這うようにしてやり過ごす。低い姿勢のまま漆黒の大鎌を構え、ぶぅんと横薙ぎ、コマのように回る。黒い刃が刈り取ったのは盾を持つ砂の兵士たちの膝から下の部分。
支えを失い盾の壁が崩れる。
わたしはこれを飛び越えて外へと。
宙にいるとき、どこぞより矢を射かけられるも打ち払う。
そのまま着地。
だが直前に地面が爆ぜる。地中より姿を見せたのは砂の禍獣。ギザギザの牙が無数に生えた大口を開けてこちらをひと呑みにせんとする。
させじとわたしは蛇腹の破砕槌を振り下ろす。
小爆発が起こり、一帯の敵勢もろとも消し飛ばしたものの、息つく暇もなく突撃してきたのは砂の騎兵の集団。砂塵を巻き上げながら猛然と迫る。
横っ飛び。こちらを跳ね飛ばさんとする馬体と蹄たちをかわす。
すかさず放ったのは紅紐。身に着けている作業着の裾からするするのびた紐が、集団の先頭近くにいるウマの後ろ足にからみつく。たちまち転倒。後続がこれに巻き込まれ多重事故を起こし、みるみる被害が拡大していく。
首のうしろがぞくり。
背後に殺気を感じて、わたしはしゃがみ込んだ。
直後に頭上を通り過ぎる剛腕。森の暴れん坊と呼ばれるヨロイグマを模した砂の禍獣による一撃。
ノドもとに白銀の大剣の切っ先を突き入れ、首をかき斬りこれを黙らせる
するとまたしても飛んできた矢。
今度は打ち払わずに半身を引いてかわす。はずれた矢はちょうどこちらへと踊りかかろうとしていた砂の兵士の右目へと吸い込まれた。
続けて第二、第三射が続く。
狙いは正確にて威力もある。でも射手の位置が確認できている時点で、今のわたしであれば充分に対処できる。けど放置するのもうっとうしいので先に仕留めようかとしたとき、上空の異変に気がつく。
はっと見上げればちょうど矢の雨が降り注いでくるところであった。
先の射撃はこれから注意をそらすための囮。
敵味方もろともに容赦なく襲いかかる矢の雨。かなり範囲が広い。いまから駆けたのではとても逃げ切れない。そう判断したわたしは、近くにいた敵兵の一体を柄頭で打ちすえ、襟元をむんずと掴むなり、その身を盾とした。
◇
どうにか矢の雨をやり過ごし、囮役であった射手を斬り伏せる。
わたしはここでようやく「ふぅ」とひと息つく。
ここまでは問題なく戦えている。カラダも怖いぐらいによく動く。
でも、じょじょにだが敵勢の連携が良くなってきている。こちらの動きを見越したかのような布陣も増えてきた。攻め手もより巧妙に。
ウノミタマが着実にチカラの操作に慣れはじめている証拠。
「マズイな。このままだといずれ押し切られる……」
事態を打開すべく、わたしはミヤビに乗っていったん空へと向かおうとした。可能ならば上空から大技を連発して地上を席捲するつもりであった。
でも飛び上がった直後のことである。
彼方から轟音を引き連れ向かってきたのは砂の砲弾。
狙いすました精密射撃を受けてしまう。
「くっ、これは避けきれない。ならばっ!」
とっさにツツミで打ち払う。軌道をそらし直撃こそはまぬがれたものの、すぐそばに着弾。同時に多数の敵を巻き込んで盛大に爆ぜた。
生じた爆風と砂塵にあおられわたしは地面に叩き落とされる。
すぐに立ちあがって砲弾が飛んできた方向をキッとにらむ。水の才芽の応用による遠目の術を発動。すぐさま視界に変化が生じて彼方の景色が鮮明になる。
砂山を三つほど超えた先に砂の巨人の姿があった。
ただし最初の頃とはちがって、全身が鎧のような姿となり、右腕が砲塔のように変わっていた。移動砲台と化している。そんなシロモノが戦場の外縁部に何体も配置されており、四方八方より機をうかがっている。
これでは空に逃げられない。
空がダメならば地上で応戦するしかない。
こちらも大技で対抗する。
第一の天剣・勇者のつるぎミヤビの白き焔が炸裂し、敵勢を消し飛ばす。
第二の天剣・魔王のつるぎアンが黒き竜巻となって戦場を席捲し、敵勢を斬り裂く。
第三の天剣・大地のつるぎツツミが地を割り、数多の敵勢を地の底へと引きずり込む。
第四の天剣・太陽のつるぎムギが片っ端から吸引してはこれを吐き出し、敵勢を翻弄。
第五の天剣・月のつるぎベニオが大群をまとめて縛り上げて、そのままくびり千切る。
わたしこと剣の母あらため金炎乙女は、天剣五姉妹たちが切り開いてくれた道を駆け抜け、やっかいな砂の巨人のもとへ。
黄金色の炎をまとった右の手刀にて胸に大穴を穿ち、やっかいな砲腕を切り落とし、同じく黄金色の炎をまとった左の拳にて頭部を粉砕する。
けれども戦局が大きく動くことはない。
倒しても倒しても切りがないからだ。すぐに復活してくる砂の軍勢。
幾重にも張り巡らされた包囲陣。ひとつを破ってもすぐあたらしいのが外縁部に出現する。
いまや死の砂漠は無限の戦地獄と呼ぶにふさわしい場所になっている。
やはり大本であるウノミタマをどうにかしないと。
でもその方法がわからない。いまの彼には核と呼べる部位がもう存在していない。死の砂漠が、その砂の一粒一粒、細部にまで魂が宿り、同化がさらに進行して完全に融合を果たしている。そればかりか黒に塗り替えられた世界すらもが彼なのだろう。
奇しくも双子の姉である擬神サノミタマが北の異界と一体化したのと同じ状態になった弟。ただしこちらは自由に動ける分だけずっと性質が悪い。
対するわたしたちがいましていることは、延々とどこまでも続く砂浜をスコップでほじくり返しているようなもの。これで砂浜自体を、世界をどうにか出来るわけがない。
いったいどうしたらウノミタマを倒せる?
狂った擬神の暴走を止められる?
どうしたら……。
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