剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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057 白銀の絶刃

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 のびてきた砂の巨人の腕。
 それを白銀の大剣にて一刀のもとに退ける金炎乙女。すかさず空いている手にて漆黒の大鎌を掴むなり、ぶん投げた。
 激しく回転する大鎌。黒い円刃が砂塵を巻き上げながら疾走。前方にいた砂の巨人のみならず、そのうしろにいた他の二体をも切り裂く。

 砂の巨人たちが群がってきては、わらわらと腕をのばしてくる。
 それらを金炎乙女はひらりふわりと舞うようにかわし、銀閃にて切り刻む。
 業を煮やした砂の巨人たちが肩を組み我が身を壁とし、四方よりひと息に獲物を包み込み、押し潰そうとする。
 たちまち砂に呑まれてしまった金炎乙女。その姿が見えなくなった。
 直後のこと、ついさっきまで彼女が立っていた場所に波紋が起こる。
 大きく波打つ砂の海。たゆんだ地面が爆ぜ、盛大な砂柱があがった。
 砂柱を中心にて発生した衝撃波が全方位へと向けて放たれる。
 見えない風の障壁にはじかれた砂の巨人たちがなぎ倒され、ズシンと尻もちをつくことになった。これを成したのは金炎乙女の手にあった蛇腹の破砕槌である。

 べつの砂の巨人が突っ込んでこようとしていた。
 金炎乙女に肩から体当たりを敢行。その大きな体が途中で崩れて砂の津波となって襲いかかる。巻き込まれたらひとたまりもあるまい。
 だというのに逃げるそぶりを一切見せず、真正面から迎え討つ金炎乙女。
 突き入れるがごとく投擲された白銀の大剣。
 鋭い切っ先が砂の津波に大穴を穿ち、流れを蹴散らし砂の津波を粉砕する。

 叩きつけるように振り下ろされたのは新たな砂の巨人の拳。
 かわした金炎乙女がその身に張りついた。
 土の才芽にて足場を次々と産み出しては、そこを伝ってずんずん登っていく。
 これを邪険に払おうとする砂の巨人。しかし失敗。今度は手の甲の方へと移動されてしまう。そこからさらに腕伝いに駆け続ける金炎乙女、向かうは頭部。
 させじと放たれた手の平の一撃は足を加速することで逃れ、勢いのままに突撃。ついに肩から首筋へと辿り着き、見事に太い首を刎ねてみせた。
 ゆっくりと傾いでいく巨体から白銀の大剣に乗って退避。
 すぐさま次の相手を求め移動する。

  ◇

 砂の巨人たちと天剣を有する金炎乙女の戦いは熾烈を極める。
 今のところは両者のチカラは拮抗しているものの、それもいつまで続くことか。
 何せ片方は砂の塊。いくら斬ってもじきに再生しては復活する。
 それがわかっているからこそ、あえて無理はしないウノミタマ。じりじりと真綿で首を締めるようにして追い詰める算段なのだろう。なにせ絶望の果ての死こそが魂の味を極上にし、無念の想いこそが命をもっとも強く輝かせるのだから。

 激しい攻防のさなか。
 巨人のうちの一体だけが、つねに戦いの輪の外にいることに金炎乙女は気がつく。
 思い出したのは地下の空間で目にした石牢の櫃のこと。あれこそがウノミタマの本体。
 この砂の巨人たちはいわば操り人形のようなもの。だったら叩くべきはそれを操る本体の方である。
 だからとてあからさまに狙ったところで対処されるだろう。
 広大な砂漠の海のどこかに身を潜められては、おいそれとは見つけられなくなる。
 ゆえにここはあせらずじっと機会が来るのを待つ。勝機が必ず来ると信じて。

 四体の砂の巨人が寄り集まったとおもったら、突如として崩れて混ざり合う。
 それらが渦を巻き発生させたのは砂嵐。
 直接的な攻撃力こそはないが、行動を阻害し視界を遮るのにはうってつけの攻撃。
 その効果のほどは剣の母チヨコを拉致したことにより実証済み。強烈な砂嵐の中では天剣とて本来のチカラを発揮できない。
 だからふたたび砂の罠にからめとってやろうとウノミタマは仕掛けた。
 しかし十三体のうちの四体もの数が一度に減ったことによって、ほんの一時的にではあるが包囲網にほころびが生じる。
 わずかな間隙、だが金炎乙女と白銀の大剣にとってはそれで充分であった。

 砂塵の幕によって双方の姿が隔てられた瞬間!
 漆黒の大鎌がふるわれ、空間に裂け目が出現する。
 第二の天剣・魔王のつるぎアンによる空間転移能力が発動。つなげた先はウノミタマの本体が宿る石牢の櫃を腹に抱えている砂の巨人の直下。
 蛇腹の破砕槌を両手でしっかり握り大きく振りかぶった金炎乙女。狙いすました一打を放つ。真芯で捉えたのは白銀の大剣の柄頭。
 第三の天剣・大地のつるぎツツミによって打ち出されたのは、第一の天剣・勇者のつるぎミヤビ。
 当たる刹那にツツミの自重変化能力が発動、とてつもない重さが込められた打撃によって空前絶後の瞬発力が産まれる。
 かつてない初速を得たミヤビが転移空間に突入、勢いのままにさらに己の速さを上乗せしての超加速。

 銀の光がパッとはじけてすぐに消えた。
 あまりの速さゆえに目ではとても追いきれない。
 すべてを斬り裂く光の絶刃。
 軌跡が白銀の線となり天と地が結ばれる。
 直線上にいた砂の巨人。その身が股下から脳天へと向けて一刀両断された。
 左右の半身がゆっくりと上下にズレてゆく。それを止めようと自分のカラダを抱きしめようとしたところで砂の巨人が瓦解し、塵へと帰る。
 あとに残った砂山には真っ二つになった石牢の櫃の姿があった。


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