57 / 67
057 白銀の絶刃
しおりを挟むのびてきた砂の巨人の腕。
それを白銀の大剣にて一刀のもとに退ける金炎乙女。すかさず空いている手にて漆黒の大鎌を掴むなり、ぶん投げた。
激しく回転する大鎌。黒い円刃が砂塵を巻き上げながら疾走。前方にいた砂の巨人のみならず、そのうしろにいた他の二体をも切り裂く。
砂の巨人たちが群がってきては、わらわらと腕をのばしてくる。
それらを金炎乙女はひらりふわりと舞うようにかわし、銀閃にて切り刻む。
業を煮やした砂の巨人たちが肩を組み我が身を壁とし、四方よりひと息に獲物を包み込み、押し潰そうとする。
たちまち砂に呑まれてしまった金炎乙女。その姿が見えなくなった。
直後のこと、ついさっきまで彼女が立っていた場所に波紋が起こる。
大きく波打つ砂の海。たゆんだ地面が爆ぜ、盛大な砂柱があがった。
砂柱を中心にて発生した衝撃波が全方位へと向けて放たれる。
見えない風の障壁にはじかれた砂の巨人たちがなぎ倒され、ズシンと尻もちをつくことになった。これを成したのは金炎乙女の手にあった蛇腹の破砕槌である。
べつの砂の巨人が突っ込んでこようとしていた。
金炎乙女に肩から体当たりを敢行。その大きな体が途中で崩れて砂の津波となって襲いかかる。巻き込まれたらひとたまりもあるまい。
だというのに逃げるそぶりを一切見せず、真正面から迎え討つ金炎乙女。
突き入れるがごとく投擲された白銀の大剣。
鋭い切っ先が砂の津波に大穴を穿ち、流れを蹴散らし砂の津波を粉砕する。
叩きつけるように振り下ろされたのは新たな砂の巨人の拳。
かわした金炎乙女がその身に張りついた。
土の才芽にて足場を次々と産み出しては、そこを伝ってずんずん登っていく。
これを邪険に払おうとする砂の巨人。しかし失敗。今度は手の甲の方へと移動されてしまう。そこからさらに腕伝いに駆け続ける金炎乙女、向かうは頭部。
させじと放たれた手の平の一撃は足を加速することで逃れ、勢いのままに突撃。ついに肩から首筋へと辿り着き、見事に太い首を刎ねてみせた。
ゆっくりと傾いでいく巨体から白銀の大剣に乗って退避。
すぐさま次の相手を求め移動する。
◇
砂の巨人たちと天剣を有する金炎乙女の戦いは熾烈を極める。
今のところは両者のチカラは拮抗しているものの、それもいつまで続くことか。
何せ片方は砂の塊。いくら斬ってもじきに再生しては復活する。
それがわかっているからこそ、あえて無理はしないウノミタマ。じりじりと真綿で首を締めるようにして追い詰める算段なのだろう。なにせ絶望の果ての死こそが魂の味を極上にし、無念の想いこそが命をもっとも強く輝かせるのだから。
激しい攻防のさなか。
巨人のうちの一体だけが、つねに戦いの輪の外にいることに金炎乙女は気がつく。
思い出したのは地下の空間で目にした石牢の櫃のこと。あれこそがウノミタマの本体。
この砂の巨人たちはいわば操り人形のようなもの。だったら叩くべきはそれを操る本体の方である。
だからとてあからさまに狙ったところで対処されるだろう。
広大な砂漠の海のどこかに身を潜められては、おいそれとは見つけられなくなる。
ゆえにここはあせらずじっと機会が来るのを待つ。勝機が必ず来ると信じて。
四体の砂の巨人が寄り集まったとおもったら、突如として崩れて混ざり合う。
それらが渦を巻き発生させたのは砂嵐。
直接的な攻撃力こそはないが、行動を阻害し視界を遮るのにはうってつけの攻撃。
その効果のほどは剣の母チヨコを拉致したことにより実証済み。強烈な砂嵐の中では天剣とて本来のチカラを発揮できない。
だからふたたび砂の罠にからめとってやろうとウノミタマは仕掛けた。
しかし十三体のうちの四体もの数が一度に減ったことによって、ほんの一時的にではあるが包囲網にほころびが生じる。
わずかな間隙、だが金炎乙女と白銀の大剣にとってはそれで充分であった。
砂塵の幕によって双方の姿が隔てられた瞬間!
漆黒の大鎌がふるわれ、空間に裂け目が出現する。
第二の天剣・魔王のつるぎアンによる空間転移能力が発動。つなげた先はウノミタマの本体が宿る石牢の櫃を腹に抱えている砂の巨人の直下。
蛇腹の破砕槌を両手でしっかり握り大きく振りかぶった金炎乙女。狙いすました一打を放つ。真芯で捉えたのは白銀の大剣の柄頭。
第三の天剣・大地のつるぎツツミによって打ち出されたのは、第一の天剣・勇者のつるぎミヤビ。
当たる刹那にツツミの自重変化能力が発動、とてつもない重さが込められた打撃によって空前絶後の瞬発力が産まれる。
かつてない初速を得たミヤビが転移空間に突入、勢いのままにさらに己の速さを上乗せしての超加速。
銀の光がパッとはじけてすぐに消えた。
あまりの速さゆえに目ではとても追いきれない。
すべてを斬り裂く光の絶刃。
軌跡が白銀の線となり天と地が結ばれる。
直線上にいた砂の巨人。その身が股下から脳天へと向けて一刀両断された。
左右の半身がゆっくりと上下にズレてゆく。それを止めようと自分のカラダを抱きしめようとしたところで砂の巨人が瓦解し、塵へと帰る。
あとに残った砂山には真っ二つになった石牢の櫃の姿があった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
リュッ君と僕と
時波ハルカ
児童書・童話
“僕”が目を覚ますと、
そこは見覚えのない、寂れた神社だった。
ボロボロの大きな鳥居のふもとに寝かされていた“僕”は、
自分の名前も、ママとパパの名前も、住んでいたところも、
すっかり忘れてしまっていた。
迷子になった“僕”が泣きながら参道を歩いていると、
崩れかけた拝殿のほうから突然、“僕”に呼びかける声がした。
その声のほうを振り向くと…。
見知らぬ何処かに迷い込んだ、まだ小さな男の子が、
不思議な相方と一緒に協力して、
小さな冒険をするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる