剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

文字の大きさ
上 下
48 / 67

048 砂の罠

しおりを挟む
 
 ノドに噛みつかれてじたばたしていた白銀の小龍。ゴキリとイヤな音がしたとたんに、長い身がチカラを失ってだらりとなる。
 くわえたままで三度ばかりぶんぶん振り回した黒い小龍。真上へと放り投げた。
 ふっと白銀の小龍の姿がかき消え、もとの封魔の短剣となる。
 落ちてきた短剣を待っていたのは大口を開けた黒い小龍。
 牙にて噛み砕きゴクンと呑み込む。
 ひょうしに黒い小龍の身がさらに膨れて、ついには中龍ぐらいの大きさとなる。

「うそでしょう……、封魔の短剣が負けたの?」

 擬神サノミタマと異界を結んでいる神器の鎖。それと同じ材質で造られたとされる品が粉々に破壊された。
 それすなわち神をも縛る鎖を断ち切れるほどのチカラを擬神ウノミタマが有しているということ。
 黒き中龍、ぬめりを帯びた大きな瞳がギョロリとこっちを向いた。
 呆然としているわたしの脳裏に「クスクス」という笑い声が響く。

『やだなぁ、何をそんなに驚いているんだい、剣の母チヨコ。当然だろう。姉さんがちっぽけな世界を治めるのに汲々としている間、ボクがいったいどれだけの魂を、大地の気を、血や肉や命を、愛や希望、羨望に欲望に野心、死と絶望を喰らったと思っているんだい? あの程度のチカラで抑え込めるわけがないだろう』

 ペロリと舌なめずりをした黒き中龍。

『ちょっと予定が狂っちゃったけどまあいいさ。前菜はたいらげたことだし、そろそろ主菜をいただくとしようか。はじめてキミたちのことを知ったときからずっと愉しみにしていたんだよね』

 黒き中龍こと擬神ウノミタマが口にした主菜の意味を知り、わたしは戦慄しつつもすぐさま帯革よりアンとツツミを放ち、自身はベニオの変身した作業着姿となった。

「こうなったら、もうやるしかない! いくよ、みんなっ」

 かくして天剣五姉妹を率いる剣の母と擬神ウノミタマの戦いが始まる。

  ◇

 漆黒の大鎌、第二の天剣・魔王のつるぎアンが激しく回転。円刃となりて先行し空を駆ける。
 これに白銀の大剣、第一の天剣・勇者のつるぎミヤビに乗ったわたしが続く。
 擬神ウノミタマがひと噛みにせんと牙を向けるも、アンはひらりとかわし龍体の表面を転がるようにして走り抜ける。この攻撃により黒き中龍の肌に裂傷の線があらわれ、黒くドロリとした体液が飛び散り、「がぁぁっ」とウノミタマが苦しそうな声をあげた。
 これを見てわたしは「イケる! こっちの攻撃がちゃんと通じている」と勇んで、ミヤビにて突撃を敢行。
 空中にて交差する刹那。
 ミヤビの剣身に施された精緻な模様が輝き、刃に白き焔をまとう。
 黒き中龍の横っ腹を真一文字に、斬っ!
 かなりの深手を負わせたのみならず、傷口にて燻る白い炎。ちりちりとウノミタマの身を焦がす。
 でもまだわたしたちの連撃は終わらない。いつの間にかミヤビよりずっと後方へとのびている紅い紐のひらひら。
 それは第五の天剣・月のつるぎベニオが変じている作業着の袖の一部より生じたモノ。
 紐の先に結ばれてあったのは巨大な蛇腹の破砕槌、第三の天剣・大地のつるぎツツミ。
 高速飛行するミヤビにグンっと引っ張られ、存分に加速した破砕槌。勢いのままに黒き中龍の顔面にぶち当たる。その瞬間、ツツミの自重変化能力が発動!
 いつもは取っ手を握るチヨコの身を案じて抑えているけれども、今回はその枷がないので遠慮なし。

 ズゥシン!

 地の底から届くような重苦しいくぐもった音が帝都上空に鳴り響く。
 長い龍体を大きくのけ反らせた擬神ウノミタマ。痛みのせいでのたうち回っている。
 ここまではひょうし抜けするぐらいに一方的な展開。わたしたちが攻め立てるばかり。
 なのに黒き中龍がさっきから執拗にくり返しているのは単純な噛みつきばかり。
 どうやら身に触れただけでは魂や肉体を浸蝕されないらしい。
 それはこっちにとってはありがたい話。けれども、わたしはどうにも解せない。
 たしかにこちらの攻撃は当たっている。手ごたえもある。なのにちっとも勝利が近づいている気がしないのだ。むしろ遠ざかっているような印象すらも受ける。
 ぶっちゃけ抵抗が弱すぎるのだ。
 いかに人造とはいえ神の名を冠する者。さっき自分でも言っていたではないか。いろんなモノを大量に喰らってきたと。
 空飛ぶ巨体というだけでも脅威といえば充分すぎる脅威だけど、これまでにわたしと天剣たちが対峙してきた強敵たちに比べると、いまいち感が拭えない。
 もしかして何か狙いがあるのか?
 だからとて様子見をしている余裕はない。
 いまのわたしたちに出来ることはひたすら攻撃することだけ。
 擬神ウノミタマが何をたくらんでいるとしても、それごと粉砕するのみ!

「まずはヤツを帝都の外へ追い出そう。そうすればこっちも気兼ねなく大技が使える」

 縮んだ紅紐にて手元にやってきたツツミを持って、アンの援護を受けながら突進。
 さらなる追撃を黒き中龍に喰らわせる。
 わたしが大きく振りかぶった蛇腹の破砕槌はまたしても大当たり。
 ガツンと相手を吹き飛ばす。
 ミヤビにて飛び、加速しながらのツツミによる殴打。この攻撃が決まること六度。

「よし! このまま押し切るよっ! そしていっきにトドメを……」

 わたしの言葉が最後まで発せられることはなかった。
 ふたたび殴りかかろうとしたところで、黒き中龍の目が笑っているのが見えたから。
 ゾクリとイヤな予感がして、ハッと気づいたときには眼下に広がっていたのは四方を壁に囲まれた砂地。
 ここは帝国の人間たちが才芽を授かるという得体の知れない場所。そして以前にシャムドと見学に訪れたときに、何者かの視線を感じたところでもある。
 突如として大量の砂塵が渦を巻き吹きあがった。
 上空にいたわたしの視界が一瞬にして砂に埋めつくされる。
 激しい砂嵐。たまらず腕をかざして顔を守ろうとしたところで、後方からグイっと引っ張られた。砂嵐の中からのびてきた何者かの腕により、わたしの身が白銀の大剣より引き剥がされる。

「チヨコ母さまーっ」

 ミヤビがの悲痛な叫びが聞こえたと思ったら、たちまち遠ざかった。
 砂の奔流に呑み込まれ成す術なし。わたしに出来ることといったら固く目を閉じて、息を止めていることだけであった。


しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

処理中です...