剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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047 黒と白銀の大蛇

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 わたしの持つ水の才芽、天剣、星香石、三つの奇跡が合わさることで産み出される万能薬。
 先天性の心臓の病すらも治し、死にかけの人間をも生き返らせる。
 かつてクンルン国の試練の迷宮において暗殺者の毒牙にかかったアスラは、これによって一命をとり留めた。
 だからきっと大丈夫。ラクシュ殿下は助かるはずだ。
 わたしには自信というよりも確信があった。事実、その通りとなる。
 しかし一つだけ誤算が生じる。
 ラクシュ殿下が自ら切り落とした腕が元に戻ることはなかったのである。

「ぐっ、どうして、どうしてなのよ! はっ、もしかしてわたしがミヤビで傷口を焼いてしまったからなの……」

 流れ出る血を止めないと。その一心での行為が裏目に出たのかと動揺するわたしに、ミヤビが「ちがいますわ、チヨコ母さま」と声をかける。「おそらくはあの影に浸蝕されたがゆえかと。内部に入り込まれたひょうしに魂をかじられたせいですわ」

 肉体を器とし、魂は水と考えると理解しやすい。
 湯飲みにお茶を注げば、お茶という液体は湯飲みの形となる。水筒に水を入れれば、水は水筒の形になる。
 万能薬はあくまで生物のカラダを、器の方を修繕するためのクスリ。
 中身である魂を補充したり、欠損した分を補填したりまではできない。それが可能なのは神々のみ。
 入れ物も中身も失ってしまってはいかに奇跡の秘薬とてどうしようもない。せめてどちらか一方でも残っていればあるいは……。
 ミヤビの説明を聴きながら、痛々しい姿となったラクシュ殿下を見つめ、わたしはギリリと歯噛みする。
 ヤバい相手だとは承知していた。けれども想像以上に性質が悪い。
 操るとかそんな生ぬるい次元の話じゃない。肉体どころか魂にまで干渉するとか、まさに全生命の天敵みたいなヤツだ。

「あの影は、いや、擬神ウノミタマだけは放置していたらダメだ。封魔の短剣だけにはまかせてはおけない。わたしたちも行くよ!」

 わたしは傷ついたラクシュ殿下の身柄を遅まきながら駆けつけてくれた宮廷医師たちに預け、さっきまで自分が座っていた席へと戻る。座席の下に置いておいた愛用の背負い袋を引っ掴むなり、ミヤビに飛び乗った。
 空飛ぶ白銀の大剣が天井に開いた大穴から外へと。
 背後から届いた「チヨコ、頼んだぞ」というアスラの声にはビシっと親指を立てておく。

  ◇

 帝位継承の儀の間から飛び出したわたしは、目にした光景に唖然。
 影が変じた黒いヘビと封魔の短剣が変じた白銀のヘビ。
 当初は大蛇程度であったのが、いまや青龍さん家の子どもたちぐらいにまで大きくなっている。
 小龍同士の空中大決戦!
 そんなシロモノが上空で激しくぶつかり合っては、飛び交い、もみ合いながら落下して街並みを粉砕し、水路の堤を壊しては氾濫を起こす。それでもかまわずのたうち回り、そしてまた空へと。
 戦いの余波が周囲におよび、都内の被害は拡大の一途を辿っている。ついには火の手まであがりはじめた。
 かつて何者にも侵されたことのない地が蹂躙されている。
 帝都そのものが震えていた。
 遠目にも動揺しているのが手にとるようにわかる。
 ぶっちゃけ混乱ぶりは城内の比ではない。

「げっ! ちょ、ちょっと、アンタたち。何やってんのよ! ケンカなら壁の向こうでやりなさいよっ!」

 おもわずそう叫んでいたわたしではあったが、よもやそれが呼び水になったのか、黒い小龍が唐突に進路を変更、こっちに頭から突っ込んできた。
 それを猛追する白銀の小龍。
 轟々と風が唸り、団子になって迫ってくる二頭。

「ひょえぇぇぇえぇぇぇーっ」

 たまらず悲鳴をあげるわたし。
 あわててミヤビが回避してくれたので直撃こそは回避するも、巻き起こる暴風にはじかれグルングルン宙を舞うことに。
 ようやく体勢を整えたところで目撃したのは、帝の居城ドルヘイムダルの敷地内にある高い尖塔が三本ばかしベキバキボキとへし折られて、ゆっくり倒壊していくところ。
 でもって倒れた塔たちがそばの建物をぐしゃり。各々が立派で大きく質量があるせいで、生じる破壊力がすさまじい。
 破壊の連鎖が止まらない。城が見るも無残な姿へと……。

  ◇

 このままではマズい。
 戦いが長引くほどに帝都がしっちゃかめっちゃかになる。
 ここには大勢の人たちが住んでいる。とても看過できない。だから白銀の小龍に加勢しようとするも、黒い小龍とのくんずほぐれつが過ぎてとてもではないが手が出せない。
 拮抗する両者。実力伯仲っぽい。
 なのに攻防を見守るわたしは背筋をぞわりと這い上がってくるイヤな気配に怯えた。
 その気配といおうか予感の正体はじきに判明する。

「……母、なにかヘン」と帯革内のアンがぼそり。
「しかり、心なしか大きさが」とは帯革内のツツミ。

 はじめはその言葉の意味がわたしにはわからなかった。
 でも時間が経つごとに理解してサーッと血の気を失う。

「うそ、黒い方がどんどん大きくなっているの?」

 それは正しくもあり、まちがいでもあり。
 より正確には黒い小龍が大きくなった分だけ、白銀の小龍が小さくなっていたのである。
 戦いの渦中にあって黒い小龍が白銀の小龍を浸蝕し、喰らっている!

「いけない! このままだと」

 あわてて介入しようとするも、少しばかり手遅れだった。
 黒い小龍の牙が白銀の小龍のノド笛をガブリ。


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